『ワールド・ウォーZ(3D・字幕)』

TOHOシネマズ渋谷、スクリーン5入口脇に掲示されたポスター。

原題:“World War Z” / 原作:マックス・ブルックス(文春文庫・刊) / 監督:マーク・フォースター / 脚本:マシュー・マイケル・カーナハン、J・マイケル・ストラジンスキー、ドリュー・ゴダードデイモン・リンデロフ / 製作:ブラッド・ピット、デデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、イアン・ブライス / 製作総指揮:マーク・フォースター、ブラッド・シンプソン、デヴィッド・エリソン、デイナ・ゴールドバーグ、ポール・シュウェイク、グレアム・キング、ティム・ヘディントン / 撮影監督:ベン・セレシン,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:ナイジェル・フェルプス / 編集:ロジャー・バートン、マット・チェーゼ / 衣装:マイェス・C・ルベオ / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ブラッド・ピット、ミレイユ・イーノス、ジェームズ・バッジ・デール、ダニエラ・ケルテス、デヴィッド・モース、ルディン・ボーケン、ファナ・モコエナアビゲイル・ハーグローヴ、スターリング・ジェリンズ、ファブリツィオ・ザカリー・グイド、マシュー・フォックス / プランBエンタテインメント/2DUX2製作 / 配給:東宝東和

2013年アメリカ作品 / 上映時間:1時間56分 / 日本語字幕:松浦美奈

2013年8月10日日本公開

公式サイト : http://www.worldwarz.jp/

TOHOシネマズ渋谷にて初見(2013/08/10)



[粗筋]

 国連に勤務し、危険地帯での任務に就いていたジェリー・レイン(ブラッド・ピット)が子供たちを学校に送ろうとしていたとき、突如として惨劇が始まった。爆発が巻き起こり、呻き声を上げながら疾走するひとびとが他のひとを襲い、血肉を貪る。噛まれただけの者が、ものの12秒で襲撃者と同じ怪物に変貌するのを、ジェリーは呆然と、しかし冷静に確かめていた。

 またたく間に奇怪な暴徒によって蹂躙された街から辛うじて逃れたジェリーは、連絡を取ってきた国連事務次長ティエリー(ファナ・モコエナ)が送りこんだヘリコプターに乗り、どうにか国連の航空母艦に避難する。

 事態は極めて深刻だった。アメリカは既に首都機能を喪失、各国でも危機的状況が伝えられ、ロシアは既に連絡が途絶している。このままでは遠からぬ将来、人類は滅亡する――一時的に指揮権を掌握した軍部は、若きウイルス学者がこの爆発的に蔓延した疫病の感染源を探り出すことへの協力をジェリーに求めた。既に現役を退いていたジェリーは拒絶しようとしたが、収容能力の限界まで避難民を受け入れている母艦に一般人を残すことは難しい、と言われ、家族のためにやむなく承諾した。

 米軍が掴んだ、いちばん最初にこの爆発的感染に晒された国は、韓国。ジェリーは特殊部隊と共にウイルス学者を警護し、アメリカ軍基地に降り立つ――はずだったが、到着早々に感染者たちの襲撃を受ける。連絡は途絶えていたが、どうにか生き延びていた兵士たちによって屋内に匿われるものの、襲撃中の事故によりウイルス学者は死亡してしまった。

 頭脳を失った格好のジェリーだが、手がかりを得ないまま戻るわけにはいかない。駐韓していた兵士たちに話を聞いたところ、どうやら感染源は韓国ではないらしい。北朝鮮に情報を売ったかどで職を逐われ、基地に捕らえられていた元CIA捜査官バート・レイノルズ(デヴィッド・モース)から、この爆発的感染をいち早く察知し、都市の周囲に壁を設けてウイルスの流入を防いだのがイスラエルであることを知ったジェリーは、生き残った特殊部隊のメンバーと共にイスラエルへと赴く……

[感想]

 粗筋ではあえて言及しなかったが、はっきりと本篇は“ゾンビ映画”である。タイトルの“Z”は“ゾンビ(Zombie)”の頭文字だし、作中でもこの語を避けずに用いている。

 ただ、これまでのゾンビ物が、そのシチュエーション故にグロテスクな造型、ショッキングな描写が多くなりがちだったのに対し、本篇は意識的に残酷すぎる描写は直接見せないようにしている。ゾンビ物の魅力を主にそうした際物的な趣向に見出しているひとには不満が多いだろう。

 しかし、ゾンビ映画の備えている独特の要素、テーマ性には極めて忠実な作りなのだ。突如として始まる災厄、私たちの知っている世界が急激に壊されていく恐怖。未曾有の事態にその都度その都度非情な選択を迫られ、特異な状況だからこそ生まれうる葛藤に悩まされる。優れたゾンビ映画には、深刻な状況でしばしば笑いを誘うような出来事も描かれるものだが、本篇はそういうところまでしっかりと押さえている。表現のどぎつさ以外は、極めて正統派、と言ってもいいほどなのだ。

 本篇が従来のゾンビ映画と一線を画しているのは、観客層として決してゾンビ映画・ホラー映画のマニアに限定しようと考えていない、という点に尽きる。そのテーマ性、ホラー映画というものが死を積極的に描写するものであるが故に、多数の登場人物を必要とし、目まぐるしく視点が転換する傾向にあるが、本篇はブラッド・ピット演じる主人公ジェリーの周辺から基本的にカメラは離れない。必要に応じて家族の描写が挟まれるが、ほとんどはジェリーがその場で知覚できる出来事を中心に物語を構築している。ジェリーの人物像も、アクション映画のヒーロー的に屈強で逞しいが、多くのゾンビ映画に登場するひとびとのような奇矯さはない。シンプルだが、物語の理解を妨げず、感情移入しやすいような人物設定、語り口に配慮している。

 従来の、ジョージ・A・ロメロ監督作品が中心となって築きあげていったゾンビの生態と、本篇に登場するゾンビの描写とのあいだには隔たりがあるが、しかしそれもゾンビ映画の持つ面白さをちゃんと活かすと同時に、物語としての面白さを膨らませるために必要な種類の違いとなっているのも好感が持てる。ダニー・ボイル監督の『28日後…』以降増えてきた“全力疾走するゾンビ”を更に成長させ、手のつけられない速度で感染が広がっていくさまを圧倒的なヴィジュアルで描くかと思えば、その随所に挿入された違和感がクライマックスで主人公に天啓を齎す。この終盤でのドラマティックな展開に奉仕するアイディアは従来のゾンビものにはなかったものだが、しかしゾンビというものの性質からははみ出さず、世界観を壊していない。

 世界各地を舞台に、CGと実写とを織り交ぜ生み出された壮大な物語に、ゾンビ映画の魅力、スピリットがきちんと埋め込まれている。アクション・エンタテインメント大作として、年少者やスプラッター描写に弱い層でも抵抗なく入り込める内容でありながら、往年の名作ゾンビ映画を愛好するひとびとでも唸らされる奥行きを備えている。本篇は“ゾンビ”が幅広い層にアピールしうる題材であることを証明した、愛好家にとっても記念碑的な1本となるはずだ。

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