『チェ 28歳の革命』

『チェ 28歳の革命』

原題:“Che: Part One” / 監督:スティーヴン・ソダーバーグ / 脚本:ピーター・バックマン / 製作:ローラ・ビックフォード、ベニチオ・デル・トロ / 製作総指揮:フレデリック・W・ブロスト、アルバロ・アウグスティン、アルバロ・ロンゴリア、ベレン・アティエンサ、グレゴリー・ジェイコブス / 撮影監督:ピーター・アンドリュース / プロダクション・エグゼクティヴ:アンチョン・ゴメス / 編集:パブロ・スマラーガ / 衣装デザイン:サビーヌ・デグレ / 音楽:アルベルト・イグレシアス / 出演:ベニチオ・デル・トロデミアン・ビチルサンティアゴカブレラ、エルビラ・ミンゲス、ジュリア・オーモンド、カタリナ・サンディノ・モレノロドリゴ・サントロ、ウラジミール・クルス、ウナクス・ウガルデ、ユル・ヴァスケス、ホルヘ・ペルゴリア、エドガー・ラミレス / 配給:GAGA Communications×日活

2008年アメリカ・フランス・スペイン作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:石田泰子

2009年01月10日日本公開

公式サイト : http://che.gyao.jp/

GAGA試写室<ヘブンシアター>にて初見(2009/01/07) ※リーダー試写会



[粗筋]

 アルゼンチンに生まれたエルネスト・“チェ”・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)が革命家として立つきっかけは、フィデル・カストロ(デミアン・ビチル)との出逢いにあった。本来医師であったチェは多くの人を救いたいと、喘息の身でありながら世界各国を旅していたが、カストロと出逢ったとき、強烈なシンパシーを感じ、彼からの申し出を受け入れて、革命に乗り出す。

 時に1956年、老朽化した船に乗ってキューバに潜伏したカストロ率いる革命軍の数は82人。しかし激戦の末に生き残ったのは僅かに12人だった。カストロとチェが立ち向かった独裁者パティスタ将軍の軍勢は実に2万人を超えていたのだ。だが、それでも革命軍は勝利を収め、独裁政権を転覆する。

 後年、国連総会にキューバ代表として招かれたチェは、自分たちの革命の実態を知らない人々から“人殺し”と罵られながら、敢然とした姿勢で各国の代表と対峙する。そこにいたのは、もはや喘息持ちの理想家であった医師ではなく、イデオロギーを超えて偶像視される、カリスマ革命家であった……

[感想]

 いつになく粗筋が簡単になってしまったのは、率直に言えば語りようがないからだ。試写会の上映時間が私にとって通常仮眠を取っている時間帯、かつ体調不良も重なっていたので、ところどころで集中力が切れてしまったのもあるが、本篇はあまりストーリーというものを意識して作っていないことが大きい。

 作中では、チェ・ゲバラアメリカに滞在していた際に受けたインタビュー、という体裁で撮影されたチェ・ゲバラ自身の語りをナレーションのように挿入しているが、それ以外に状況を説明するためのナレーションなどを入れることはほとんどしていない。また、単純に時系列順に出来事を並べていくのではなく、後年のインタビューや国連総会に参加した際の映像を組み込んでいき、軽くシャッフルを施しているので、漫然と眺めていると成り行きが把握しにくいのだ。

 加えて、スティーヴン・ソダーバーグ監督は本篇を“ゲバラと共に革命を体感する”ことを企図して演出していたという。それ故に、カメラは基本的にチェの周囲を動き、あまり遠のかない。結果として、彼が主に潜伏していた山林の情景が中心となり、画面がどうしても地味になっている。ソダーバーグ監督らしく拘りに満ちたカメラワークは独特の色気を放っているが、それでも単調な印象は拭えない。

 本篇はもともと1本の作品として構想されていたが、製作の過程で規模が膨れあがり、キューバ革命の渦中を描いた前篇と、晩年のボリビアにおけるゲリラ活動から処刑までを描いた後篇との二部作に分割されたものだという。それ故にだろう、本篇は結局のところ、チェという人物の辿り着いた境地を表現する続篇への布石に終始した感が強いのだ。特に終盤、カストロと一時的に別れる場面とそのあと、エンドロール直前のささやかなやり取りは、目標を成し遂げたあとだからこその軽さと共に、あとに続く出来事を暗示する不穏さもたたえており、カタルシスは乏しい。そう考えると、本篇について正しい評価を下すためには、やはり続篇もきちんと鑑賞する必要があるだろう。

 だが、この前篇にあたる本作のみでも、チェという人物の魅力は存分に描ききっている。非常に高い理想と高潔な思想、喘息というハンデを抱えながらもそれらを実現できる行動力を備えた活動家であり、海千山千の者たちが集まる国連総会でも臆することなく、激烈だが誠実な意思を語ることの出来る論客でもある、その圧倒的なカリスマはきちんと感じ取れる。捕虜に対しても丁重な扱いを指示し、節度を失った部下には毅然と処罰を下す、そのあまりにも高潔すぎる姿勢が、やがては身近な人々の反感を買いかねない様も既に仄めかされている。自ら制作にも携わり、実に7年間にわたって慎重なリサーチを重ねてきたというベニチオ・デル・トロ渾身の演技は、見事に「これぞチェ・ゲバラ」と感じ入るレベルにまで達しており、その姿を目の当たりにするためだけにでも一見の価値はあるだろう。

 とは言え、その語り口といい表現の奥行きといい、それが更に続篇にまで繋がっていることを思うと、決して取っつきやすい作品ではない。観るなら体調を整えた上で、また後日公開される続篇『チェ 39歳 別れの手紙』まできちんと鑑賞する意思を固めてからにするべきだろう。

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