監督・脚本・企画:長江俊和 / プロデューサー:角井英之、中村和樹、濱潤、春名剛生、棚橋裕之、大橋孝史 / アソシエイトプロデューサー:浜野貴敏 / 撮影監督:平尾徹 / VE:名取征 / 美術プロデューサー:本田邦宏 / 特殊造形:柴田勇一 / VFX:本田貴雄 / 編集:関原忍 / 選曲・効果:樋口謙 / 音楽:王健治 / 出演:紀藤正樹、吉岡誠司、佐藤信夫 / ナレーター:鈴木ゆうこ / 制作プロダクション:ネビュラ / 宣伝・配給:Jolly Roger×Pony Canyon
2008年日本作品 / 上映時間:1時間36分
2008年9月3日公開
2009年2月27日DVD最新盤発売 [bk1/amazon]
公式サイト : http://www.housoukinshi-movie.com/
DVDにて初見(2009/08/27)
[粗筋]
2007年4月16日、取材ディレクターはとあるビルの一室で、仮面の女と面会する。七川ノラムと名乗る彼女は、闇サイト『シエロ』を運営していた。そこで請け負っているのは、“復讐”である。
依頼を受けると、ノラムはまず復讐の対象者に罠を仕掛け、依頼の妥当性を調査しているようだ。ディレクターはノラムからの情報提供を受けて、ある女性を追跡する。
その女性はあるクラブでホステスをしているが、自分に懸想した客相手に結婚詐欺を働き、複数の男性を破滅に追いやった、という。ノラムはチェックシートを用意、ネットで雇った男に客を装って問題のホステスに接触させると、訴え通りの行動を起こすか、慎重に確かめた。
結果は、クロ。ホステスの行為はまさしく結婚詐欺そのものだった。ある晩、ホステスは取材スタッフの見ている前で拉致され、直後にスタッフはとある廃ビルに呼び出される。そこでノラムは、ホステスに“復讐”を執行するのだった……。
その後もディレクターは“復讐執行人”ノラムの密着取材を、68日に跨って続けた。だが最後の日、取材は異様な形で終わりを告げる……
[感想]
フジテレビ系列の深夜枠にて不定期で放送され、好評を博した『放送禁止』シリーズ初の劇場版であり、公開直前にテレビで放送された『放送禁止6 デスリミット』と対を為す作品である。
先に『デスリミット』が必見、という感想が多かったので私もそちらを観た上で鑑賞したのだが、しかし絶対に観なくてはいけない、というほど『デスリミット』の内容に依存しているわけではない、と感じた。確かに、あとから『デスリミット』を観てしまうと、肝心の仕掛けが明かされているため興醒めになってしまうし、本篇の描写はあちらで仄めかした部分を踏まえているものも多いので、隅々まで味わおうと思うなら、シリーズの他の作品はともかく、『デスリミット』を観ておく必要はあるだろう。
しかしこの作品は、そうした構造上の欠陥よりも、本篇の中で提示される事実自体が随所で矛盾を起こしていることのほうが問題だ。作中で説明されている真相がその通りだとすれば、そもそもこの作品はこういう形で取材されることはなかっただろう。終盤、取材者がある事件に深く関与してしまっている、という、放送禁止以前に取材者や放送局が社会的責任を問われかねない事態に発展していることは(シリーズの他の作品でも見られる傾向なので)許容するにしても、真相が大前提を覆してしまうのはやはりいただけない。
テレビ放映されていた作品群は、時間が深夜だったこともあって予算を大幅に制約されていたのだろう、舞台もロケーション先もかなり絞られていたが、さすがに劇場版だけあって、使われる映像素材、舞台の数はかなり増しており、ヴォリューム感はある。当初、直接の繋がりが窺い知れないオープニングの一場面や、復讐の下調べの過程で登場する人物や舞台など、従来の作品と較べて多くの土地に足を運んでいる分、作品世界に説得力が備わった。
尺が伸びた分だけ、盛り込まれた趣向も多くなっており、読み解く愉しさ、終盤でその真実が明かされるくだりのカタルシスが強まっているのも、美点のひとつである。余りに凝りすぎたために、それがシリーズの大前提を裏切り、趣向同士で自家中毒を引き起こしてしまっているのは残念だが、画面をつぶさに眺め、情報を拾い集め読み解く、という積極的な楽しみ方が出来る人であれば、少なくとも観ているあいだはかなり堪能できるだろう。ただ、どうも歪さの目立つ締め括りに納得できるかは、観る側の度量や資質にかかってくるだろうけれど。
上では単体でも可、出来れば『デスリミット』を鑑賞した上で、と記したが、しかし予め本篇が肌に合うかちゃんと確かめておきたいという方は、むしろ本篇と『デスリミット』を除くシリーズ先行作品のいずれかを観ておいた方がいいかも知れない。純粋に楽しめたという方、欠点も込みで良さを受け入れられる、と確信が持てた方は、然るのちに『デスリミット』を鑑賞し、それから本篇を観るべきだろう。ここまでの手順を辿ることが出来るのなら、かなりの満足が得られるはずである。
……だが、これまでのシリーズ作品が、シリーズ特有のクセが受け入れられるか否か、という問題点はあるにしても、とりあえず単独で観てもいいものばかりだったのに、折角劇場版に進出したところで、単独で観ると充分に味わえない、という作品を繰りだしてしまったのは、やはり望ましくないことだった、と思う。続く劇場版第2作もテレビ版第2作の後日談という形にしてしまい、本篇よりはまだしも単独で観られる仕上がりになったものの、いずれも間口を狭めてしまっている感は否めない。もし今後ふたたび劇場版に着手する意向があるのであれば、出来ればそれ単体で鑑賞できる作品に仕上げて欲しい、と切に願う。
関連作品:
『放送禁止』
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