『かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート』

スマイルBEST かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート スタンダード・エディション [DVD]

原題:“龍虎門” / 原作:ウォン・ヨクロン / 監督:ウィルソン・イップ / 製作補&アクション監督:ドニー・イェン / 脚本:エドモンド・ウォン / 製作:レイモンド・ウォン / 撮影監督:コ・チウラム / プロダクション・デザイナー:ケネス・マク、ラム・チューカイ / 編集:チャン・カーファイ / 衣装:ウィリアム・チャン / 音楽:川井憲次 / 出演:ドニー・イェンニコラス・ツェーショーン・ユー、ドン・ジェ、リー・シャオラン、ユン・ワー、チェン・カンタイ、シン・ユー、ヤン・フア、ファン・イーラン / 配給:GAGA / 映像ソフト発売元:Happinet

2006年香港作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:風間綾平

2007年4月14日日本公開

2009年4月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://kachikomi.gyao.jp/ ※閉鎖済

DVD Videoにて初見(2012/05/03)



[粗筋]

 行き場をなくした少年たちが身を寄せ、自らの身を守る術を学ぶ龍虎門。師範ウォン(ユン・ワー)の弟子のなかでも特に頭角を顕しているのが、タイガー(ニコラス・ツェー)である。

 タイガーは仲間たちとともに訪れた料亭で、犯罪組織同士の争いに巻き込まれた。最大の組織・羅刹門が商売の許可を与えた証である令牌をどさくさのうちに手にしてしまったタイガーは、令牌を狙う組織、江湖らと格闘になるが、そのなかで驚異的な手練れと拳を交えた。

 いったんは黙って令牌を持ち帰ることを許された格好のタイガーだったが、日本料理店にいたところで例の手練れの襲撃を受け、奪い返されてしまう。だが、江湖も一枚岩ではなく、手練れはファンという部下が連れてきた部下たちとも格闘をはじめ、料理店は大騒ぎとなった。

 食事を邪魔されたことに憤ったヌンチャク使いのターボ(ショーン・ユー)も手練れに与し、暴徒は一掃されたが、タイガーは手練れが落としていったものを見つけて愕然とする。それはかつて、タイガーとともに龍虎門に引き取られ、兄弟の契りを結びながらも、故あって龍虎門を出ていった彼の兄貴分、ドラゴン(ドニー・イェン)の持つ割り符であった。

 幼いころの恩義ゆえに、江湖のボス・マー(チェン・カンタイ)の右腕となって働いていたドラゴンであったが、胸中には未だ龍虎門への郷愁が残っていた。恩を返すために、マーが引退するまで彼を守るつもりでいたドラゴンだったが、ひとり娘・シャオリン(ドン・ジェ)の身を案じるマーは、ドラゴンの意志を知ると、引退の時期を早める意を固めた。

 しかし、羅刹門のボス・シブミはそれを許さなかった。令牌を返したマーの“裏切り”に激昂し、マーとドラゴンに対し、刺客を送りこむ――

[感想]

 原作は、香港で長年に亘って発表されつづけているコミックであるらしい。そちらについて詳しい情報は得ていないが、本篇を観ているとあちこち頷ける。冒頭の、コミック調イラストを用いたタイトルバックもそうだが、一対多のアクション描写、とりわけクライマックスの、VFXとワイヤー・ワークを併用した超人的なアクションに顕著だ。

 ただ、恐らくこれも長尺に及ぶ漫画を原作としているが故だろう、印象的なモチーフを随所に織りこんでいる一方で、それらのほとんどに唐突な印象が拭えない。

 長期連載作品だけに、ファンにとっては人気のある場面、モチーフなどを意識して多く組み込もうとした、と推測されるが、たとえばシブミの配下でドラゴンと因縁の深いローザ(リー・シャオラン)という女性は、いったいシブミとどういう縁を持っていたのか、彼のもとでどんな悪行に手を染めていたのか、そういう背景もないままに立ち位置に囚われている姿が、いまひとつ理解しにくい。かと思うと、終盤に訪れる最大の危機で、それまで聞いたこともない人物を頼りに赴き、そこで奥義を修得する、というくだりがある。どちらも要素を更に絞り込み、伏線を設けていれば、カタルシスに繋げることの出来るモチーフのはずだが、なまじ原作があるために剥き身のまま採り入れられ、全体のストーリーから浮いてしまっている。タイガーもそういう意味では登場がかなり唐突だ。

 結果として、ストーリー全体もぎこちなさが目立つ。ファンタジー的な要素に支えられた現代物の趣ながら、ベースは往年のカンフー映画に通ずる恩讐を扱っているのだが、どうも芯が通っていない。終盤での反撃に繋がる描写はいちおう踏まえているのだが、それぞれの能力差、背景の違いが明瞭でないので、恣意的に感じられてしまう。それでいい場合もあるが、本篇は複数のキャラクターの背後事情が細かく設定されている印象を与えるだけに、それがうまく噛み合っていないことが、お話としてのぎこちなさを強く意識させてしまっているようだ。

 ただ、VFXを多用したヴィジュアルを背景としたアクション描写は逸品だ。序盤における一対多の戦闘を、文字通り縦横無尽に動き回るカメラで捉えた映像の迫力、躍動感は、まさにカンフー・アクションの先駆である香港映画の魅力が横溢している。序盤ではシンプルなワイヤー・ワークで幾分過剰な表現をするに留め、クライマックスでVFXの味付けをプラスするあたりに匙加減の巧さも感じる。

 いちど破れながらも、成長して果敢に敵に挑む兄弟弟子を演じたニコラス・ツェーショーン・ユーもいいのだが、やはり突出しているのはアクション監督も担当するドニー・イェンだ。序盤、大勢相手に気を吐くタイガーを圧倒し、続く日本料理屋のくだりでは刃物を持った集団を翻弄し、そのなかで令牌を持って逃げようとするファンをあっさりと取り押さえてしまう。そしてクライマックスでは、VFXを盛大に駆使して超人的な技を披露するタイガー、ターボに比べ、視覚効果は遥かに控えめだというのに、まさに圧巻の戦いぶりを示す。ある映画の宣伝で、「ドニー兄貴なら『北斗の拳』を実写で演じられる」と言い張っていたが、こういうのを観ると、彼なら本当に出来てしまいそうな気がする。

 話運びが大仰で雑、アクションもあまりに表現が過剰気味で、漫画的、という印象が強い。だがそれは悪い意味でもあるが、いい意味においても同様だ。意識して漫画的にしているからこそ、派手な映像に徹しているのだし、ブレのない力強さ、爽快感がある。もしかしたら原作を知っている人には不満が多いのかも知れないし、もっとドニー・イェンの身体能力を駆使したリアルなアクションを求めている人には間違いなく納得のいかないものだろうが、どちらのこだわりもなく、非現実的なカタルシスを求めている人であれば満足のいく作品であると思う。堅いことは言わず、超次元アクションに酔いしれるべきだ。

関連作品:

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