『怪談新耳袋 怪奇』

『怪談新耳袋 怪奇』

原作:木原浩勝、中山市朗 / 監督:篠崎誠 / 脚本:三宅隆太 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ、山口幸彦 / 撮影監督:三栗屋博 / 照明:鵜飼隆一郎 / 美術:桜井陽一 / 録音:岩丸恒 / 編集:佐野由里子 / 衣装:塚本志穂 / 特殊メイク:須賀寛子 / 装飾:堀千恵 / 音楽:遠藤浩二 / 主題歌:真野恵里菜『家へ帰ろう』 / 出演:真野恵里菜坂田梨香子鈴木かすみ吉川友北原沙弥香、鈴木清重、沙季華、伊沢磨紀、秋本奈緒美、荒井ひな、岩本千波 / 配給:KING RECORDS

2010年日本作品 / 上映時間:1時間55分

2010年9月4日日本公開

公式サイト : http://www.actcine.com/sinmimi/

シアターN渋谷にて初見(2010/10/01)



[粗筋]

「ツキモノ」

 桐島あゆみ(真野恵里菜)は二次面接を済ませ大学に戻る途中のバスの中で、奇妙な女を目にする。裸足で乗車し、顔を伏せて終始何かを小声で呟きながら、時折しゃくり上げる。大学前の停留所で降りるとき、心配になって声をかけると、女は妙な言葉を返した。

「背負う気、あんの?」

 不気味な様子に、あゆみは応えずにバスを降りた。

 大学に着いたあゆみは、トイレの中でスーツから私服に着替えて教室に向かった。クラスで行動を共にする友人たちはみな揃って二次面接の連絡を受けていなかったため、彼女なりに気を遣ったのだ。

 教室に入り友人たちに合流すると、間もなく異音が響き渡った。窓ガラスを、外から叩く者がいる。それは、あゆみがバスの中で遭遇した、不気味な女であった……

「ノゾミ」

 高校生の藤沢めぐみ(真野恵里菜)は、しばらく前から不登校になっている。たったひとりの家族である母・瑤子(秋本奈緒美)ともまともに会話はなく、心を閉ざして日々を過ごしていた。

 原因は、しばらく前から彼女につきまとう、赤い影。水気のあるところにちらつき、めぐみが唯一出かけていく場所である図書館にまで出没する。その気配は、めぐみが抱く“罪悪感”と結びついて、彼女の心を蝕んでいた。

 ある日、瑤子が自宅に珍しい客を連れてきた。中学時代の同級生だったというその女性、土屋信子(伊沢磨紀)は、めぐみを見た途端に、彼女を悩ませるものの存在を察知する。そして、瑤子の目を盗んで、連絡先を記したメモを手渡すのだった……。

[感想]

 原作である『新耳袋』が当初の目標であった全十巻を達成し完結したのとほぼ同じ時期に、『怪談新耳袋』の劇場版も第3作を最後に中断していた。著者のひとりである木原浩勝が新たなシリーズを立ち上げたのに合わせ、そちらを原作にしてドラマ版は製作されていたが、本篇は劇場版としては実に4年振りの第4作となっている。

 既にほぼ方程式の完成したシリーズで、しかも脚本は『怪談新耳袋』のみならず各種ホラー映画やドラマで手腕を振るう三宅隆太が手懸けているだけあって、4年振りとは言い条、従来のファンにとっては馴染みのあるトーンを蘇らせていて安定感がある。近年はホラー映画の点数もだいぶ減っているだけに、久々にらしい和製ホラー映画にお目にかかったという印象だ。

 しかし、それだけに突出した部分があまり見当たらず、食い足りない感も否めない。決して虚仮威しに頼らない、緊迫した空気を用いた恐怖の演出は堂に入っているが、しかし格別なインパクトを齎すような趣向に欠ける。「ツキモノ」では少し驚かされるひと幕もあるが、このエピソードに登場する脅威の裏付けが不明瞭になるだけで、全体を通してみると滑稽な印象を与えてしまっている。

 二部構成を取り、前半の「ツキモノ」ではシリーズの持つ不条理姓を拡張して、理不尽な害意に翻弄される姿を描いているが、さすがにここまで説明がなく出所の察しがつかないと怖さがいまひとつ沁みてこない。「ツキモノ」という物語に籠めた主題を思うと、ヒロインであるあゆみには終始脅威が迫ってこない、という形でまとめるべきだったように思う。「ノゾミ」のほうはそれに較べると腑に落ちる組み立てだが、この内容で納得がいくのは、よほど『怪談新耳袋』シリーズに馴染んでいるか、実話怪談を多く渉猟している人だけだろう。めぐみを襲う災厄の原因があっさり除かれてしまうことには、ごく一般的な観客ほど不満を抱きそうだ。

 だが、シリーズの従来の風味をきちんと再現しつつ工夫を凝らした姿勢には好感が持てる。二部構成を取るに当たって、「ツキモノ」は偽善、「ノゾミ」は優しさ、と表裏一体の主題を用い、明確に対比させたのはとりわけ意欲的な趣向と言えよう。「ツキモノ」でその結果が不条理な事態を招いているだけに、罪悪感と優しさに彩られた「ノゾミ」が正統的な怪談でありながら快い余韻をより芳醇に醸しだしているのだ。

「ノゾミ」の、怪異の原因が案外あっさりと取り除かれてしまう趣向には、いくら類型化した描き方に食傷している愛好家でも物足りなさを感じるだろうし、ラストで描かれる回想にはどうしても蛇足の感を禁じ得ないなど、勿体ない点もいくつかある。だが、本当に“見える”人々の佇まいや態度を真摯に切り取り、安易な因果ものに堕しない物語を組み立て、近年珍しい“ジェントル・ゴースト・ストーリー”に仕立て上げたことは評価したい。

 不満も多く出るものの、少なくとも従来の『怪談新耳袋』シリーズを楽しんできた人であれば、納得のいく内容だろう。満足はしなかったとしても、狙いは充分に理解できるはずだろうし、その誠実さは感じ取れるはずだ。

関連作品:

怪談新耳袋[劇場版]

怪談新耳袋[劇場版] 幽霊マンション

怪談新耳袋[劇場版] ノブヒロさん

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