原題:“The Human Centipede (First Sequence)” / 監督&脚本:トム・シックス / 製作:イローナ・シックス、トム・シックス / 撮影監督:グーフ・デ・コニング / 編集:ナイジェル・デ・ホンド / 録音:ジャスパー・デ・ウィールド / 音響デザイン:エイラム・ホフマン / 音楽:パトリック・サヴェージ、オレグ・スピーズ / 出演:ディーター・ラーザー、北村昭博、アシュリー・C・ウィリアムズ、アシュリン・イェニー、アンドレアス・ロイポルト、ピーター・ブランケンシュタイン / シックス・エンタテインメント製作 / 配給:Transformer
2009年オランダ・イギリス合作 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:岩辺いずみ / R-15
2011年7月2日日本公開
公式サイト : http://mukade-ningen.com/
シネクイントにて初見(2011/07/24)
[粗筋]
ドイツ郊外の森の中で、アメリカ人の旅行者リンジー(アシュリー・C・ウィリアムズ)とジェニー(アシュリン・イェニー)は途方に暮れていた。ヨーロッパ各地をレンタカーで旅し、知り合ったウェイターに誘われたクラブへと赴く途中で道に迷ってしまったのである。挙句、車のタイヤはパンクし、完全に立ち往生してしまっていた。
森を彷徨うこと1時間、ようやく辿り着いた一軒家で、ふたりは声を上げて助けを求める。現れた眼光鋭い年輩の男は、親切に彼女たちを邸内に招き入れたが、どうも振る舞いが異様だった。不気味に感じたふたりは、男が離れた隙に逃げだそうとするが、気づけばジェニーはソファで意識朦朧とし、身動きが出来ない状態になっている。辛うじて身動きの出来るリンジーも、強烈な吐き気に襲われていた。戻ってきた男は、薬を盛ったことを告げると、意識のあるリンジーの首筋に注射針を突き立てた――
一軒家の主の名は、ジョゼフ・ハイター博士(ディーター・ラーザー)。天才外科医で、シャム双生児の分離手術をいくつも成功してきた人物である。だが、現役を退いた彼は、長年抱いていたある“野望”を実現するため、密かに人間を狩っていた。
ハイター博士の“野望”は、分離ではなく、創造すること――すなわち、複数の人間を一列に繋げるという、あまりにおぞましいものだった……
[感想]
はっきり言ってしまえば、発想のインパクトが強烈すぎるのが、本篇の最大の不幸である。
人間を“連結”する、しかもキー・ヴィジュアルから解るその方法を思い浮かべるだけで、様々な妄想を掻き立てられる。観る前からおぞましさに囚われ、それを忌避するような人はまず映画館に足を運ばないだろうし、積極的にチケットを買い求めるような人は――想像より大人しい、と感じて失望する可能性が低くない。もとのアイディアが喚起するものが大きすぎるせいで、実際に仕上がったもののほうがどうしても圧倒されてしまうのだ。
加えて、本篇は“ムカデ人間”というモチーフの部分を引っこ抜くと、実は『悪魔のいけにえ』以来すっかり定着した、田舎町に迷い込んだ異邦人が、その地の異様な何かに襲われる、或いは貪られる、という類の、ホラー映画定番の骨格が残る。そこまで分析するつもりがなくとも、好きでB級C級作品を渉猟しているような人であれば嗅ぎつけられるはずで、だから話題になるわりに、平均しての評価がさほど高くならないのだろう。
ただ、換言すればそれは、本篇が奇を衒ったアイディア一本勝負のように見えて、きちんとホラーの定石を踏まえたうえで、ストーリーで魅せようと組み立てられていることの証でもある。
粗筋では犠牲者となる女性達の目線から綴ってみたが、実際にはハイター博士の謎めいた行動から始まっている。あからさまに怪しげなハイター博士のもとに女性達が飛び込み、彼の言動を訝りながらも、ハイター博士が薬を盛っていることに気づかず振る舞う様は、王道ながら緊張感が漲る。目醒めたあとに女性達が目撃する博士の無慈悲な行動、そしていよいよ目的を果たす直前、彼に真意を告げられる際の阿鼻叫喚――ひたすらに観る者の恐怖感を煽る趣向は基本的にオーソドックスで、それ故に的を外していない。
この作品で意外なほど効果を上げているのは、複数の言語が混在している点である。舞台はドイツなので、ハイター博士は“被験者”に対して英語で話す一方、地元の人間と話すときや、感情的になったときにはドイツ語を用いる。それ故に、本来の視点人物であるアメリカ人女性たちには、ハイター博士が何を言っているのか解らない部分があることで、その断絶が異様な緊張感を強めている。
そしてここに、北村昭博演じる日本人ヤクザが絡むことで、異様さがいや増している。ドイツ語はおろか英語もまともに解さないこの人物は、それを承知で日本語を用いてハイター博士を口汚く罵り、女性にも語りかける。当然ながら具体的な意味は伝わっていないだろうが、表情や雰囲気から滲み出す剣呑さに、一緒にいる女性達がいっそう震え上がり、感情を顕わにする様が、ホラーの定石通りの展開に独特の味わいを添えている。日本人としては、北村昭博がアドリブもふんだんに演じるヤクザの、威勢がいいわりにしばしば情けなくなる言動に笑いを催すが、それもまた本篇の狂騒的なムードを助長している。
そして、考えられる限りいちばん“酷い”結末を用意している点も見事だ。このどうしようもない絶望感は、『SAW』ラストシーンにも似た余韻をもたらす。
この繋ぎ方できちんと栄養は行き渡るのか、とか序盤でハイター博士が口にする“適合”とは何を条件にしているのか、という、さほど医学の知識がなくても感じる疑問が本篇は払拭されていないが、しかし正直なところ、その程度はもはや問題にはなるまい。この醜悪な発想を軸に、本質的にはストレートなホラーの物語を強烈なインパクトのあるものに仕立ててしまった、そのセンスは間違いなく優秀だ。
醜悪極まりないアイディアだし、耐性のない人は途中で劇場から逃げ出したくなるかも知れない。一方で、発想の際物ぶりを追求して欲しい、という人には物足りなさを感じさせるのも事実だ。しかし、このおぞましいアイディアをきちんと昇華させた、色物でありながらも実は狙いを外していない、インパクトのある“ホラー映画”であることもまた間違いない。何だかんだ言って、その発想と主人公ハイター博士の驚異的な存在感で、一部のマニアから長く愛される作品となるだろう――だからこそ、一部で熱狂的に高まるはずの期待に、続篇できっちり応えてくれることを願いたい。そして、出来れば配給会社には、責任をもって続篇も日本に届けていただきたい。
関連作品:
『悪魔のいけにえ』
『ホステル』
『ホステル2』
『SAW』
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