『ロビイストの陰謀』

シネマート六本木、外壁に掲示されたポスター。

原題:“Bagman” / 監督:ジョージ・ヒッケンルーパー / 脚本:ノーマン・スナイダー / 製作:ゲイリー・ホーサム、ビル・マークス、ジョージ・ザック / 製作総指揮:リシャール・リオンダ・デル・カストロ、リューイン・ウェッブ、ドナルド・ザッカーマン、デイナ・ブルネッティ、パトリシア・エバリー、ウォーレン・ニムチャック、アンジェロ・バレッタ、ドメニク・セラフィーノ / 撮影監督:アダム・スウィカ / プロダクション・デザイナー:マシュー・デイヴィス / 編集:ウィリアム・スタインカンプ / 衣装:デブラ・ハンソン / 音楽:ジョナサン・ゴールドスミス / 出演:ケヴィン・スペイシーバリー・ペッパーケリー・プレストン、ジョン・ロヴィッツ、レイチェル・レフィブレ、ダニエル・カッシュ、グレアム・グリーン、モーリー・チェイキン、エリック・シュウェイグ、ルース・マーシャル、ハンナ・エンディコット=ダグラス / 配給:Comstock Group×CHANCE iN

2010年カナダ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:?

2012年9月28日日本公開

2012年11月23日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

シネマート六本木にて初見(2012/10/12)



[粗筋]

 ジャック・エイブラモフ(ケヴィン・スペイシー)はジョージ・W・ブッシュの大統領選に貢献し、多大な影響力を誇ったことから、“スーパー・ロビイスト”とさえ呼ばれ、政治の世界において際立った存在感を示していた。

 最初は、若く才気煥発なパートナー、マイケル・スキャンロン(バリー・ペッパー)とともに、地道なロビイスト活動で収益を上げていたが、かつて映画プロデューサーとしても活動していたエイブラモフは次第に“欲”を顕わにしていく。エイブラモフは先住民達が生活のために経営するカジノを支援していたが、いつしか彼はそこで上げられる多額の収益から出来る限り多くの分け前を得ようと画策し始めた。己の存在、影響力を更に大きく見せかけ、籠絡済の首長ポンチョ(エリック・シュウェイグ)の権限を政治工作により絶対のものにすると、他の役員達を外し、遂に契約を成立させる。

 エイブラモフはやがて、自らカジノを経営する、という夢まで抱きはじめていた。そんな彼のもとにもたらされたのが、ギリシャ人一族の経営する、船上カジノの話である。違法行為が指摘され、破産扱いで急遽経営権を譲渡する必要に迫られており、契約は難しくない、と囁かれたエイブラモフは、本気でオーナーとなるべく画策を始めた。

 レストランも出店し、傍目には“スーパー・ロビイスト”として順風満帆に見えるエイブラモフは、だがこうした事業拡大のために出資を繰り返したことが災いし、経済的に少しずつ、少しずつ追いつめられていた……

[感想]

 本篇は事実に基づいているという。日本ではさほど報道されず、恐らくよほどアメリカの政治、社会情勢に通じている人でないと記憶していないのではないか、と思われるが、ジャック・エイブラモフというロビイストがいたことも、こういう“犯罪”に手を染めたことも、本当のようだ。

 しかし、本篇を鑑賞すると、報道されなかったのも仕方ないのかも、と感じる部分が多い。いったいどこがどういうふうに問題だったのか、理解しづらいのだ。

 エイブラモフが、自らがロビー活動を請け負った先住民たちに対する要求が法外であること、彼が欲にまみれて道を踏み外したこと、ぐらいは察しがつくが、そうした行為の違法性がいまひとつピンと来ない。真っ当な手段ではないのは確かだろうが、それよりは後半、エイブラモフが窮地に追い込まれるきっかけとなった出来事そのものの方が問題は大きいように感じてしまう。それは多分にこちらの無知、不勉強によるものだとは思うのだが、アメリカの文化、政治に多少なりとも理解があることを前提にした作りは、詳しくない層、国外の観客を遠ざけてしまっている感は否めない。

 一方で、シリアスともコメディとも判断しづらいトーンになっていることも、作品の印象を曖昧にしてしまっているようだ。エイブラモフの行為が世間を騒がせ始めたころの描写から物語を切り出し、過去に戻る、という手法はサスペンス、犯罪ものの定石だが、その振る舞いに見えるユーモアは、振り切れないコメディのような印象を与える。実際、当人は「お金が際限なく出ていく」と嘆いているが、その原因は自らの財力を過剰に大きく見せかけ、カジノやレストラン経営に資金を投じ続けていたことにあるわけで、その悲嘆はいっそ滑稽に映る。キャラクターにとっては無自覚の振る舞いでも構わないのだが、作り手がその扱いを中途半端にしていることが、物語としての面白さも半端にしてしまっているのが残念だ。

 実際、ケヴィン・スペイシーは本篇の演技によりゴールデン・グローブ賞のコメディ&ミュージカル部門で主演男優賞にノミネートされている。その白眉は序盤と対比する、クライマックスでの演技なのだが、これらを際立たせるための工夫が脚本でも演出でも不充分だった。

 或いは、アメリカの社会情勢に詳しい人にとっては明白な笑いが幾つも仕掛けられているのかも知れない。自ら映画製作に携わるほど映画好きだったというエイブラモフの人物像を反映して、随所で映画から台詞を引用し、妻がうんざりとするくだりがあったりと、そういう仕掛けがあることも窺わせるが、あいにくそのせいで、アメリカ以外の住民には親しみにくい内容となっているのかも知れない。同じケヴィン・スペイシー出演の『マージン・コール』が、たとえ経済界に詳しくなくともその静かな狂騒ぶり、異様な展開が理解出来る構造であっただけに、比較的近い時期に鑑賞してしまった私にはよけい物足りなく感じてしまったようだ。

関連作品:

マージン・コール

リカウント

サンキュー・スモーキング

ブッシュ

トゥルー・グリット

狼の死刑宣告

トワイライト〜初恋〜

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