『ザ・エージェント』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン6の前……にはなにもなかった。 ザ・エージェント [Blu-ray]

原題:“Jerry Maguire” / 監督&脚本:キャメロン・クロウ / 製作:ジェームズ・L・ブルックス、リチャード・サカイ、ローレンス・マーク、キャメロン・クロウ / 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー / 美術:スティーヴン・ラインウィーヴァー / 編集:ジョー・ハッシング / 衣装:ベッツィ・ヘイマン / 音楽監修:ダニー・ブロムソン / テーマ音楽:ナンシー・ウィルソン / 出演:トム・クルーズキューバ・グッディングJr.、レニー・ゼルウィガーケリー・プレストン、ジョナサン・リプニッキ、ジェリー・オコンネルジェイ・モーアボニー・ハントレジーナ・キングボー・ブリッジスマーク・ペリントン、ジェレミースアレス、カタリーナ・ヴィット、ルーシー・アレクシス・リュー、ドナル・ローグ、アンジェラ・ゴーサルズ、ケリー・コフィールド・パーク / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictuires Entertainment

1996年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:戸田奈津子

1997年6月17日日本公開

2011年1月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

2014年3月28日よりバック・トゥ・ザ・シアターの1本として上映

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/04/01)



[粗筋]

 ジェリー・マグワイア(トム・クルーズ)はスポーツ選手の契約交渉を請け負うSMIという会社で、花形のエージェントとして活躍していた。大物選手の契約更新に奔走する傍ら、怪我をした選手のケアも怠らない、というのが名目だったが、エージェントひとりにつき70人以上の選手を抱えていてはどうしても限界がある。ある日、大怪我を負った選手の子供から「お父さんは助かるの?」と問われながら、他の連絡に気を取られていたジェリーは、その子供から「人でなし」と罵られる。

 やがてジェリーの心に迷いが生じた。自分たちのやり方は確かに効率的で高い収益に繋がっているが、人道から外れているのではないか? そして、思いついた直後に長文の提案書をまとめ、大量の冊子を作成し、会社の他のエージェントのロッカーに突っこんだ。最初こそ賞賛を浴びるが、ほどなく後輩のボブ・シュガー(ジェイ・モーア)を経由して、解雇を言い渡された。

 すぐさまオフィスに戻り、契約している多くの選手たちに連絡を取って、“独立”後の契約を結ぼうと試みるが、並行して交渉するシュガーに次々と奪われ、どうにか確保出来たのは、鼻息だけは荒いが目立った成績は残していないフットボール選手ロッド・ティドウェル(キューバ・グッティングJr.)だけ。退社間際、同僚に向かって自分と一緒に独立することを呼びかけるが、こちらにも経理係のドロシー・ボイド(レニー・ゼルウィガー)ひとりが手を挙げただけだった。

 人道的な契約を訴えた手前、ロッドだけではたったひとりの社員の生活を支えるのもままならない。そこでジェリーは藁にも縋る思いで、学生フットボール・リーグで活躍し、次期ドラフトの目玉と言われているフランク・クーシュマン(ジェリー・オコンネル)のもとへと交渉に赴く。案に相違して、フランクの父マット(ボー・ブリッジス)はジェリーとのエージェント契約に同意した。高額の契約が確実、と言われるフランクを抱えこめば、この先に不安はない。

 だが、ほどなくジェリーは鼻っ柱をへし折られる。ロッドの売り込みのために動いているあいだに、シュガーがフランクの希望に添った球団との契約を示唆し、口約束に留まっていたジェリーを差し置いて正式なエージェント契約を結んでしまったのだ。

 同業者であった婚約者のエヴリー(ケリー・プレストン)からも愛想を尽かされ、意気消沈するジェリーだったが、そんな彼を励ましたのはたったひとりの従業員ドロシーと、彼女のひとり息子レイ(ジョナサン・リプニッキ)だった。

 たった一度の情熱が運の尽き、理想と現実との狭間で翻弄されるジェリーは、頼りないクライアントひとりだけで、魑魅魍魎蠢くスポーツ業界を渡っていけるのだろうか……?

[感想]

 個人的な感覚かも知れないが、観ているあいだずっと違和感を覚えていた。

 原因は邦題にある。“ザ・エージェント”、つまりスポーツ選手の契約交渉などを行う代理人が題材、というふうに映る。確かに主人公はエージェントであり、物語の重要な転機になる出来事も、交渉にまつわるものが大半なのだが、しかしたとえばその中で、契約の難しさ、そこで生じる人間関係の厄介さであったり、様々な手練手管について言及されるわけではない。むしろそのあたりはあまりに運任せに過ぎて、果たしてこれはエージェントが主題と言っていいものか、と首を傾げたくなるのである。

 だが、原題を考えると腑に落ちる。本篇のタイトルは“Jerry Maguire”、つまり主人公の名前なのだ。確かにエージェントという仕事の特殊性は、彼のキャラクターを決定づけているだけに軽く扱ってはいないが、本篇で焦点を合わせているのが、エージェントとしての仕事ぶり以上にジェリー・マグワイアという人物の姿であるのは、タイトルからすれば当然と言えるわけだ。

 終始、これからのことに頭を悩ませ、しばしば軽挙と呼ぶしかない行動にも及んでいるジェリーだが、しかし実際にウェイトを占めているのは、ドロシーとの関係、といった風にも見える。

 当初は婚約者がいたが一連の経緯で振られ、意気消沈しているところを慰められているうちに、ジェリーは情が湧いていく。面白いのは、ドロシーに対する親愛の情があるにはあるが、彼がもっと捨てがたく感じているのが、ドロシーのひとり息子レイとの絆である、という点だ。エージェント、という仕事自体が、煎じ詰めれば人間関係の形成にあり、従業員であるドロシーとの関係も含め、あらゆる縁に打算が働き、相手が大人であれば当然のように利害を考慮せざるを得なくなる。そういう状況に年がら年中接し、すっかり疲弊された状態にあれば、打算抜きの純粋な感情だけで臨んでくるレイの振る舞い、自分の言葉に無邪気に喜ぶ姿に癒されてしまうのも無理はない。のちにジェリーとドロシーは結ばれるのだが、ドロシーよりもレイとの縁が失われることを恐れている自分に、引け目を感じてしまう有様だ。

 この、情熱はあるが妙に現実的で、人間関係を重んじる仕事にも拘わらず感情が絡むと途端に不器用になるジェリーの動向を辿った本篇は、“ドラマ”と大きな括りに委ねてもいいが、肌触りはほとんどコメディだ。躓きながらも懸命に進み、唯一のクライアントとなったロッドや、雇用者と従業員という間柄にあるドロシーとの距離感の取り方にいちいち試行錯誤する様が、真剣なだけに微笑ましい。

 細かな出来事を拾っていくとけっこう深刻なのだが、それを意識させないテンポの良さ、描写の匙加減の巧さや、音楽の絶妙な用い方も、本篇の印象を明るいものにしている。監督と脚本を手懸けるキャメロン・クロウはこのあとにもトム・クルーズと組んだ『バニラ・スカイ』でも、どちらかと言えば沈鬱な印象の強かったオリジナル作品のプロットをそのまま流用しながら、こうした構成や音楽の使い方でまったく異なった印象と余韻を生み出しているが、そのスタイルは本篇の時点でほぼ完成をみていた、と言えそうだ。

 主要キャストの適材適所ぶりも出色である。キューバ・グッディングJr.は本篇でオスカーに輝いたほどだから当然として(ただ個人的にはそこまで突出していた、とは思わなかったのだけど)、不器用な好漢を絶妙のバランス感覚で演じたトム・クルーズも、職務と親愛の感情のあいだでコミカルに揺れるドロシーを野暮ったくも華やかに演じたレニー・ゼルウィガーも素晴らしい。ジェリーを振る婚約者に、ロッド以上に堂々と振る舞うロッドの妻など、キャラの立った脇役たちも、ジェリーにとっては悩ましい存在だろうが、観ていて愉しい。

 詰まるところ、本篇はスポーツ業界の裏側での奮闘ぶりが見所なのではない。あくまで、ジェリー・マグワイアという、才気溢れるがどこか間が抜けている男の魅力を、快く描こうとした作品であり、そのつもりで鑑賞してこそ初めて腑に落ちる作品なのだ。観ていまひとつ納得がいかなかった、というひとも、邦題のことを念頭から外して向き合えば印象が変わる――かも知れない。

関連作品:

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