『イントゥ・ザ・ストーム(字幕)』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、劇場外階段の下に掲示されたポスター。

原題:“Into The Storm” / 監督:スティーヴン・クォーレ / 脚本:ジョン・スウェットナム / 製作:トッド・ガーナー / 製作総指揮:リチャード・ブレナー、ウォルター・ハマダ、デイヴ・ノイスタッター、マーク・マクネア、ジェレミー・スタイン、ブルース・バーマン / 撮影監督:ブライアン・ピアソン / プロダクション・デザイナー:デイヴィッド・R・サンドファー / 編集:エリック・シアーズ / 衣装:キンバリー・アダムス / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:リチャード・アーミテージ、サラ・ウェイン・キャリーズ、マット・ウォルシュ、アリシア・デブナム=ケアリー、アーロン・エスカーペタ、マックス・ディーコン、ネイサン・クレス、ジェレミー・サンプター、リー・ウィテカー、カイル・デイヴィス、ジョン・リープ / 配給:Warner Bros.

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕&吹替翻訳:アンゼたかし

2014年8月22日日本公開

公式サイト : http://www.intothestorm.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2014/08/22)



[粗筋]

 世界各地で竜巻の発生が相次いでいる。アメリカでは毎年のように竜巻の被害が報告され、莫大な被害をもたらす一方で、“竜巻ハンター”と呼ばれる特殊な仕事に従事するひとびとをも生み出した。竜巻により接近し、衝撃的な映像を撮影することで莫大な富を得ようとするひとびとである。竜巻用に改造した特殊車両“タイタス”を駆使するピート(マット・ウォルシュ)も“竜巻ハンター”のひとりである。

 だがピートはこのところ運に見放されていた。1年近く決定的な映像に恵まれず、このシーズンは雲しか撮影できていない。遂にスポンサーにも見放され、自腹で撮影旅行を続けねばならなくなった矢先に、ようやく有望な情報にありついた。

 その頃、シルヴァートンという地方都市にあるシルヴァートン高校では、卒業式を間近に教師も学生も慌ただしい日々を過ごしていた。同校の教頭ゲイリー・フラー(リチャード・アーミテージ)も同様に多忙を極めていたが、そのことは以前から溝の出来ていた息子ふたりとの関係に更なる影を落としていた。卒業する長男ドニー(マックス・ディーコン)と次男トレイ(ネイサン・クレス)に、タイムカプセルに収めるためのビデオ撮影を任せているが、ふたりともあまり乗り気ではない。

 卒業式当日、兄弟はドニーが前から想いを寄せていたケイトリン(アリシア・デブナム=ケアリー)が教師から叱責されている場面に遭遇した。トレイにけしかけられて彼女を慰めたドニーは、ケイトリンがインターン資格を得るために必要な動画撮影に付き合う、と言い出し、トレイに卒業式の撮影を託して行ってしまう。

 シルヴァートンの多くの住民は知るよしもなかったが、急激な気候の変動が、いまこの街を“竜巻の巣”に変えつつあった。そしてその先に、未曾有の“怪物”が現れようとしていることも――

[感想]

 単純明快、“竜巻の中に突っこんでいく”、まさにタイトル通りの内容であり、それ以上でも以下でもない。

 たとえば文芸的な素養のある監督や、ドラマ性にもいっさい妥協しないひとが手懸けたなら、登場人物たちにもっと複雑な関係性を構築して、災害に直面したひとびとの感情も盛り込んで魅せたかも知れないが、本篇はそのあたりもごくごくシンプルだ。進んで竜巻を追うひとびとにもドラマはあるがあっさりしているし、翻弄される家族のドラマも有り体で、複雑さはない。

 ただ、そのドラマの安易さが引っかかるほどに安易だったり、どうしようもない矛盾を孕んでいる、となると困るが、本篇はそのあたりには神経を配っていることが窺える。卒業式に合わせて撮影する記念映像のテーマが“未来の自分へのメッセージ”であるために、登場人物たちは必然的に自らの境遇に言及することになる。主要登場人物たちの関係性が早い段階で明確にされ、そこから竜巻の存在を鍵として、事件の気配を滲ませ物語の牽引力を演出する。その中でも父子関係や竜巻に対する執着、といった解りやすい部分をエピソードとして回収し、カタルシスに繋げていく。本当に、教科書的、と言えるほど綺麗に組み立てられている。

 突出した点こそないが堅実に築かれたドラマは、本篇の肝である“竜巻”の脅威を観客に剥き出しに近いかたちで体感させ、決して妨げたりしない。竜巻の発生を嗅ぎつけている竜巻ハンター、まったく知らない住民、双方の視点で描いて、じわじわと姿を現す脅威に接する者と、自然の猛威に突然襲われ抵抗も出来ない者いずれもフォローし、竜巻の凄まじさを様々な立ち位置で実感させる。視点の多彩さがそのまま竜巻の脅威を多彩に表現する役を担っているのだ。

 またこの作品は、竜巻ハンターたちの所持するカメラや、ドニーとトレイの兄弟がそれぞれに使うカメラなど、作中に登場するカメラの映像が多数用いられている。それらの映像が圧倒的な臨場感をもたらすが、本篇の特徴的なのは、だからといっていわゆる“P.O.V.”のスタイルに固執せず、随所で神の目線での映像も織りこんでいることだ。このスタイルにこだわりが強すぎると不徹底ぶりに不満を抱くだろうが、しかしあえて固執せず、柔軟に用いることで、観る側に“これはフィクションだ”という割り切りをもたらし、また本筋である竜巻の凄味を自在に描くことを可能にしている。もし“P.O.V.”にこだわってしまったら、現実には不可能なところにカメラを置くような状況を設定しなければならなかったか、肝心の巨大な竜巻のヴィジュアルを観客に披露できなくなっていたかも知れない。

 本篇は、映画的なインパクトを素直に優先し、現実にはよほどのことがない限りお目にかかれない巨大な竜巻のヴィジュアルとその脅威を、フィクションとしての節度を保ったままリアルに体感させることを選択したのだ。そのためには、行きすぎて深遠なドラマも必要ではない、と割り切ってさえいる。天晴れなエンタテインメント作品である。起き得るかも知れない災害を娯楽として描ききった『ボルケーノ』という佳作があるが、本篇はその竜巻版、と呼べそうだ。

関連作品:

タイタニック3D』/『アバター

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『テッド』/『13日の金曜日

タワーリング・インフェルノ』/『252 生存者あり』/『2012』/『オール・イズ・ロスト 〜最後の手紙〜』/『ポンペイ

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