『トゥルー・クライム』

トゥルー・クライム 特別版 [DVD]

原題:“True Crime” / 原作:アンドリュー・クラヴァン / 監督:クリント・イーストウッド / 脚本:ラリー・グロス、ポール・ブリックマン、スティーヴン・シフ / 製作:クリント・イーストウッド、リチャード・D・ザナック、リリー・フィニー・ザナック / 製作総指揮:トム・ルーカー / 撮影監督:ジャック・N・グリーン,A.S.C. / 美術:ヘンリー・バムステッド / 編集:ジョエル・コックス / キャスティング:フィリス・ハフマン / 音楽:レニー・ニーハウス / 出演:クリント・イーストウッド、アイザイア・ワシントン、リサ・ゲイ・ハミルトン、ジェームズ・ウッズデニス・レアリーダイアン・ヴェノーラ、ベマード・ヒル、マイケル・ジェッター、ハッティー・ウィンストン、フランチェスカ・フィッシャー・イーストウッドルーシー・リュー / マルパソ/ザナック・カンパニー製作 / 配給:Warner Bros. / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1998年アメリカ作品 / 上映時間:2時間7分 / 日本語字幕:稲田嵯裕里

1999年12月25日日本公開

2011年7月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2014/09/10)



[粗筋]

 フランク・ビーチャム(アイザイア・ワシントン)に死刑が執行される前日、悪評高い“死のカーブ”でミシェル・ジグラー(メアリー・マコーマック)が事故死した。

 彼女はトリビューン紙の若き女性記者であり、フランクの事件に疑問を抱いて、死刑執行を前にしたフランクとの面会の約束を取り付けていた。上司のアラン・マン(ジェームズ・ウッズ)はその約束を有効に使うため、スティーヴ・エヴェレット(クリント・イーストウッド)を休日出勤させる。

 エヴェレットは昔ながらの勘に頼る、しかし有能な記者だったが、酒と女に溺れる悪癖があり、常に爪弾き者にされている。だが人脈は豊かでミシェルからの信頼も厚く、エヴェレットも我が娘との約束がおろそかになるのを承知でこの仕事を引き受ける。

 もともとこの事件に関心はなく、深く追求していなかったエヴェレットだったが、いざ調べ始めると、確かにこの事件には匂うものがあった。被害者はコンビニで働くエイミー・ウィルソンという若い妊婦で、フランクとは旧知であり、動機はエイミーが車の修理費としてフランクから借りていた96ドルを返さなかったことだった、とされている。しかし、目撃者はいずれも銃声を聞いておらず、しかもエヴェレットが調べたところ、決定的な証言には誇張が混ざっていた可能性が大きかった。

 死刑を目前にしてもフランクは未だ罪を認めていない。世間では未だにフランクに対してより過酷な刑罰を求める声が上がっているほどだったが、エヴェレットはフランクが本当に無罪である、と確信しつつあった。

 だが、死刑執行まで残されたのは僅かに数時間。このわずかな猶予のうちに、フランクの命を救うことは出来るのだろうか……?

[感想]

 執行寸前の、無罪かも知れない死刑囚を救う。単純明快だが、このシチュエーションが醸しだす緊迫感はそれ故に折り紙付きと言える。

 本篇の主演と監督とを兼任したクリント・イーストウッドは、監督としてのキャリアを『恐怖のメロディ』というサスペンス作品で飾ったほどであり、多彩な作品を撮ってきたが、本篇に先駆けて『目撃』という秀作を発表し、このジャンルにも対応出来ることを改めて示した。その能力は、ほどなく手懸けた本篇においても存分に発揮されている。

 しかしこの作品、最初のうちは決して、タイムリミットのある物語としては認識されない。無実を訴えながらも、もはや後戻りできない段階が近づき、恐怖を抱きながらも平静を保っている死刑囚と、同僚の急逝により駆り出されたヴェテラン記者の放埒な私生活と仕事とのバランスに翻弄されるさまを並行して描いている。そのタッチは安定しているが、序盤はサスペンス、というよりも犯罪を軸としたドラマのように映る。

 だが、条件が揃い始めると、本篇はにわかにサスペンスの趣を呈していく。最初から“無辜の人間を救い出す”という題材に囚われていると、やたらに事実の応酬を繰り返さねばならず、最終的に何が驚きだったのか、観客に解りにくくなる可能性もあった。本篇は、前提の流れで人物のドラマを積み上げ、その中に終盤のサスペンスの条件を鏤め、それをクライマックスで一気に束ねることで、最小限の要素で緊張と興奮とを生み出している。ミステリを愛好する者としては、もっと複雑な趣向を、と思いたくもなるが、要素を絞り込んで充分な効果を上げる手際には唸らされる。主題はシリアスで、過酷な現実も織りこんでいるというのに、やり取りにちらほらとユーモアが絡んできたり、カーチェイスの見せ場まで加えており、映画としての活かしかたにも無駄がない。

 その一方、本篇の味わいは、ドラマ部分にこそある、と言える。奔放に振る舞いながら、出来れば家庭の幸福を築きたい、と欲している主人公の奮闘ぶりは、観ている側の共感を得られるかどうかは別として妙に目を惹かれてしまう。有能さを認められる一方で、誰からも身勝手さを罵られ、本人も自らの悪習を自覚し更生を考えながらも思うように行かない。ひどく不愉快だが妙に魅力的な人物は、これまでにイーストウッドが演じた人物像それぞれの延長上にあって不自然さは一切無いが、従来よりも濃密になってスクリーン上に活き活きと躍っている。

 白眉はエヴェレットと、ビーチャム夫妻が面会するくだりだ。エヴェレットが、不摂生により鈍った己の嗅覚に不安を抱きながら、フランクの無罪を信じていることを明確にする。この期に及んで抱かされた希望に動揺する夫妻の反応、とりわけ妻ボニー(リサ・ゲイ・ハミルトン)の叫びはいつまでも胸に響く。

 このくらいの謎がいつまでも解き明かされなかったことには疑問を覚えるし、手際よくまとまっているとは言え、イーストウッド監督の腕があればもっと実を詰めて切れ味鋭く処理することも可能だった、という嫌味もあるが、改めてその安定した実力を示した佳作であるには違いない。

関連作品:

恐怖のメロディ』/『タイトロープ』/『ザ・シークレット・サービス』/『目撃』/『真夜中のサバナ』/『ブラッド・ワーク』/『ミスティック・リバー

サウンド・オブ・サイレンス』/『ワン・ミス・コール

電撃 [DENGEKI]』/『ゴーストシップ』/『路上のソリスト』/『Be Cool/ビー・クール』/『アメイジング・スパイダーマン』/『バード』/『ゴシカ』/『ワルキューレ』/『ザ・エージェント』/『カンパニー・マン

理由』/『チョコレート』/『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』/『モンスター』/『カポーティ』/『私は貝になりたい』/『完全なる報復

コメント

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