『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(字幕・2D)』

新宿ピカデリー、スクリーン9入口脇のモニターに表示された『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』キーヴィジュアル。
新宿ピカデリー、スクリーン9入口脇のモニターに表示された『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』キーヴィジュアル。

原題:“Spider-Man : Far From Home” / 原作:スタン・リー、スティーヴ・ディッコ / 監督:ジョン・ワッツ / 脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ / 製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ヴィクトリア・アロンソ、スタン・リー / 撮影監督:マシュー・J・ロイド / プロダクション・デザイナー:クロード・パレ / 編集:ダン・レーベンタール、リー・フォルソム=ボイド / 衣装:アンナ・B・シェパード / 視覚効果監修:ジャネク・サーズ / 視覚開発主任:ライアン・メイナーディング / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:トム・ホランド、ジェイク・ギレンホール、サミュエル・L・ジャクソン、コビー・スマルダーズ、ゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロン、アンガーリー・ライス、レミー・ハイ、トニー・レヴォロリ、ヌーマン・アチャル、マリサ・トメイ、ジョン・ファヴロー、J・K・シモンズ / マーヴェル・スタジオ/パスカル・ピクチャーズ製作 / 配給:sony Pictures Entertainment
2019年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:林完治
2019年6月28日日本公開
2019年12月4日映像ソフト日本最新盤発売  [Blu-ray & DVDセット日本限定Blu-rayスチールブック仕様4K ULTRA HD + Blu-ray《スパイダーマン》シリーズ9作品Blu-rayセット]
公式サイト : http://www.spiderman-movie.jp/
新宿ピカデリーにて初見(2019/8/19)


[粗筋]
 全宇宙で巻き起こった災厄をアベンジャーズたちが終結させたことで、いちどは消えた人々が蘇った。しかし、消滅を免れた人々が5年歳を取ったのに対し、帰って来た人々は5年前のままだったため、各所で混乱が生じていた。
 復活したスパイダーマンことピーター・パーカー(トム・ホランド)も同様で、かつて泣き虫の男の子だったブラッド(レミー・ハイ)がイケメンの同級生になり、女子生徒の目を惹いていることにヤキモキしている。ピーターはこのたびの修学旅行で同級生のMJ(ゼンデイヤ)に告白する計画を立てているが、ブラッドがMJに接近することを激しく警戒していた。
 ピーターが気に病んでいることはもうひとつある。彼にとっては師も同然だったトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)の喪失だった。あらゆる場所で繰り返される鎮魂の祈りと、アベンジャーズの新たなリーダーの不在という事実が、ピーターの心に深い影を落としていた。彼のもとにはニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)からの電話が度々かかってくるが、出る気にもなれずにいる。
 そうこうしているあいだに修学旅行の日がやって来た。旅客機でMJの隣に座る、という計画はあっさりと崩れ、MJとブラッドの親しげな様子にいよいよ焦燥を募らせるも、ピーターはヴェネツィアの地で彼女のためのプレゼントを見繕っていた。
 ようやくMJと会話を交わす機会が得られた、と思った矢先、事件が起こる。運河から突如、水で出来た怪物が現れ、街を破壊しはじめたのである。ヴァケーションのつもりでいたピーターはスパイダーマンのスーツをホテルに置き忘れていた。とにもかくにもMJや同級生たちを避難させていると、空の彼方から何者かが飛来し、水の怪物と戦いはじめた――


[感想]
 スパイダーマンが“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”に復帰後、2本目となる単独主演作であると同時に、『アベンジャーズ/エンドゲーム』で大きな災厄を乗り越えたシリーズのフェーズ3ラストと位置づけられた作品である。
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』から続いた災厄があまりに大規模だったため、事態としては終着を見た前作を経てもその影響は著しい。だがそれゆえに、この20年のうちに何本も作られてきた『スパイダーマン』作品としてはもちろん、純粋にドラマとしても風変わりな世界観のなかで物語が展開している。かつては幼かった人間が同い年になっていたり、空白のうちに親しいひとが新しい関係を築いていたり、挙句はこの特異な状況を利用して詐欺まがいの行為に及んでいた話も浮上してきたり、と、細かくネタがちりばめられている。こうした、スパイダーマン抜きの世界観だけでも興味深く観られるのが本篇の特色だ。
 その一方で、先に完結したトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドのシリーズと大きく異なる点として、活躍の場が完全にアメリカを飛び出したことが挙げられる。スパイダーマンといえば、マーヴェル作品でも飛び抜けて青春ドラマとしての側面が強いが、それゆえに拠点であるニューヨークから離れることがなかった。MCU参加後をすべて通せば、既にもっと遠いところまで“出張”しているが、異国の地でここまで蜘蛛の巣を巡らせ、壁を這い回るスパイディが観られるのは、純粋なスパイダーマンのファンとしても嬉しいところだろう。
 しかも、前述した特異な背景に基づく事件を描きながらも、そのなかでしっかりとスパイダーマンの基調である青春ドラマも疎かにしていないのだから恐れ入る。『エンドゲーム』で訪れた大きな変化に打ちひしがれ、更に突きつけられた選択肢に悩む。そのくせ、MJへの想いも深くなっていて、いよいよ告白に踏み切ろうとしているが、消えているあいだに現れたライヴァルの存在にずっとヤキモキしている。ヒーローであることと、ごく普通の高校生であることのあいだで板挟みになる姿はもどかしくも微笑ましく、まさにスパイダーマンの本領だ。
 加えてこの作品は、敵役の設定も秀でている。『エンドゲーム』によって巨大な災厄を乗り越え、いわば新たな秩序がもたらされた世界にどんな“ヴィラン”が誕生しうるのか? という思考実験として極めて示唆的だ。似たような問題提起は同様のヒーロー映画で幾度か試みられてきたが、本篇は特にユニークかつ説得力がある。
 その異色のヴィランの行動、最後の戦いは、ピーター・パーカーに改めてヒーローであること、自らの才能と使命の意味合いを問うている。途中で犯す失態を後悔し、終始彼を支えるハッピー・ホーガン(ジョン・ファヴロー)や友人たちの存在によって励まされふたたび戦いに赴くさまは胸を熱くさせる。MCU的にも、スパイダーマンが『エンドゲーム』で空いた大きな穴を埋める存在に変わっていくことを示唆する流れは感動的だ。
 やはりどうしても作品としてはMCUの大きな枠内で考えざるを得ないが、その設定を繊細に活かし、成長を窺わせながらも“スパイダーマン”というヒーローを軸としたシリーズならではの美点は損なっていない。MCUのスパイダーマン物語としては理想的な1本だと思う。

 MCU全体ではこれが“フェーズ3”という括りのラストに設定されている。これで終わっていいの? と思うような更なる波乱含みの結末でもあったが、現実では更に波乱の展開が待っていた。
 今作を最後に、ふたたびスパイダーマンはMCUを離脱することになってしまったらしい。
 未だスパイダーマンシリーズの映画化権を保持するソニーと、MCUを統括するディズニーとのあいだで交渉が決裂し、スパイダーマンはふたたびMCUとは離れてシリーズを展開することになったという。
 収益の分配で揉めた、という話で、企業としては致し方のないところかも知れないが、これだけ作品の規模が大きくなり、多くのファンを抱えるようになったシリーズだからこそ、双方で折れるべきところは折れて欲しかった。ぶっちゃけ私は、いちおうは可能な限り追いながらも、膨張しすぎたMCUにそろそろ倦みつつあったので、MCU自体が一区切りとなっても構わない、とは思っているのだが。
 ただし、現時点でソニーは引き続き、トム・ホランドによるスパイダーマンをリリースする、と発表している。ソニーはMCUへの復帰にあたって、決して評判の悪くなかった先代アンドリュー・ガーフィールドのシリーズを2作で打ち切った経緯があったが、或いはあのとき、どこかから批判を受けたのかも知れない――かく言う私も、あまりいい印象は受けなかった。
 ファンのみならず、出演者やルッソ兄弟ら以前に関わったスタッフからも改めてMCU復帰を求める声は止んでいないことを思うと、けっきょく次もMCUの1本として登場する芽は残っていそうだ。しかし、たとえMCUでなくなったとしても、トム・ホランドによるスパイダーマン=ピーター・パーカーの物語はきちんと決着させていただきたい。もういっかいガーフィールド版の轍を踏んだら、さすがにファンがソニーを見放すぞ。

 ――と、この上の項までを書き上げたのが2019年9月29日。
 明けて30日、電撃のように、スパイダーマンのMCU残留が決まった。
 改めて責任者同士の会合が開かれ、新たな契約のもと、ディズニー/マーヴェルとソニーの協力で続篇を制作、またディズニー側の制作するマーヴェル映画にも、1本には再登場することが正式に発表されたという。
 ファンやクリエイターたちの声が上層部を動かし、本篇の劇的な展開を締めくくるチャンスが与えられた格好である。それ自体は喜ばしいことだ、が……どっちにしても、待っているファンをあんまり振り回さないで欲しい。ぶっちゃけ上の人たちが最強のヴィランに見えてますから。


関連作品:
アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『マイティ・ソー バトルロイヤル』/『ブラックパンサー』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アントマン&ワスプ』/『キャプテン・マーベル』/『アベンジャーズ/エンドゲーム
エジソンズ・ゲーム』/『複製された男』/『ミスター・ガラス』/『グレイテスト・ショーマン』/『グランド・ブダペスト・ホテル』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『ウルフ・オブ・ウォールストリート』/『ジャスティス・リーグ
スパイダーマン』/『スパイダーマン2』/『スパイダーマン3』/『アメイジング・スパイダーマン』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『スパイダーマン:スパイダーバース』/『ヴェノム
旅情(1955)』/『ベニスに死す』/『ボディガード

コメント

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