『死霊高校』

新宿ピカデリー、スクリーン5入口前のポスター。

原題:“The Gallows” / 監督&脚本:クリス・ロフィング&トラヴィス・クラフ / 製作:ジェイソン・ブラム、ガイモン・キャサディ、ディーン・シュナイダー、ベンジャミン・フォークナー、クリス・ロフィング、トラヴィス・クラフ / 製作総指揮:デイヴ・ノイスタッター、ウォルター・ハマダ、クーパー・サミュエルソン / 編集:クリス・ロフィング / 音響効果:ブランドン・ジョーンズ / 出演:リース・ミシュラー、シェイファー・ブラウン、ライアン・シューズ、キャシディ・ギフォード / ブラムハウス/エンタテインメント360/トレメンダム・ピクチャーズ製作 / 配給:Warner Bros.

2015年アメリカ作品 / 上映時間:1時間21分 / 日本語字幕:今泉恒子 / PG12

2015年8月22日日本公開

公式サイト : http://www.shiryoukoukou.jp/

新宿ピカデリーにて初見(2015/08/25)



[粗筋]

 1993年、ビアトリス高校の演劇公演のさなか、悲劇が起きた。『絞首台』と題された物語のラストシーン、死刑に処される主人公を演じていた生徒が、セットの誤作動により実際に吊されてしまい、そのまま帰らぬ人となったのだ。

 それから20年の時を経て、学校にこの忌まわしい記憶を残すこの芝居が、ふたたび舞台にかけられることとなった。

 多くの生徒はこの舞台に情熱を傾けているが、ライアン(ライアン・シューズ)はそうではなかった。やむを得ず裏方仕事を手伝っているが、興味があるのはフットボール部の同輩で、何故か『絞首台』の主役に抜擢されたリース(リース・ミシュラー)の醜態だった。演技経験などなく、本番前日になってもお粗末な芝居に留まっているリースに歯痒い想いを抱いている。

 どうやらリースが、ヒロインを演じるシェイファー(シェイファー・ブラウン)に気があるために必死になっているらしい。講堂の裏口の鍵が壊れていつでも侵入が可能になっていることを知ったライアンは、悪巧みを思いついた。見るに耐えないリースを救うため、と称して彼を誘い、夜の校舎に潜り込み、セットを破壊するのである。そうすれば上演は不可能になり、この劇に賭けていたシェイファーは落ち込む。そんな彼女を慰めれば、リースは晴れてシェイファーをものに出来る。

 ライアンの恋人キャシディ(キャシディ・ギフォード)も加えた3人で夜の講堂に忍び込んだ。計画は容易いように思われた――何者かの気配を感じるまでは。

[感想]

 もうそろそろファウンド・フッテージ方式のホラーには飽きてきた、というひとも多いだろう。しかし、このスタイルがまるで作られなくなる可能性はかなり低いと思われる。

 色々と理由は挙げられるが、いちばん大きいのは、低予算で作れる、という点であるのは間違いないだろう。設定さえきちんと考慮すれば、セットはほとんど不要、特殊効果さえも最小限で撮影できる。物語の中にカメラがある設定ゆえ臨場感も充分だし、登場人物が構えているのが基本なので、肝心なものをあえて映さない、という工夫も可能だ。やり方さえ理解すれば、極めて低予算でインパクトのあるホラーが撮れるのだから、このジャンルに参入しようとする若手があえてこのスタイルを選択するのも当然だろう。

 本篇の場合、既に何本もの大ヒットを飛ばしたプロダクションが手懸けているが、そもそもこのスタッフは近年のファウンド・フッテージ・ホラーの先駆けとなった『パラノーマル・アクティビティ』に携わっているし、製作には監督、脚本コンビも名を連ねている。はじめから低予算で製作することを前提に企画を提示した、と想像出来る。

 序盤こそ、演劇の設営やフットボール部の部活のシーンなどでエキストラを動員しているし、芝居のセットはわざわざ組んでいるようだが、その程度だ。あとはほぼ、どこかの施設を高校としてそのまま用いていることが窺える。そして、本筋に入ると主要キャストは僅かに4人。『パラノーマル〜』よりはずっと規模が大きいが、それでも撮影規模は画面からも察しがつくほどコンパクトだ。発生する怪奇現象自体も、実はそれほど数は多くないし、ごく単純な方法で再現できるものが主体なのである。

 にも拘らず、導入が片付き、夜の校舎のくだりになると、終始緊張が続く。何も起きていない段階であってもホラー愛好家なら「これは怪しい」と感じる要素を随所に鏤め、観る側の意識を巧みに刺激してくるからだ。怪奇現象や、その一歩手前の“異変”でも、しばし観客にのみ意識させて登場人物には気づかせない。このあたりの呼吸に終始そつがない。インパクト不足、と解釈する向きも多かろうが、恐怖を感じる素朴な感覚を見誤っていないし、それがきちんと観ているあいだ効果を上げているのだから、主観視点による体感を重視したホラーとしては充分に成功している。

 ほぼ作り方、見せ方についての評価ばかりだったが、アイディアもなかなかなのである。これも決して独創的なものではないのだが、本篇のシチュエーションのなかでは活きている。

 多くのホラー映画は、その設定故に、青春映画の色彩を帯びることがあるが、本篇はその典型と言えよう。しかも、こういうファウンド・フッテージものでは意外と例が思いつかない――前述したように、このスタイルはもう定番となってしまったので、私の知らないところでは作られている可能性もあるが、日本で、しかも劇場公開が実現するレベルでは珍しいのは間違いないはずだ。

 しかも、本篇の青春映画としての手応えはなかなかに侮りがたい。演劇に情熱を傾ける級友たちを下に見るライアンの言動や、苦笑いしつつも付き合う恋人キャシディ、ライアンの言葉に振り回されるリース、そして彼らと距離を置きつつ原動力としてうまく機能しているシェイファーの存在。そして、こういう限られた人物関係の中で築かれたドラマが結実するクライマックスは、思いがけず厚みがある。構図の組み立てまで憎らしく巧い。

 随所に、本筋と絡まず、解釈しようにも浮いてしまう事象が見られる。たとえば途中で孤立したライアンが目撃する“影”など、何故あそこで目撃したのか、ひいては何故見せる必要があったのか、内容的にも表現的にも位置づけが不明瞭になっている。そういうところの筋道までしっかりつけていればより完成度は高まったと思われる。

 だが、ファウンド・フッテージという手法がもたらす臨場感と緊張感を巧みに活かし、恐怖感をその場その場で濃密に味わうことが出来る、という意味では、充分にいい仕上がりだ。半端にすれっからしだといまいち納得がいかないかも知れないが、普段ホラー慣れしていないひとが恐怖を味わうには非常に適した作品であろう。

関連作品:

パラノーマル・アクティビティ』/『インシディアス』/『フッテージ』/『セッション

REC/レック』/『REC/レック2』/『SHOT/ショット』/『グレイヴ・エンカウンターズ2』/『スピーク』/『POV 〜呪われたフィルム〜』/『[アパートメント:143]』/『ある優しき殺人者の記録

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キャリー』/『アナザー Another』/『シグナル

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