『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!(4DX2D)』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン7の前に掲示されたポスター。

監督、脚本、撮影&出演:白石晃士 / プロデューサー:石山成人、青木基晃、相良直一郎 / ラインプロデューサー:小谷不允穂 / 特殊造形:土肥良成 / ヘアメイク&衣裳:村木アケミ / 編集:宮崎歩 / 録音:山本タカアキ / 音響効果:渋谷圭介 / キャスティング:森正祐紀 / 監督助手:妙円園洋輝 / 車輌:菊池透 / 撮影応援:野尻喜昭 / ドローン撮影:城田道義 / エンディングテーマ:Q’ulle『UNREAL』 / 出演:岡本夏美渡辺恵伶奈、松本妃代、大迫茂生、久保田智夏 / 制作:Uhulu films/ 配給&宣伝:KICCORIT

2016年日本作品 / 上映時間:25分

2016年1月16日日本公開

公式サイト : http://4dxmovie.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2016/1/16) ※初日舞台挨拶付上映



[粗筋]

 普段から仲がいいナツミ、エレナ、キヨの3人は、不気味な噂のある廃校を訪れた。監督兼カメラマンの田代正嗣の出すミッションをこなしていく様を、映画館に生中継する、という趣旨である。

 だが、放送開始直後に、想定外の事態が起こる。突如現れた、ピエロのような扮装をした不気味な男に襲撃され、逃げ込んだ校舎内に閉じ込められたのである。

 しかも、校舎の中でいきなり巨大な赤い蛇にキヨが襲われ、行方が解らなくなる。更に不気味な怪物に立て続けに襲われ、ナツミとエレナ、そして田代の3人は為す術もなく校内を逃げ回る。

 どうやって逃げ出すべきか、しかしキヨをこのまま見捨てるわけにもいかない。考える間もなく新たな怪異が彼女たちを襲う。そして、その光景はすべて、カメラを介して映画館へと届けられるのだった……

[感想]

 あえて断言はしていないが、おそらく世界的に見ても“初”の4DX専用映画である。

 4DXやMX4Dの体感型上映に対応した作品は、しかし基本的に通常のシステムでも上映されているものであり、劇場内に設置した仕掛けを駆使した演出は、いわば“付加価値”だ。この演出を有効利用すれば、作品の臨場感を向上させることが出来るが、実のところ、なくても問題はない。実際、私は幾つかの作品でMX4Dによる上映で観賞してみたが、絶対にあれが必要だ、とまでは思わなかった。

 しかし、初めから4DX専用であることを前提として制作したなら話は別である。ましてそれが白石晃士監督の作品ともなれば、これは間違いなく劇場で鑑賞する価値がある。

 注目すべきは、白石監督が極めて稀な、“フェイク・ドキュメンタリー”形式を突き詰めている人物である、ということだ。

 フェイク・ドキュメンタリーはその名の通り、ドキュメンタリーを装ったスタイルで撮影される。一般のフィクションでは、カメラは存在しないものとして捉えられるが、このスタイルにおいては基本的にカメラ、および撮影者は物語のなかに存在している。一般のフィクションで体感型上映の演出を加えた場合、観客が目にしている映像のどこに自分がいるのか、という点をしっかり考慮して劇場内の演出を構成しなければ、却って不自然な印象を残してしまう。翻って、観客が観ている映像をたった1台のカメラに固定して撮影していれば、そのカメラを経て伝わるであろう感覚を劇場内に再現すればいいだけで、作り手に迷う余地がない。そして、不自然な印象も、設備の能力ギリギリまで軽減することが出来る。つまり、もともとこのスタイルを掘り下げている白石監督は、4DXのポテンシャルを最も活用できる素質のある人物であった、と言えるわけだ。

 実際に鑑賞してみて、この期待はまったく裏切られていなかった――が、ただし、本篇を撮影するうえで白石監督は、“4DXの効果を活かす”ということ以外をあえて切り捨てる策に出た、ということは触れておくべきだろう。

 本篇を体験してみて悟ったが、この4DXの効果を全篇、一切容赦なく詰め込まれると、観ているほうがしんどい。終始椅子は揺れるし水は被るし、仮に2時間の映画でこれをやられたら、たぶん吐く。恐らく、本篇のように25分くらいの尺に抑えるのがいちばん適当なのだ。

 25分しかないから、起承転結をしっかり組み立てたり、謎解きの趣向などを盛り込む余裕などない。だからこそ監督は割り切って、全篇“4DXの仕掛けを利用する”ことに特化して場面を組み立ててしまった。結果、この作品を観ても、登場人物たちが何故こんな目に遭うのか、怪物たちの目的は何なのか、などは一切理解できない代物になっており、ジャンル的にはホラー映画に分類されるはずなのに、“怖い”という感覚をもたらさない内容になっている。

 ただそのぶん、“非現実の世界”を存分に体感させてくれることだけは請け合いである。いきなり不気味なピエロ姿の男に襲われて廃校に閉じ込められ、謎の化物から逃げ惑う。正体不明の体液を浴びせられ、背中から振るわれる鎌が首筋を掠める感覚を味わわされる。終盤近くなると、奇妙な異空間にまで投げ出されるが、恐らく映像だけなら“チープ”のひと言で片付けられてしまうような光景が説得力を帯びるところまで持ってきているのだから恐れ入る。

 ストーリーとしての辻褄や、オーソドックスな見せ方をあえて切り捨てる一方で、白石監督作品を追ってきたひとにはひと目で解るような“らしさ”を残しているのも特筆すべきところだろう。前述した異世界の表現や妖物のモチーフは、傑作『ノロイ』あたりから始まり、『オカルト』や『カルト』、そして近年白石監督の名を知らしめるきっかけとなった『コワすぎ!』シリーズと通底する世界観が、本篇のモチーフには色濃く窺える。特に、『コワすぎ!』と共通する出演者たちの扱いは、あのシリーズのファンならば勘繰らずにはいられないほど周到だ――目聡い人なら気づくだろうが、そもそも本篇の舞台となっている廃校は、明らかに『コワすぎ!』の中でも特に評価の高い“トイレの花子さん”のエピソードと同じロケーションを用いているのだからなおさらである。

 もともと白石監督は、自らの選択した趣向や方法論をストイックに突き詰めるタイプの映画監督である、と捉えている。フェイク・ドキュメンタリーの方法論を極限まで掘り下げた『ノロイ』しかり、自身も撮影者として物語世界に加わり、異世界描写から掟破りのパラレル・ワールドにまで踏み込んでしまった『コワすぎ!』シリーズしかり、暴力描写と純愛を見事にミックスしてしまった『ある優しき殺人者の記録』しかり、である。4DXという仕掛けを存分に活用する、という目標を設定した結果、こういう作品に結実するのは必然と言えよう。

 とりあえず、白石晃士監督の作品を複数鑑賞し、楽しめる人であれば、25分という尺にしては少々割高なチケット代を払う価値はある。もし白石作品に親しんでいないとしても、従来の4DX作品に物足りなさを感じていたなら、いちど接してみて損はない内容だろう。

 ――ただし、鑑賞の際には予め体調を整えておくよう申し上げておきたい。通常の体感型上映対応作品でも、体調の悪い方への注意喚起を行ってはいるが、本篇ほどこの注意が必要な作品は今のところ存在しないはずだ。

関連作品:

ノロイ』/『裏ホラー』/『オカルト』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 【最終章】』/『ある優しき殺人者の記録

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