原作:小野不由美(角川文庫・刊) / 製作:松井智、小松賢志 / 企画:永田芳弘 / プロデューサー:姫田伸也、田坂公章、楢本晧、小田泰之 / アソシエイトプロデューサー:植野亮 / メインテーマ:安川午朗 / ナレーション監修:鈴木謙一 / ナレーション:竹内結子 / 配給:日本出版販売
2015年日本作品 / 上映時間:1時間40分
2015年12月よりネット配信開始
2016年1月23日一夜限定で劇場公開
公式サイト : http://kidan100.com/
テアトル新宿にて初見(2016/1/24) ※一夜限りのオールナイト上映会
[粗筋]
『追い越し』
監督:中村義洋 / 脚本:鈴木謙一 / 出演:岡山天音、藤本泉、森崎ウィン、吉倉あおい
いわゆる心霊スポット巡りを繰り返していた大学生たち。それっぽいことにいちいち騒いで楽しんでいるだけのはずが、帰り道で……
『影男』
帰省し、実家の母に子供たちを預けた女性。母は子守をしているうちにうたた寝してしまうが、異様な物音で目を覚ました……
『尾けてくる』
監督&脚本:安里麻里 / 出演:久保田紗友、田村泰二郎、眼鏡太郎
女性は高校時代、帰り道の公園で、自分を凝視する男を見つける。不気味に思い、通りすがりの年配の男性に助けを求めるが……
『一緒に見ていた』
監督&脚本:大畑創 / 出演:淵上泰史、屋敷紘子、中原和宏、重松隆志、緒沢あかり
事務員の女性が教室で自殺した。同僚たちが対処に追われるなか、男性教師は見張りのために教室前の廊下に残っていたのだが……
『赤い女』
監督&脚本:大畑創 / 出演:高田里穂、加弥乃、比嘉梨乃、和地つかさ
転校してきたばかりの同級生から聞かされた、“赤い女”にまとわりつかれるという怪談。他の同級生も集まった誕生日パーティーの余興に、彼女もその怪談を語ったのだが……
『空きチャンネル』
監督&脚本:岩澤宏樹 / 出演:高尾勇次、石賀和輝、谷井優貴
深夜の勉強中、ラジオを点けると、空いているはずの周波数から奇妙な音声が聞こえてくる。果てしなく続く愚痴が面白く、いつしか聞くことが癖になっていたが……
『どこの子』
監督&脚本:岩澤宏樹 / 出演:小野孝弘、野村修一
残業する、という新任教師に、「やめておいたほうがいい」と諭す先輩教師。先輩教師が帰って間もなく、無人のはずの校内に、女の子が現れた……
『続きをしよう』
監督&脚本:内藤瑛亮 / 出演:石井蓮、酒井天満、安藤千織、北原十希明、三澤和歩、正垣那々花、矢口凛花、大藤瑛史、江口奏太
普段は、中で遊んではいけない、と大人から注意される墓地。しかし、その日に限って子供たちは、大勢で遊び回っていた。やがて、一人の子供が怪我をするが、他の子供たちはなおも遊び続ける……
『どろぼう』
監督&脚本:内藤瑛亮 / 出演:萩原みのり、小橋めぐみ、西田薫、
子沢山の家の主婦は、大きなお腹を指摘されて、「太っただけ」と苦笑いする。そのうちに主婦のお腹は引っ込んだが、彼女の子供は近所の少女に奇妙な話をするのだった……
『密閉』
監督&脚本:白石晃士 / 出演:三浦透子、細川佳央、西山真来
いくらしっかりと閉めても開いてしまうクローゼット。そこには、別れた彼氏がどこかで拾ってきた旅行鞄が置いてあった……
[感想]
原作は『十二国記』シリーズなどで知られる小野不由美が怪談専門誌『幽』に連載していた怪談文芸である。単行本化される際、対となる長篇『残穢』を発表しており、そちらが『残穢 −住んではいけない部屋−』として映画化されるのに合わせて、全99話のなかから選ばれた10話を映像化、『残穢』映画版の公開に先駆けてネット配信にて公開されたのが本篇である。
いわゆる怪談シリーズの映像化という企画は何度か行われている。たいてい、原作のなかから数篇を選んで別々の監督が映像化、それをオムニバスというかたちで放送されたり、まとめて劇場でかけられたりしているが、本篇もスタイルとしては同様だ。『残穢』でもメガフォンを取った中村義洋監督が1篇、2016年夏に『貞子VS伽椰子』を発表する白石晃士監督が1篇、ほか4人の監督がそれぞれ2篇ずつを手懸けている。
前述した『新耳袋』は無名の監督たちにも活動の場を与え、それぞれがホラーを中心に多くの分野に羽ばたいていく礎をもたらした、という点で非常に意義のある連作となった。他でもない、本篇に参加した監督のなかでも、安里麻里、大畑創、内藤瑛亮の3名はここで経験を積んでいる。
しかし本篇は6人いずれも、程度の違いこそあれ皆、長篇作品を発表し注目されていた才能ばかりだ。恐らくこの6人が競作する、という機会は今後あまりないはずなので、その意味でも貴重な連作と言えるだろう。
そして、それぞれ10分ほどの尺で撮っているのに、実によく個性が表れている。各々の監督の作品に触れていると、それを実感するはずだ。
あいにく、内藤監督については長篇作を観たことが未だないので、私としては判断しづらいのだが、他の5人のなかで特に個性を示しているのは大畑監督、とりわけ『赤い女』のエピソードではなかろうか。象徴的な導入にやたらと動きのある展開、そして結末で覗くシニカルさ。体験者の語りに基づく、という、実話怪談のルールに則ると少々危うげではあるのだが、『へんげ』などで示す大畑監督の娯楽志向が窺える作りだ。
この連作が、作品ごとに監督を入れ替えつつも筋が通って見えるのは、そうした“怪談”としてのルールを守っているからだ。『残穢』の主人公であり、同作の中で本篇の原作を書き進めている、という設定になっている竹内結子のナレーションを全作に施し、体験者として“私”に内容を伝えねばならないそれぞれのエピソードの主人公が死ぬことはない。各々の監督が原作を自分なりにアレンジしつつもひとまずの調和を保っているのは、このルールがあればこそ、である。監督らの話から推測するに、この辺りは本物の原作者がシナリオを確認していたことも奏効しているようだが。前述した大畑監督はそのあたりでダメ出しを受けていた、という話も聞く。
ただ、そうしたルールに則っているが故に、ホラー映画ならではの振り切った趣向、演出が出来ない、というリスクも背負っている。そのため、“怖さ”という面では物足りなさを感じるひとも多いだろうが、しかし怪談の面白さは“恐怖”よりも、現実に紛れ込む異物感、傍にある違和感を抽出していることにある。それ自体が恐怖を誘う怪奇描写もさりながら、現象の背後を想像させるから面白いし、怖い。まったくいわくの不明な『影男』の理不尽な怖さ、『空きチャンネル』のすぐに体験出来そうな身近さ、『どろぼう』の業や欲望をちらつかせる歪さなど、観る側の想像を逞しくさせる要素が、本篇ではきちんと用意されている。怪談ドラマとしての質の高さは、全員がホラーに対して造詣を持っていればこそだろう。
いずれも各々の監督の個性がしっかり出ているため、どれがいちばんの出来か、どれが好みか、という話になると相当に意見が割れそうだが、もっともしたたかで興味深い作りをしているのは、白石晃士監督の『密閉』だろう。怪奇現象の趣向はむしろ本篇の中でいちばんストレートではあるのだけれど、原作をあえてアレンジした部分に、映像ならではのひねりを用意している。この辺り、映像だけでも面白いのだが、原作を併せて読むと余計にニヤリとさせられる――人間は、語ったそのままの行動をしているとは限らない。飾りもするし嘘もつく。そんな人間の生臭さを短い尺の中で巧みに切り取った、実に憎らしい出来映えである。
原作自体も対になっており、映像としても『残穢』と共鳴する要素があるので、併せて観賞するのが間違いなくお勧めなのだが、この10篇の連作だけでも、近年の日本産ホラーの精華が味わえるはずだ。先にも記した通り、この面々が再び集結する機会はそうそうないはずなので、彼らが同じ枠組みの中で競い合った本篇は、今後国産ホラーの通を標榜したいのであれば、チェックしておくべきだろう。
関連作品:
『Booth ブース』/『呪怨 黒い少女』/『劇場版 稲川怪談 かたりべ』/『ほんとにあった!呪いのビデオ55』/『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』
『ステキな金縛り』/『アナザー Another』/『劇場版 怪談レストラン』/『怪談新耳袋[劇場版] 幽霊マンション』/『へんげ』/『戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版』
『怪談新耳袋[劇場版]』/『「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭』/『ROOM 13』/『コワイ女』
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