詐欺に遭ったらしい。

 先月初旬、所在地の役所の健康保険課職員を名乗る人物から電話がありました。昨年の医療費還付の書類を今年はじめに送ったが、締切である5月末を過ぎても手続がない、というのです。

 実は気になっていたのです。収入に応じて月あたりに支払う医療費に限度を設けてもらえる制度を利用しており、複数の科や薬局の処方薬に支払ったぶんなど、超過して支払った分については翌年に通知があり、申請をすれば口座振込にて還付してもらえる制度がある。透析を受ける以前の父が幾度か利用しており、私自身も手術を受けた際に還付を受けたことがあるので、連絡がないのが引っかかっていた。

 電話口の担当者は、締切を過ぎても、書類を再送するのでふたたび申請は可能、というのですが、だとしたら問い合わせをする前に再送すればいいだけの話。そもそも、前述のような事情で連絡がないのを気にしていた私としては、そんな通知が届いていなかったことは断言できる。仮に郵便事故があったとしても、そのあたりはしっかり管理するべきでないのか。そうした趣旨で追求すると、先方はすっかり圧倒されたようで、とにかく2週間ほどで書類を送るので手続をして欲しい、と言い、電話を切った。

 すっかり忘れていたのですが、今週になって急に思い出し、未だ書類が届かないことについて、役所に問い合わせてみた。

 ……どうやら、いわゆる還付金詐欺の、新手だったようです。

 実は先月、まさに同様の件で複数の問い合わせがあったらしい。役所のホームページにもちゃんと注意喚起の記事が載っていたのですが、電話番号を確認しただけだったので気づかなかった。念のために確認していただいたところ、私の場合、昨年手術を受けた月だけが限度額を上回っていたのですが、超過額が水準を超えていなかったため、還付の対象にはならず、通知がないのが当然だったのです。また、仮に通知があったとしても期限は2年ほどありますし、還付の手続が行われなかったとしても役所から連絡することはない。そりゃ当然だ。還付しなければ公費になるだけなんだから。

 危うく引っかかるところだった、というか今日まで気づかなかったので実質引っかかっていたようなものなのですが、ただ、あとでふと思い至った。

 もしかして私、還付金について一定の知識があったお陰で、無自覚のうちに撃退してたんじゃなかろうか。

 役所のホームページに掲載された情報では、この詐欺は入口こそ新手ですが、肝心の金を奪う手管は、ATMに誘導する、という有り体のものだったらしい。もちろん、そこまで行けば私が引っかかることは絶対にない、と言い切れますが、詐欺師が「書類を送る」という弁解で切り上げたのは、詐欺の常套手段が通用しないと悟ったか――執拗に食い下がる私に辟易したのかも知れません。

 一般的な還付金の書類送付の時期が合っていたこと、電話に出たときちゃんと“健康保険課”という、実在する部署の所属である、と言っていたことから、詐欺師が医療費還付の制度について知っていた可能性は高い。その辺が新手で悪質、と言えますが、しかし翻って、利用した経験がある、制度について知識がある人間だと、そもそも詐欺だと気づかないまま回避できる程度のやり口でもある。「後日書類を送る」という言い訳で、私が通報するまでの時間は稼げたでしょうが、なんとなく彼らはこの医療費還付制度を用いたやり方を早々に放棄するんじゃないか、と感じてます。

 ……だって、私みたいに執念深い人間に20分近く絡まれて、罵倒することも出来ずごまかすしかないのでは、あまりに非効率的でストレスも溜まるでしょうし。

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