原題:“PTU” / 監督・製作:ジョニー・トー / 脚本:オー・キンイー、ヤウ・ナイホイ / 撮影監督:チェン・チュウキョン(HKSC) / プロダクション・デザイナー:ジェローム・ファン、リンゴ・チュン / 編集:ロウ・ウィンチョン / 衣装:スーキー・イップ / 音楽:チュン・チーウィン / 出演:サイモン・ヤム、ラム・シュー、マギー・シュー、ルビー・ウォン、レイモンド・ウォン、エディ・コー / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:パンドラ / 映像ソフト発売元:KING RECORDS
2003年香港作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:?
2005年4月23日日本公開
2005年10月5日DVD日本盤発売 [amazon]
公式サイト : http://www.pan-dora.co.jp/ptu/ ※閉鎖済
DVDにて初見(2010/05/05)
[粗筋]
PTU=香港警察特殊機動隊は、夜の繁華街のパトロールと初動捜査を担当する部隊である。それだけに危険と対峙する場面も多く、その晩も隊員のひとりが殉職したという報道が流れていた。
ホー隊長(サイモン・ヤム)が率いるPTU小隊に、別の小隊から呼び出しがかかる。路地裏で倒れていた組織犯罪課のサァ刑事(ラム・シュー)から指命があったのだという。彼は階段で転んだ、と言い張るが、明らかに暴行を受けたような怪我を負っている。それでも断固として譲らないサァ刑事を、ホー隊長は解放するように言うが、しかし直後、サァ刑事はもっと深刻な事態に直面していたことに気づいた。
携帯していたはずの、拳銃がない。
ことここに至って、サァ刑事は酒場で、ハゲと呼ばれる犯罪組織のボスの息子マーとその仲間たちとトラブルになり、襲撃されたことを打ち明ける。どうやらその際、奪われた可能性がある、というのだ。間もなく昇進が控えている、というサァ刑事のために、ホー隊長は巡回の終了する翌朝まで、という条件で、彼の拳銃探しを手伝うことにした。
だが別行動を取ったその直後、サァ刑事の元に不穏な連絡が届く。マーが殺害された、というのだ。現場に急いだサァ刑事は、マーが射殺ではなく刺殺されていたことに一瞬安堵するが、しかしマーの仲間たちが、彼から盗んだ拳銃で報復に及ぶ可能性に思い至ると、ふたたび顔面蒼白になる。
そのとき、携帯電話が鳴った。サァ刑事は聞き慣れた着信音に、自分の携帯電話を取り出すが、鳴っていない――それは、マーの携帯電話の着信音だった。
[感想]
好む題材が銃撃戦や男たちの絆、といったものであるせいだろう、ジョニー・トー監督の作品は全般に犯罪絡みになりやすいようだ。ただ、そんな中にあっても、犯罪組織や、それに雇われる流れの殺し屋、といったものが中心に据えられることが多く、本篇のように警察組織を中心にしたものは、やや少ないように思われる――たまたま、私が観た作品が犯罪組織絡みのものに偏ってしまっただけかも知れないが。
だが、警察組織をメインにした本篇にあっても、その行動は決して法に則ってはいない。普通、所持している拳銃を紛失したとあれば一大事、報告の上捜索が行われ、当事者には懲罰が下される、という流れになるだろう。それではドラマにはならない、というのも正論だが、紛失した当人は最初その事実を隠しおおせようとし、話を知ったPTUの隊長は、巡回の合間を縫って捜索をする。あからさまな規則違反に、部下でさえも抵抗を示し、当然のように別部署からも疑いの眼差しを向けられる。
こうしてみると、犯罪組織を描いた作品と、基本的なトーンは変わらない。現実はそういうものだ、とうそぶいているとも捉えられるし、エンタテインメントとして過剰になることを躊躇わないこの監督の流儀からすると、あくまで公平に扱っている、と見るべきところかも知れない。
いずれにせよ、趣向に富んだ映像の魅力と、圧倒的な面白さはいつも通りだ。基本は題名通りPTUの動きを追っているが、並行して、銃を失った刑事の右往左往ぶりや、不審な行動を繰り返す彼等に疑惑の目を向ける別部署の振る舞い、さらには関係者の死に殺気立つ犯罪組織の様子まで絡め、気付けば事態は混沌とし、話の先が読めなくなる。PTUの夜勤が明ける早朝のタイムリミットに向けて醸成される奇妙な緊張官が秀逸だ。
そして、様々な動きが入り乱れた結果として、ラスト数分に繰り広げられる銃撃戦のインパクトは、なまじ他の作品と比べてアクションが控え目なだけに強烈だ。最後の決闘のためにじわじわとドラマを積み上げた様は、さながら現代の西部劇といった趣を感じる。
かなり法を逸脱した警察の姿を描いているうえ、最後の最後でユーモアに流れ、反省する様子もない展開に、どうしても嫌悪感を覚える向きもあるだろう。だが、こういう仕事がルールを遵守したり、綺麗事を並べ立てるだけでは立ち行かない、という現実を、ある種諦念とともに提示している、とも解釈できる。
いずれにせよ、ジョニー・トー監督らしいテンポの良さ、スタイリッシュで匙加減の絶妙な人物表現はそのままに、ちょっと違った後味を残すという、この監督の持つ奇妙な度量の広さを感じさせる作品である。男たちの世界を扱いつつも、本篇は『エグザイル/絆』のようなタイプではなく、どちらかと言えばのちの『スリ』に通じるスタイルと言えるかも知れない――女性までが儚くも凛々しかったあちらと較べると、本篇の数少ない華である女性刑事最後の行動はあまりに間抜け、という気がするけれど。
関連作品:
『エグザイル/絆』
『スリ』
コメント
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