『ロンゲストナイト 暗花』DVD Video(Amazon.co.jp商品ページにリンク)。
原題:“暗花” / 英題:“The Longest Nite” / 監督:パトリック・ヤウ、ジョニー・トー(ノンクレジット) / 脚本:セット・カムイェン、ヤウ・ナイホイ / 製作:ジョニー・トー、ワイ・カーファイ / 撮影監督:コ・チウラム / アート・コンサルタント:ブルース・ユー / 美術:サイモン・ソー、ツイ・クォックキョン、パトリック・ツイ / 衣装:サイモン・ソー / 武術指導:ウー・チーロン / 音楽:レイモンド・ウォン / 出演:トニー・レオン、ラウ・チンワン、マギー・シュー、ロー・ホイパン、ロン・フォン、チン・シウロン、ウォン・ティンラム、マーク・チェン、ユエン・ブン、ラム・シュー / 配給:Only Hearts / 映像ソフト日本最新盤発売元:Art Port
1997年香港作品 / 上映時間:1時間21分 / 日本語字幕:?
1999年1月8日日本公開
2009年11月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2021/4/15)
[粗筋]
マカオの暗黒街を2分していた犯罪組織の勢力に、変化が起きようとしていた。
ケイとジョージ、ふたりのボスが近年激しく対立を重ね、多数の犠牲者を出していたが、マカオの顔役であったホンが舞い戻り、2つの勢力の一掃を目論んだ。ふたりのボスはいっとき姿を隠し、遂に同盟を結ぶところまで漕ぎ着けた。
そんな矢先、何者かがジョージに500万ドルの賞金を賭けた、という噂が広まる。間もなく交渉を済ませるためマカオに帰還するジョージが殺害されれば、瞬く間にマカオはホンの手中に収まる。ケイは最悪の事態を防ぐため、警察組織にいながらケイと相通じ、汚れ仕事をこなしてきたサム(トニー・レオン)に暗殺を防ぐよう命じる。
サムが拷問も厭わず情報を集めるなか、奇妙な事件が起きる。サムの部屋で、首のない屍体が発見されたのだ。賞金の話といい、何者かが暗躍していることは確かだが、サムはその全容を掴めない。
同じ頃、マカオにイウトン(ラウ・チンワン)という男が現れた。サムや、ケイと関係する店に出没するこの男に、サムは釘を刺そうとするが――
[感想]
クレジットの監督は、金城武主演『パラダイス!』を手懸けたパトリック・ヤウになっているが、imdbなどを参照するとジョニー・トーもまた併記されている。トー監督、それに脚本のヤウ・ナイホイという組み合わせは、傑作『ザ・ミッション/非情の掟』や『ドラッグ・ウォー 毒戦』、或いは異色作『マッスルモンク』に『名探偵ゴッド・アイ』と、ひと癖もふた癖もある作品で組み続けている。本篇は代表作である『ミッション/非情の掟』以前だが、ユニークな作風は既に濃密に窺える。
冒頭、マカオの暗黒街における勢力争いをナレーションで説明するくだりはいくぶん野暮ったさがあるものの、背景を提示したあとの語り口はむしろ説明を廃し、観る側が積極的に描写を読み解き理解することを求めてくる。語り手であるサムが、一方の首領であるケイの意向を受けて暗躍する刑事であることは段階的に判明してくる一方、曰くありげに登場するイウトンの背景、目的はなかなか明かされない。サムの手段を選ばない暗殺者捜しと、イウトンの不可解な振る舞いを軸とする謎が、渦を巻くようにして物語は深まっていく。まるでギャング映画にミステリが潜り込んできたようなトーンだ。
疑われ、拷問同然の尋問を受けても態度を明確にしないイウトンの佇まいは、極めて不気味だ。本篇におけるサムは、ケイと内通しているが故の威圧感で他人に接し、必要があれば拷問すら厭わないが、そんなサムをやがてイウトンの存在が戦慄させていく。ギャングものの文法を踏まえながら、本篇のムードは一筋縄では行かない。
終盤に至ると、緊迫感のあるやり取りから、風変わりなアクションに突入していく。このくだり、後年のジョニー・トー監督作品に親しんでいる者ならニヤリとするはずだが、本篇で初めて彼の関係する作品を鑑賞したひとは少々戸惑うかも知れない。アクションへの展開がやや強引で、シチュエーションや表現が奇妙に凝っているのだ。これらは先行する『ヒーロー・ネバー・ダイ』や前述した『ザ・ミッション』、『毒戦』、ヤウ・ナイホイは関係していないが『エグザイル/絆』にも見られる、ジョニー・トー作品の特徴でもある。後年の傑作に比べるとやや控えめで荒々しいが、確かに見える作家性の流れは興味深い。
ただ、そうしてジョニー・トー流のノワールとして鑑賞した場合、本篇はまだ洗練されていない。映像としてのトーンや物語のテンションは計算されているが、サスペンス的な展開からクライマックスの一風変わった銃撃戦への流れには強引さが否めない。
とはいえ、未だにインパクトのある暴力描写と、ラウ・チンワンのふてぶてしさが引き立てるイウトンという人物像の異様さが作り出す独特の空気、そしてそれを踏まえた結末の空虚な余韻は忘れがたい。ジョニー・トー監督やヤウ・ナイホイの作品を鑑賞してきた者にはそのスタイルの完成へと迫る里程標として興味深く、彼らの作品を知らない観客にも強い印象を残すだろう。
……そうなると残念なのが画質の悪さだ。
ハリウッドは当然のこと、本邦でも一定の評価を受けた作品はリマスターが進められ、デジタル環境で鮮明な映像が鑑賞出来るようになってきた。しかし香港は、こうした努力があまり行われていなかった、と思われる。
世界的に人気を誇るジャッキー・チェン作品でさえフィルムから安易にデジタルに起こしただけ、リマスターされても申し訳程度の場合が多いのだから、マニアのあいだで認められていても、一般的な観客の知名度は低いジョニー・トー監督作品、それも実際には彼の名前は製作にしかクレジットされていない作品が丁寧にリマスターされることを臨むのは酷かも知れない。
本篇も、DVDは最初のヴァージョン以降、日本でリリースされておらず、市場では発見が難しく、配信でも、私が登録しているところでは行われていない。
いつか誰かが権利を整理し、一括してリマスターを実施し、最前の形で鑑賞出来る日が来ることを願いたい――本篇は勿論、名作『ザ・ミッション』や『エグザイル』を、よりいい状態で鑑賞出来るようになればいいのだけど。採算の麺から困難があるのは察しがつくけれども。
関連作品:
『ファイヤーライン(1997)』/『ヒーロー・ネバー・ダイ』/『暗戦 デッドエンド』/『デッドエンド 暗戦リターンズ』/『ザ・ミッション/非情の掟』/『PTU』/『ターンレフト ターンライト』/『マッスルモンク』/『柔道龍虎房』/『エレクション~黒社会~』/『エレクション~死の報復~』/『天使の眼、野獣の街』/『強奪のトライアングル』/『奪命金』/『ドラッグ・ウォー 毒戦』/『名探偵ゴッド・アイ』/『SPL/狼よ静かに死ね』/『導火線 FLASH POINT』/『アクシデント』/『スペシャルID 特殊身分』
『ラスト、コーション』/『ブラック・マスク』/『ローグ アサシン』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地争覇』
『男たちの挽歌』/『ドニー・イェン ラスト・コンフリクト』/『ドラゴン×マッハ!』/『追龍』
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