『ゴースト・オブ・マーズ』

ゴースト・オブ・マーズ [DVD]

原題:“Ghosts of Mars” / 監督:ジョン・カーペンター / 脚本:ラリー・サルキス、ジョン・カーペンター / 製作:サンディ・キング / 撮影監督:ゲイリー・B・キッブ,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:ウィリアム・エリオット / 編集:ポール・C・ワーシルカ / 衣装:ロビン・マイケル・ブッシュ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ランス・ウィルホイト / 特殊メイク:ロバート・カーツマン、グレッグ・ニコテロ、ハワード・バーガー / 音楽:ジョン・カーペンターアンスラックス / 出演:アイス・キューブナターシャ・ヘンストリッジジェイソン・ステイサム、クレア・デュヴァル、パム・グリアジョアンナ・キャシディ、デュアン・デイヴィス、ローズマリーフォーサイス、リチャード・セトロン、リーアム・ウェイト、ロボ・セバスチャン、ロドニー・A・グラント、ピーター・ジェイソン、ワンダ・デ・ヘスース / ストームキング製作 / 配給:メディアボックス / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment

2001年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:?

2002年7月13日日本公開

2009年7月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:bk1amazonBlu-ray Discbk1amazon]

公式サイト : http://www.cine-tre.com/ghosts_of_mars/ ※閉鎖済

DVDにて初見(2009/10/02)



[粗筋]

 西暦2176年、火星。地球を脱した人々は着実に植民地化を進めていたが、大多数の人々が暮らす辺境は未だ治安が安定していない。

 ある日、鉱山を擁するシャイニング渓谷に位置する刑務所から、かねてより犯罪を繰り返していた男ウィリアムズ(アイス・キューブ)を護送するため、ヘレナ・ブラドック隊長(パム・グリア)をはじめとする警官達が、特別列車74ヤンキー号に乗って現地に赴いた。

 しかし翌日、74ヤンキー号が帰還したとき、車輌の中にいたのはメラニー・バラード警部補(ナターシャ・ヘンストリッジ)ただひとり。ウィリアムズの姿はおろか、同道したはずの隊長らさえ見当たらなかった。幹部立ち会いのもと、尋問官(ローズマリーフォーサイス)からの聞き取り調査を受けたバラードは、一部始終を語る。

 シャイニング渓谷に到着するなり、バラード達は渓谷の様子に困惑した。治安の悪い郊外は夜ごとお祭り騒ぎが繰り広げられているのが常であったが、町は出迎えどころか、ただひとつの人影も見当たらないほど静まり返っていたのである。

 分かれて様子を確かめに向かった警官達が各所で発見したのは、無惨に殺された住民の骸の数々。生き残っているのはウィリアムズをはじめとする囚人と、無理矢理逃げこんできた科学者ウィットロック(ジョアンナ・キャシディ)だけだった。

 この地で、いったい何が起きたのか。やがてバラード達は、更に異様な現実を目の当たりにする……

[感想]

 B級映画の代名詞的監督であるジョン・カーペンターが、2001年に発表した作品である。

 さすがに大御所と言うべきか、既にCG全盛となった時期の作品であるにも拘わらず、良くも悪くもアナログ感を貫いており、そこがマニア心を擽る作りだ。火星開拓に荒涼とした大地の描写、取り憑かれた人々のある意味でオーソドックスな出で立ち、振る舞いなど、一部の人を唸らせずにおかない。

 本篇における特殊なコミュニティの佇まい、戦いのトーンなどは、今年(2009年)日本で公開されたニール・マーシャル監督作品『ドゥームズデイ』を彷彿とさせる。ただ、あちらが練りこんだ世界観に哲学的な柱を組んでおり、深読みを許容するのに対し、本篇はあまり深みを感じない。その代わり、考えるより先に観客を引っ張る、というより引きずり回そうとするかのような闇雲なパワーがある。

 大量の屍体が発見され生存者の気配はなく、ようやく動くものと接したかと思うと激しい戦闘に突入する。非常に緊迫したくだりなのだが、ここでウィリアム達が妙に間の抜けた行動に及んで笑いを誘うのが、本篇に風変わりな味わいを添えている。いちおう火星では有名なギャング、という扱いのはずなのだが、そもそもウィリアムズがあっさりとお縄についていること、多少策略らしいものを使って彼を救出した仲間も、およそあり得ないような成り行きで形勢を悪化させている。

 全篇こんな感じで、主要登場人物の言動はほとんど直情的、駆け引きもなければ、終盤で感情的なドラマを盛り上げるための伏線もあまり仕掛けていない。そのために随所で思わぬ犠牲者が出ても、意外性を感じたり衝撃を受けることがなく、生真面目な人はカタルシスを得られない可能性が大きい。

 だがその分、一瞬でも観る側を強く惹きつける、勢いのある話運びは見事だ。冒頭でたったひとり帰還した捜査員が経緯を語る、という体裁で事態の剣呑さを仄めかし、そこから綴られる一部始終の緊迫感を膨らませる。バラードにやたら色目を使う同僚のジェリコ(ジェイソン・ステイサム)や、閉じ込められているため逆に安全圏にいた囚人達の妙に暢気な言動で緩和するポイントを設けつつ、休むことなく事態は最悪の方へと突き進んでいく。心理の機微はあまり描いていないので、圧倒的に迫ってくる感動など一切ないが、その分観ていて変な迷いを生じさせない。

 バラード視点で事件を綴る意味があまりなかったことをはじめ、掘り下げていればもっと深みのある作品になったのでは、と思える材料も多々あるが、それを潔く振り切っているからこそ、正しくB級映画に仕上がっている。この、いい加減に観ても楽しいジャンクフード的な感覚こそ、B級映画の醍醐味のひとつだろう。

関連作品:

ドゥームズデイ

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