原題:“The Devil’s Rejects” / 監督・脚本:ロブ・ゾンビ / 製作:マイク・エリオット、アンディ・グールド、マルコ・メーリッツ、マイケル・オホーヴェン、ロブ・ゾンビ / 製作総指揮:ピーター・ブロック、マイケル・バーンズ、ガイ・オゼアリー、マイケル・パセオネック、ジュリー・ヨーン / 共同製作:ブレント・モーリス / 撮影監督:フィル・パーメット / プロダクション・デザイナー:アンソニー・トレンブレイ / 編集:グレン・ガーランド / 衣装:ヤスミン・エイブラハム / 視覚効果スーパーヴァイザー:ロバート・カーツマン / 特殊メイク:ウェイン・トス / 音楽:タイラー・ベイツ、テリー・リード、ロブ・ゾンビ / 出演:シド・ヘイグ、ビル・モーズリイ、シェリ・ムーン・ゾンビ、ウィリアム・フォーサイス、ケン・フォーリー、マシュー・マッグローリー、レスリー・イースターブルック、ジェフリー・ルイス、プリシラ・バーンズ、デイヴ・シェリダン、ケイト・ノービー、リュー・テンプル、ダニー・トレホ、ダイアモンド・ダラス・ペイジ、E・G・デイリー、トム・トウルズ、マイケル・ベリーマン、P・J・ソールズ、デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ、ジンジャー・リン・アレン、クリス・エリス、メアリー・ウォロノフ、ダニエル・ローバック、デュエイン・ウィテカー / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2005年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:? / R-15
2006年9月30日日本公開
2009年10月7日DVD日本盤発売 [bk1/amazon]
DVDにて初見(2009/09/25)
[粗筋]
ヒッチハイカーや近隣の住人を毒牙にかけてきた殺人鬼一家が、遂に警察によって追い詰められた。ひとりが射殺され、マザー・ファイアフライ(レスリー・イースターブルック)が逮捕されたが、オーティス(ビル・モーズリイ)とベイビー・ファイアフライ(シェリ・ムーン・ゾンビ)は逃走する。彼らによって兄マイケルを殺害された保安官ジョン・クインシー・ワイデル(ウィリアム・フォーサイス)は、徹底的に追い詰めることを誓った。
間一髪で脱出した殺人鬼兄妹は、別の家で暮らしている父親キャプテン・スポールディング(シド・ヘイグ)に連絡を取り、彼の指示で友人チャーリー(ケン・フォーリー)の経営する酒場に一時身を潜めるべく、逃走を続ける。一方のキャプテン・スポールディングも、すぐに追っ手がかかることを予測して、あとからチャーリーの店を目指す。
兄妹は途中でモーテルに立ち寄り、宿泊していたバンド一行を恐怖のどん底に叩きこみながら、逃亡を続けるための準備を行う。キャプテン・スポールディングも途中でガス欠というトラブルに祟られながら、泰然と他人の車を強奪して子供たちのあとを追った。
同じ頃、殺人鬼一家の母は、独房でワイデル保安官の訊問を受けていた。80人近い人々を血祭りに上げていた一家の母親だけあって、並大抵の脅しには屈しようとしなかったが、彼女は見誤っていた――ワイデル保安官の胸に燃えたぎる復讐心の熱さ、そして陰湿さを……
[感想]
ヘヴィ・ロックの世界で活躍してきたロブ・ゾンビが、ホラー映画への溢れるような愛を注ぎ込んで作りあげたカルト的秀作『マーダー・ライド・ショー』である――が、いざ鑑賞してみるとかなり趣が違う。
前作で旅行者達を血祭りに上げた凶悪な一家が冒頭から登場しており、地続きとなっているのは解るのだが、その序盤から雰囲気が異なっている。ホラーというより犯罪映画と呼んだ方が良さそうな壮絶な銃撃戦が繰り広げられ、殺人鬼たちは襲撃してきた警官隊を返り討ちにすることも出来ずほうほうの体で逃走する。
そこから物語はにわかに殺人鬼一家のロード・ムービーの様相を呈するが、先に逃げ出した兄妹がモーテルに踏み込むと、少しだけ前作に似た雰囲気になるが、しかし描かれているのは前作のような躁状態の殺戮劇ではなく、どんよりとして沈鬱な暴力だ。凶暴ながらも横溢していたユーモアは、決して失われてはいないのだが、沈鬱な空気に埋没してしまっている。
クライマックスに至っては、彼らが殺人鬼であることを失念してしまったかのようだ。復讐鬼と化した保安官によって襲撃され、絶叫し足取りもおぼつかなく逃走する姿は、ホラー映画における“獲物”のそれである。そして結末に至っては、まるで一時期の文芸映画を彷彿とさせるひと幕が設けられている。
こうして羅列していくと、およそ脈絡のない、支離滅裂な話のように感じられるだろう。実際の作品も、シークエンスが切り替わるたびに奇妙な違和感をもたらす仕上がりとなっている。何がしたいのかいまいち理解できない、困惑したまま観終わる人も多いはずだ。
しかし本篇の狙いは、ある意味で前作とほとんど変わっていないと思われる。映画、とりわけ血と暴力が横溢した作品群をこよなく愛する監督が、様式美を追求しながら、物語としての意外性に配慮しつつ撮った作品なのだ。そういう意味で、まったく方向性にブレはない。
メイキングによれば監督は、そもそも前作で完成されたキャラクターや俳優を使って、違う映画を作ることを目指していたという。そう承知して観れば、本篇に前作のようなグラン・ギニョールめいた雰囲気がないのは当然の帰結だ。同じホラーでも、お化け屋敷めいたギミックを重視した作品群ではなく、荒涼とした原野に佇む一軒家や荒廃した工場などで登場人物たちが追い込まれ、際限なく恐怖を味わわされる作品を志した。中心人物を殺人鬼一家に据えたままにすることで、往年の名作へのオマージュを盛り込みながら、意外性のあるシュールな展開を作りあげている。
少なくとも2/3まで、殺人鬼一家の面々はキャラクター性においてきちんと前作を引き継いでいるのに、服装はカジュアルになっていたり、飾り気のないモーテルの一室や陽射しの降り注ぐ屋外でその狂気が示される異様さは、同じようなテーマをいきなり新しい登場人物でやったところで表現できない。前作で惹かれた観客が求めるものではないが、少なくとも続篇だからこそ可能であり、類を観ない内容になっていることは確かだ。そして、前作であれだけグロテスクな美しさを演出したキャラクターたちにこういう物語が与えられたからこそ、名状しがたい寂寥感が全篇に満ちている。
前作が好きな観客であっても気に入るとは決して断言できないし、狙いは理解できてもシチュエーション各個の噛み合いの悪さ、結果としてズレた笑いを生じさせてしまっている点など、上出来とも言い難い。しかし、映画への情熱と傑出した表現力は感じさせる、力強い作品である。メイキングのなかで誰かが口にしていたが、この作品を前にすると、ロブ・ゾンビが今後も映画監督として活動し続けることだけは間違いない、と思えるだろう。
関連作品:
『ハロウィン』
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