原作:東堂いづみ / 監督:宮本浩史 / 脚本:香村純子 / 総作画監督:稲上晃 / 美術監督:杉本智美 / BGコンセプトアーティスト:澤井冨士彦 / CGディレクター:カトウヤスヒロ / CGアニメーションスーパーヴァイザー:金井弘樹 / 色彩設計:竹澤聡 / 撮影監督:石塚恵子、高橋賢司 / 音楽:林ゆうき / 声の出演:引坂理絵、本泉莉奈、小倉唯、田村奈央、田村ゆかり、多田このみ、野田順子、本名陽子、ゆかな、田中理恵、樹元オリエ、榎本温子、三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛、仙台エリ、沖佳苗、喜多村英梨、中川亜紀子、小松由佳、水樹奈々、水沢史絵、桑島法子、久川綾、小清水亜美、折笠富美子、豊口めぐみ、大久保瑠美、福圓美里、田野アサミ、金元寿子、井上麻里奈、西村ちなみ、生天目仁美、寿美菜子、渕上舞、宮本佳那子、釘宮理恵、中島愛、潘めぐみ、北川里奈、戸松遥、嶋村侑、浅野真澄、山村響、沢城みゆき、高橋李依、堀江由衣、早見沙織、美山加恋、福原遥、村中知、藤田咲、森なな子、水瀬いのり、関智一、矢島晶子、宮野真守、山本美月 / 配給:東映
2018年日本作品 / 上映時間:1時間25分
2018年10月27日日本公開
公式サイト : http://www.precure-movie.com/
[粗筋]
海中から突如現れた巨大なモンスターを倒したキュアブラックこと美墨なぎさ(本名陽子)とキュアホワイトこと雪城ほのか(ゆかな)、シャイニールミナスこと九条ひかり(田中理恵)はその直後にミデン(宮野真守)と名乗るてるてる坊主に似たモンスターに襲撃される。攻撃を受けそうになったブラックとホワイトはルミナスに庇われるが、その直後、ルミナスの身に思いも寄らぬ変化が起きた――
ミダンはやがて、ピクニックに出かけていた“HUGっと!プリキュア”の5人、キュアエールこと野乃はな(引坂理絵)、キュアアンジュこと薬師寺さあや(本泉莉奈)、キュアエトワールこと輝木ほまれ(小倉唯)、キュアマシェリこと愛崎えみる(田村奈央)、キュアアムールことルールー・アムール(田村ゆかり)を襲撃する。変身して戦うが、何故か他のプリキュアの力を駆使するミデンに翻弄され、エールを除く4人が攻撃を受けてしまう。その結果――4人は小さな子供になってしまった。
やって来たブラックとホワイトによって窮地を救われるエールだったが、困ったのは子供になってしまった仲間たちの扱いだった。はぐたん(多田このみ)のお世話を通して小さな子の扱いに慣れたつもりでいたはなも、記憶を失くして幼い子供になった仲間たち全員に振り回され、パニック状態に陥る。戦闘のさなか、ほのかも幼児化してしまい、残されたふたりとハムハム・ハリー(福島潤)はすっかり困り果ててしまった。
ミデンとは何者なのか、何故プリキュアたちの記憶を狙うのか。果たしてはなとなぎさは、仲間たちの記憶を取り戻すことが出来るのか――?
[感想]
粗筋はかなり最初のほうしか記していない。当初はもうちょっと先まで書くつもりだったが、プリキュアシリーズに接したことのあるひとには是非とも感動を味わって欲しくて、ここまでに留めた。
プリキュアを初期からぜんぶ観ている、というのはよっぽど飽きを知らない女の子か、私の如きマニア気質の大人くらいのものだろうが、しかしそういう人間にとって、本篇は冒頭からグッと来るはずだ。なにせ作品世界のトーンがまさに『ふたりはプリキュア』、それもテレビシリーズに近いのである。実在しそうなシチュエーションにバケモノが登場し、3人のプリキュアが縦横無尽に飛び回って奮戦する。当時のオープニングなどで見られる印象的な構図も流用し、あの頃のファンの気持ちを昂ぶらせる。
続くパートからは現行のテレビシリーズ“HUGっと!プリキュア”のキャラクターたちがメインとなるが、しかしここにも仕掛けがある。このくだりにおけるなぎさの述懐とそれに続く展開が、まるで『ふたりはプリキュア』劇場版を再現するが如くなのだ。わざわざタイトルを併記して採り上げただけあって、このあたりの扱いに強い敬意を感じさせる。
他方で、中盤以降の表現は、このシリーズが辿ってきた変化、成長が凝縮されている。
その意味でまず目につくのは、中盤あたりから描画が3DCG中心になっている点だ。初期劇場版では補助的にしか導入されていなかったが、6年目の『フレッシュプリキュア!』エンディングで活用しはじめて以来、段階的に扱いを大きくしてきた。個人的に、いずれ3DCGだけで長篇映画を作ってしまうのではなかろうか、と考えていたが、今回、そこまでではないものの、クライマックスをほぼすべて3DCGでまかなっている。
驚くべきは、手書き表現との親和性の高さだ。前は、どうしてもどこかに人形めいた作り物っぽさが強く、メインを張るには違和感が拭いがたかった。しかし、毎年のようにテレビ版エンディングを2種類制作し、劇場版でも積極的に採り入れていった結果、見事なまでに馴染ませてしまった。
本篇に限って言えば、この違和感を解消するために、あえて主線を太くしていることが窺える。初見ではぎょっとするが、慣れてしまえばキャラクターが見やすく、アクションが際立っている。何より、2Dと3Dの切替が滑らかになっている。3D描画では主線を細くすると綺麗に均一になってしまい、手書きの強弱をつけた主線との違いが目立ちやすく、その対策として太くしたことが想像されるが、このあたりは両者を混在させる表現に繰り返し挑んできた“プリキュア”シリーズのスタッフだからこそ辿り着いた発想ではなかろうか。
そうした、技術的な成長、洗練ぶりもシリーズを通しての見所だが、しかし今回、ストーリー面でも、これまで長く接してきた者ほど感慨深い作りとなっている。
絶妙なのは、プリキュアたちがそれまでの記憶を奪われ幼児化する、という着想だ。その結果、このシチュエーションならではの笑いをちりばめることが出来る一方で、事態を打破するための流れに自然とそれまでの回想が割り込んでくる。序盤、なぎさの見せ場でまずそれを有効活用するが、この発想が最大限に活きてくるのは、クライマックスだ。細かいところは伏せるが、従来のシリーズに触れてきたひとほど、このクライマックスは鮮烈に響くはずである。
この題材は特に、プリキュア劇場版ではすっかりお馴染みとなった、小さな観客たちに応援を呼びかけるあの趣向と結びついたとき、とんでもない破壊力を発揮する。観客参加型スタイルの、最高傑作と言っていい。たぶん、これ以上の活かし方はもう難しいだろう。
作品全体がプリキュア劇場版シリーズの表現的洗練を証明する一方で、15周年記念という趣向と題材が完璧なほどに噛み合っている。やはり、最低でも1シリーズぐらいはテレビシリーズに接していないと伝わりづらいけれど、その条件を少しでも満たしていれば、これは優れた映画体験となるはずである――これを初めての、或いはごく初期の映画体験として味わうことの出来る子供たちが、かなり本気で羨ましい。
関連作品:
『プリキュアスーパースターズ!』/『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart』/『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』
『ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』/『Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』/『Yes! プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』/『フレッシュプリキュア! おもちゃの国は秘密がいっぱい!?』/『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』/『スイートプリキュア♪ とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪』/『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』/『ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』/『ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』/『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/『魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身! キュアモフルン!』/『キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと! 想い出のミルフィーユ!』
『プリキュアオールスターズDX/みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』/『プリキュアオールスターズDX2/希望の光☆レインボージュエルを守れ!』/『プリキュアオールスターズDX3/未来にとどけ! 世界をつなぐ☆虹色の花』/『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage2/こころのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage3/永遠のともだち』/『プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』/『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪ 奇跡の魔法!』/『プリキュアドリームスターズ!』
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