
丸の内ピカデリー、Dolby Cinemaスクリーン、入口前に掲示された『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』のDolby Cinema限定ポスター。
原題:“Spider-Man : Brand New Day” / スタン・リー、スティーヴ・ディッコによるコミックブックに基づく / 監督:デスティン・ダニエル・クレットン / 脚本:クリス・マッケンナ、エリック・ソマーズ / 製作:ケヴィン・ファイギ、レイチェル・オコナー、エイミー・パスカルアヴィ・アラド / 製作総指揮:デヴィッド・ケイン、ルイス・デスポジート / 撮影監督:ブレット・パウラック / プロダクション・デザイナー:チャールズ・ウッド / 編集:ナット・サンダース、シーナ・サンサム、ハリー・ユーン / 衣装:フェリペ・デセインツ・アルヴス、サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、マーク・ラファロ、ジョン・バーンサル、ジェイコブ・バタロン、セイディー・シンク、フローレンス・ピュー、ライザ・コロン=ザヤス、トラメル・ティルマン、マリサ・トメイ、マイケル・マンド / 声の出演:ナオミ・ワッツ / パスカル・ピクチャーズ、マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Sony Pictures Entertainment
2026年日本作品 / 上映時間:2時間25分 / 日本語字幕:林完治
2026年7月31日日本公開
公式サイト : https://spiderman-movie.jp/
丸の内ピカデリーにて初見(2026/8/11)
[粗筋]
あの運命の日以来、ピーター・パーカー(トム・ホランド)はたったひとりで、“スパイダーマン”としての活動を続けていた。
誰も借りない、穴蔵のような部屋を拠点に、自作したAIと工作装置でスーツやスパイダー・ウェブ発射装置のアップデートを重ね、生まれ育ったニューヨークの街に出没する悪党たちと戦い続けている。
犯罪率が激減するほどに治安に貢献し、市民から愛される存在に返り咲いたスパイダーマンに対し、ピーター・パーカー個人は孤独な生活を送っている。ピーターにとっての励みは、かつての親友ネッド・リーズ(ジェイコブ・バタロン)がSNSで発信している、ネッドとMJ(ゼンデイヤ)の近況だった。二人は晴れてMITに進学し、ルームメイトとして学生生活を謳歌、間もなく卒業しようとしている。ピーターは彼らの平和を、密かに喜んでいた。
その頃、ニューヨークではしばしば不可解な事件が起きていた。様々な災害を歴て設立されたダメージ・コントロール局に、襲撃を試みる者が立て続けに現れたのだ。
しかし同時に、ピーターは奇妙な身体の不調を覚えていた。頻繁に頭痛を覚え、身体にも奇妙な違和感を覚えるようになっていた。人工知能E.V.(ナオミ・ワッツ)によれば、ピーターのDNAに融合した蜘蛛の因子が過剰に働いているためだという。痛みはやがて他の部位にも起き、ピーターの想像を超えた変化が訪れようとしていた――

丸の内ピカデリー、Dolby CinemaスクリーンのAVP(オーディオ・ヴィジュアル・パス)に表示された『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』特別映像のひとコマ。
[感想]
《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》(以下、MCU)に復帰して以降のスパイダーマンとして第4作にあたる本篇は、劇中のスパイダーマン=ピーター・パーカーにとって、“リスタート”の物語となった。
詳しい説明は省かれているが、かつてピーターと親しかった者はみな、彼がスパイダーマンであった事実どころか、ピーターの存在すら忘れている。それはつまり、かつての仲間である《アベンジャーズ》の関係者もピーターの記憶を失っている状態で、ピーターは《アベンジャーズ》が対峙すべき大きな陰謀、災害に立ち向かうことどころか、《アベンジャーズ》の保有する先進的技術の供給も受けられなくなった。そのためにピーターは、新しいスーツや必要な器具を自ら開発して用い、彼が暮らすニューヨークの事件、犯罪者たちに臨むようになった。
こう書くと大きく後退したような印象があるが、しかしその実、《スパイダーマン》という作品世界においては、言ってみれば“原点回帰”である。
《MCU》におけるスパイダーマンは、はじめからアベンジャーズに憧れ、その一員となることを夢見た若きヒーロー、という形で加入してきたため、むしろ序盤から大きな活躍の場を求めているイメージが先行していたが、トム・ホランドに先行する映画版《スパイダーマン》2シリーズで描かれたのは、あくまでピーターが自分の暮らす街でのトラブルに対処する姿だった。《アベンジャーズ》もスターク・インダストリーズもない彼らの世界では、自信が優れた科学者であり技術者だったピーター・パーカーが自らスーツやアイテムを開発するのも当然の経緯だった。私自身はまったく読んだことがないので断言は出来ないが、恐らく原作でも《スパイダーマン》、特に実写映画で主に描かれるピーター・パーカーが主人公の世界観では、このスタンスが基本だったはずである。
だから、実写版の旧シリーズに接してきた目には、本篇のスパイダーマンの活躍ぶりは、むしろ本来の姿に戻った、いちばん馴染み深いものだ。
しかしその一方で、本篇のスパイダーマン=ピーター・パーカーが何故、こういう活動を選んだのか、という大前提がある故に、その孤軍奮闘ぶりが既にドラマを含んでおり、一挙手一投足に情感が滲む、というのは初めてだ。無論、先行するトビー・マグワイアやアンドリュー・ガーフィールドによるスパイダーマンも、それぞれに事情や葛藤を踏まえて“親愛なる隣人”というヒーロー像を選択していたわけだが、トム・ホランド版の場合、《アベンジャーズ》としての、言ってみれば“華々しい”活躍を経験しているだけ、情緒は豊かだ。
そのうえで、長篇映画1本を支える軸となる事件、背景、最大のヴィランも、かなりいい着眼で選んでいると思う。
このシリーズのスパイダーマンはある意味では“完成”されていたが、一方で《スパイダーマン》には青春ドラマ、成長の物語という側面もある。自分のことを忘れてしまった友人たちの動向を確かめるときの喜びと切なさもまた、このシリーズが紡ぎ上げた物語だからこその青春ドラマだが、本篇は新たな“変化”を齎すことで、更なる成長のドラマをも紡ぎ上げた。この成長のドラマが、今回の物語の背景にいる人物とも共鳴することで、クライマックスがより感動的になっている。あまりネタばらしをしたくないのでこれ以上は語らないが、本当に本篇のヴィランは作品にとって見事な配置だったと思う。
なおかつ本篇は、アクションや攻防の見せ方が独創的かつ多彩で、その意味でも実写版を進化させた趣がある。
トビー・マグワイア版の時点で既に、スパイダー・ウェブを駆使した、オリジナルで躍動感に満ちた映像は完成されていたが、本篇ではあえて意図的に降下したり、スパイダー・ウェブの扱い方を発展させたりと、様々な新しい趣向も凝らされている。戦う相手側にも、いままでこのシリーズにはいなかった戦法を用いる者がいて、見せ場に事欠かない。
だが、このシリーズのアクションシーンに、今回誰よりも新鮮味を加えているのは、実写版では初参加のフランク・キャッスル(ジョン・バーンサル)だろう。
このキャラクターは間違いなく《スパイダーバース》の一部だが、コミック版では人気が沸騰し、《パニッシャー》として独立している。実写としても、まず《MCU》とも《スパイダーバース》とも関係なく製作され、のちにマーヴェルが権利を取り戻し、《MCU》作品にも登場するようになった。ドラマ版『デアデビル』といった他シリーズへの参加から始まって、メインのドラマシリーズも製作され、《MCU》復帰後では本篇が初めての劇場作品登場となったようだ。
元々が復習のために悪人を追うようになったダーク・ヒーローであり、あくまで治安のために奔走するスパイダーマンとは相容れない。本篇での初登場時点でスパイダーマンと因縁含みのやり取りが交わされ、対立姿勢が垣間見える。悪党を追いながらの派手な小競り合いは、迫力とユーモアがない混ざって、シリーズ旧作とは違った面白さがある。中盤以降、やむを得ない経緯からスパイダーマンが協力を請うてからのちぐはぐな共闘ぶりですら楽しい。
他にも、《MCU》ならではの、他のエピソードとのリンクや仄めかしが多数あり、それを理解し、読み解きながら鑑賞するのも楽しみ方であるのは間違いないが、歴代の実写版《スパイダーマン》シリーズのみしか知らなくとも、それどころか、本篇にいきなり接したとしても、充分に楽しめるだろうし、《スパイダーマン》という題材の魅力は感じられるはずだ。
《MCU》という枠組にきちんと収まりながらも、以前のシリーズ作品すら総括した前作とはまた異なり、《スパイダーマン》作品として満足度の高い傑作である。
これを書いている現段階で、トム・ホランド版《スパイダーマン》の続篇が製作されるのか、明確にはなっていない。むしろ、トム・ホランド自身は「役の継承を考えている」と発言しているほどだ。
無理からぬところだろう。《スパイダーマン》シリーズには、青春ドラマとしての性質も期待されている。《スパイダーバース》と呼ばれる並行世界のなかには、年老いたピーター・パーカーもいるようだし、配信ドラマとして製作された『スパイダー・ノワール』のように、ハードボイルド的な性質を色濃くした作品も製作されているが、ピーター・パーカーというキャラクターには、身近な問題で悩みながら成長する姿が似合う。
翻って思い返せば、先代アンドリュー・ガーフィールドも先々代トビーマグワイアも30代に踏み込んだところで卒業しており、トム・ホランドもまた30代に突入したことで、意識したのかも知れない。
もっとも、トビーマグワイアはシリーズを当時持てはやされた3D作品として仕切り直す、という製作サイドの意向でリセットされたと言われているし、アンドリュー・ガーフィールドに至っては、映画化権を確保するソニーとマーヴェルの合意が成立し、《スパイダーマン》が《MCU》に参加することが決まったために、強制的に降ろされたような印象がある。
ただ、そこはそれ、だと思う。シリーズとしては成功しているし、《MCU》復帰後にいちどソニーとマーヴェルが決裂してまたぞろ強制退場になりかかったところを、ファンの熱心な声が後押ししてトム・ホランド版の継続が決まった、という経緯がある分、今後、ファンの意向を無視してリニューアルが実施される可能性は低い。何より、これを書いている8月中旬時点で、北米での興収は極めて好調であるため、マイナス材料は乏しい。
恐らく、本篇に続く『アベンジャーズ/ドゥームズデイ』、『アベンジャーズ/シークレット・ウォーズ』には何らかの形で出番はあるだろう。だが、折角ここまで成長してきたヒーローの、先の物語にも接してみたい、というのは、これまでその冒険を見届けてきた者としては、当然の願望だろう――きっと製作サイドも、前向きに検討しているだろう、と信じたい。
関連作品:
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』/『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
『アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『マイティ・ソー バトルロイヤル』/『ブラックパンサー』/『アントマン&ワスプ』/『キャプテン・マーベル』/『ブラック・ウィドウ』/『シャン・チー/テン・リングスの伝説』/『エターナルズ(2021)』/『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』/『ソー:ラブ&サンダー』/『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
『スパイダーマン』/『スパイダーマン2』/『スパイダーマン3』/『アメイジング・スパイダーマン』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『スパイダーマン:スパイダーバース』/『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
『エジソンズ・ゲーム』/『グレイテスト・ショーマン』/『スポットライト 世紀のスクープ』/『フォードvsフェラーリ』/『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』/『ユナイテッド93』/『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』/『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
『羊たちの沈黙』/『8 Mile』


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