『この子の七つのお祝いに』

神保町シアターの展示。

原作:斎藤澪 / 監督:増村保造 / 脚本:増村保造松木ひろし / 製作:角川春樹 / プロデューサー:岡田裕介、中川完治 / 撮影:小林節雄 / 美術:間野重雄 / 照明:川崎保之丞 / 編集:中静達治 / 録音:井家眞紀夫 / 音楽:大野雄二 / 出演:根津甚八杉浦直樹岩下志麻辺見マリ畑中葉子中原ひとみ芦田伸介岸田今日子坂上二郎室田日出男名古屋章戸浦六宏小林稔侍、村井国夫神山繁 / 製作:松竹、角川春樹事務所 / 配給:松竹

1982年日本作品 / 上映時間:1時間51分

1982年10月9日日本公開

2011年11月23日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

『80年代ノスタルジア』(2012/5/12〜2012/6/8開催)にて上映

神保町シアターにて初見(2012/05/16)



[粗筋]

 池畑良子(畑中葉子)という女性が殺害された。生活するマンションに頻繁に男を連れこんでいることから、警察ははじめから怨恨の線に目をつけていたが、彼女のカレンダーに名前が書き込まれていた『月刊公論』の記者・母田耕一(杉浦直樹)は、違う可能性を考える。

 母田はもともと、秦一毅(村井国夫)という人物を追っていた。保守党の大物・磯部議員の私設秘書を務める男だが、実質的に彼が政界を動かしている、と言われる所以は“青蛾”(辺見マリ)と名乗る彼の妻にあった。

“青蛾”は手相見をしており、彼女の指示によって磯部議員が大臣にまで登りつめたために、現在、彼女のもとには政界、財界の大物があとを絶たず立ち寄るようになっている。母田は背景に何かある、と考え、かつて“青蛾”のもとでお手伝いをしていたが、解雇された良子に取材、情報料として請求された金を用意して、改めて詳しい話を聞こうとしていた矢先に、殺されてしまったのだ。

 手懸かりは、“青蛾”がその持ち主を探していた、という手形の写しだけ。母田はかつて在籍していた雑誌社の後輩・須藤洋史(根津甚八)とともに、“青蛾”の背後を探りはじめる。果たして、良子を殺したのは“青蛾”なのか、そしてその動機は何だったのか……?

[感想]

 原作は、第1回横溝正史賞を与えられた作品である。そういう情報を予め持っていると、なるほど、と頷けるものがある。

 序盤のタッチは正統派のサスペンスの趣だ。第一の被害者が犯人の魔手にかかる様子を、犯人の姿を見せずに巧みに描き出し、警察による捜査が始まって、そこから中心人物となる記者へとバトンタッチしていき、少しずつ謎を深めていく。冒頭の殺人シーンや、過去の悲劇の表現の鮮血描写には、ダリオ・アルジェント監督あたりの作風に通じるところを完治させるのは、もともとイタリアで映画を学んだ、という監督の出自によるものかも知れない。

 探偵が登場せず、大人のロマンスめいたものも絡める話運びは横溝正史の、一般的なイメージとは異なるが、似通った印象を与えるいちばんの要因は、事件の背景である。戦争の影響を受け、あまりに根深い恩讐と、悲しすぎる真実を宿した事件像は、一般的な横溝作品のイメージをなぞるかのようだ――実際には横溝正史の作品は必ずしもこうした背景のみに拠っているわけではないのだけれど、横溝正史の名前を冠した賞を最初に獲得した作品としては相応しい、と言っていいだろう。

 ミステリとしては決して込み入ったものではなく、理詰めであっても直感であっても、真相に辿り着くのは難しくない。だが、着実に積み上げられるドラマの壮絶さ、解決篇のおぞましさは、読み解いた上でも強烈なインパクトを残す。事件を実質的に操った人物の、狂気に彩られながらも周到な計算に基づいた行動、そしてそれに終始踊らされた人物の最後の姿は、観ていて怖気さえ覚える。

 本篇の壮絶な印象を強めているのは、中心人物を好演した女優たちだ。誰がどんな好演をしたのか、は(たとえ見え見えだとしても)ひとまず伏せておくが、彼女たちの“業の深さ”は、観終わったあともしばらくあとを引く。

 演出や、残酷描写のチープさなどに古さを感じさせるし、謎解きとしては簡単すぎるのが残念だが、背景やそこから醸成される悲劇に芯が通り、ラストシーン、部屋に差す夕陽とあいまって、鮮烈な印象を残す佳作である。

関連作品:

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シャドー

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