『八つ墓村(2026)』

新宿ピカデリー、ロビーに展示された『八つ墓村(2026)』大型パネル。
新宿ピカデリー、ロビーに展示された『八つ墓村(2026)』大型パネル。

原作:横溝正史 / 監督:清水崇 / 脚本:尾ヶ井慎太郎、清水崇 / 企画:新垣弘隆 / プロデューサー:前川盛哉、西麻美、柳田裕介、石塚慶生 / エグゼクティヴ・プロデューサー:吉田繁暁 / ホラー担当:川松尚良 / 撮影監督:大内泰 / 照明:神野宏賢 / 美術:原田哲男、橋本泰至 / 装飾:極並浩史 / 編集:鈴木理 / 衣装:及川英里子 / ヘアメイク:小出みさ、唐澤知子 / 特殊造型&特殊デザイン:百武朋 / スタントコーディネート:東山龍平 / VFXスーパーヴァイザー:山口幸治 / 録音:原川慎平 / 音響効果:大塚智子 / 音楽:アントンジュリオ・フルリオ / 主題歌:TMG『DOOM』 / 出演:尾上松也、奥智哉、堀田真由、高島礼子、滝藤賢一、小籔千豊、渋川清彦、高嶋政伸、佐野岳、小野塚勇人、永瀬莉子、中村莟玉、笹野鈴々音、中山慎悟、小林大斗、中島亜梨沙、川瀬陽太、今野浩喜、五頭岳夫、たっくー、松嶋健太、葉月 / 制作プロダクション:ダーウィン / 配給:松竹×Sony Pictures Entertainment
2026年日本作品 / 上映時間:1時間57分
2026年9月18日日本公開
公式サイト : https://movies.shochiku.co.jp/yatsuhakamura-movie/
新宿ピカデリーにて初見(2026/9/14) ※東京ファンタプレゼンツ! 「八つ墓村」最速有料上映


[粗筋]
 大学卒業を控え、未だ就職先の内定が出ず悶絶していた井川辰弥(奥智哉)のもとを、地元の警察の生活安全課が訪ねてきた。辰弥の実母、井川鶴子が亡くなったというのだ。
 幼少時に保護施設に預けられた辰弥にとって、母親はいないも同然の存在だった。しかし、発見場所の所轄である岡山県警の磯川警部(小籔千豊)から、母がどうやら滝から身を投じたらしい、と聞くと、引き寄せられるように現地を訪ねる。
 滝から望む山裾には、八つ墓村という集落が広がっていた。母の郷里であるという八つ墓村に向かう途中、辰弥は金田一耕助(尾上松也)という、どこか変わった男と出会う。探偵であるという金田一は、八つ墓村の田治見家の依頼で辰弥を探していたという。
 金田一と共に八つ墓村に足を踏み入れた辰弥だったが、村人の彼を見る眼差しは異様だった。とりわけ興奮状態に陥った女性(笹野鈴々音)からは「お前は村に災いを起こす。出て行け」と激しい言葉で辰弥を罵った。
 田治見家の人々の反応は対照的だった。出迎えにやって来た森美也子(堀田真由)に連れられてきた辰弥を見て、大伯母の田治見小梅(高島礼子)と小竹(高島礼子、二役)、そして腹違いの兄だという田治見久弥(滝藤賢一)は歓喜するが、辰弥たちの父・要蔵(滝藤賢一・二役)の甥に当たる里村慎太郎(小野塚勇人)とその妹・典子(永瀬莉子)は不信感を隠そうともしていない。重い病を患い、臥せりきりになった久弥は「田治見家の財産を、決して他人に渡すな」と辰弥に訴える。
 田治見家は林業で栄え、八つ墓村の経済を支えた資産家である。しかし、直系の跡取りであった久弥は病に蝕まれ、先代・田治見要蔵の血を引くのは、愛人であった鶴子が生んだ辰弥だけなのだという。
 田治見家が村民から忌み嫌われる背景には、辰弥が赤子だった時分に要蔵が起こした惨劇にある。要蔵はある夜、鎧に身を固め、ライフルと日本刀を携えた姿で、村中の家を襲い、多くの村人を殺害した。追われた要蔵は山中に逃げ込み、山狩りが実施されれるも発見に至らず現在に至っている。凶行を目撃した遺族も多く、恨みは深い。
 果たして自分はここに来て良かったのか? 悩みながらも、引き留められるままに田治見家に泊まった辰弥だが、その晩のうちに、新たな悲劇は起きた……。


[感想]
 第二次世界大戦前から1981年に亡くなるまで、長年にわたって探偵小説作家として活動してきた横溝正史の作品は、何度も映像化されている。市川崑監督、石坂浩二主演による、原作の服装を踏襲した金田一耕助が描かれる以前から、片岡千恵蔵や高倉健、中尾彬と様々な俳優、イメージの金田一耕助作品が誕生していた。
 本篇も、映画としては3度、ドラマとしても複数回、映像化された、横溝正史という作家を代表する作品と言っていいだろう。しばしば本篇と混同される『犬神家の一族』における、湖から突き出た両脚のヴィジュアルとともに、本篇における、鉢巻きに懐中電灯を差し、ライフルと日本刀を携えて襲いかかる男、というイメージは、たぶん日本人ならかなり多くの人が共有しているはずだ。
 この有名作を30年ぶりに映画化する、という大役を委ねられた清水崇監督は、かなり思い切った策に出ている。
 原作や先行する映像化作品ではおおむね終戦後間もなくか、まだ戦禍の影響を留める時代が選ばれている印象だが、本篇は大胆にも、現代の出来事として脚色している。
 これが“大胆”と感じるのは、本篇の背景となる出来事の多くが、戦争前後であればこそ、と感じるものばかりだからだろう。そもそも、原作者が田治見要蔵の犯行の下敷きとした“津山三十人殺し”と称される事件が昭和13年の出来事であり、インフラが成熟していない時代であったことも関わりがあるので、余計に現代とイメージは繋がりにくい。
 しかし清水崇監督は、この物語の肝となる要素を巧みに抽出し、うまく現代的なテーマに変換している。
 あまり細かく記すと興を削ぐので避けたいが、原作読者や、先行する映像化作品の印象を引きずらない方が本篇は受け止めやすいかも知れない。何なら、いちど忘れるか、可能な限り脇に避けて、無心で臨むほうが、作品世界に没入出来るのではなかろうか。
 それほどに別物である一方、原作の事件、ドラマの底にある主題はしっかり押さえているのだ。特に、原作終盤におけるカタストロフィについては、状況を変えつつも、その発生の原理はきちんと踏襲している。だからこそ理不尽であり、破滅的な本質を保っている。
 時代は異なっていても、こうした状況は起こりうる。本篇の場合、時代背景はともかく、都市部からの移動に時間を要する僻地、という状況は共通し、また当時とは様相を違えつつも、近い形で存在する問題の上にこの事態へと繋がっている。その変化と本質を摘出し、際立てて描いた本篇は、脚色として巧い。
 また、横溝正史に寄せるよりも、あえて清水崇監督の作家性に寄せたのも、大胆ではあるが従来の映像化と差別化という意味で正しい判断だと思う。死を描くくだりなど、ミステリというより完全にホラーであることを意識した演出をしており、従来の映像化とはまったく違う印象、怖さがある。原典から想起されるイメージの具現化を望む観客には不満しかないだろうが、原典で提示されたモチーフ、主題の解体・再構築という意味では充分に評価されるべき表現だ。
 クライマックスも、原典の趣向、本質を残しつつ、やはり“清水崇監督”の作風に大きく寄せている。これもまた原典を至高と掲げるような考え方をすれば噴飯ものの趣向だが、ここに描かれるものの雛型は確かに原作にあって、発現の清水崇流再構築、としては充分にあり得るのだ。
 原作の完璧な映像化を求める向きにはまるで納得のいかない作品だろう。ただ、映画にするということは、必ずしもその通りでは成り立たないことが多い。
 近年は原作に最大限の敬意を払い、原作ファンからも賞賛される優秀な映像化が増えてきたが、そういう作品であっても、省略したものや、やむなく大きく脚色したエピソード、省略された登場人物や人物設定が多かれ少なかれ存在する。賞賛されているのは、比較的多くのファンが許したからに過ぎない。どれほど誠実な映像化であっても、すべての観客の理想を満たすのは不可能だ。
 本篇の場合、要素ひとつひとつに注目すれば、原典を尊重しているのは窺える。原典にも描かれた集落の特性や事件に横たわる背景は現代的にしつつも踏襲しているし、金田一耕助の人物像は服装をセルの着物とお釜帽からコートと帽子に変更しながら、飄然とした振る舞いはむしろ原作の雰囲気を再現している。
 また、かつての映像化に対するリスペクトも随所に籠められている。実は清水崇監督が触れた最初の『八つ墓村』は野村芳太郎監督による1976年版だったそうで、ホラーの性質やヴィジュアルの発想に影響がしばしば垣間見える。端役でさらっと市川、野村の名前があるのも、清水崇監督ははっきり意図的に行ったようだ。
 解った上でこのアプローチを選んだ覚悟、そこに原作小説が持っていた主題をきちんと残し、一部は現代に寄り添い際立たせた成果は評価されて然るべきだ。警察の動きの不自然さや、村の住人の反応が極端すぎることなど、作劇の面で引っかかることは多いのも事実で、手放しで傑作と言い切れはしないが、横溝正史の著名すぎる代表作、という重すぎるプレッシャーに挑んで、しっかり自らの作風で応じた本篇は、好篇と呼んでいいと思う。


関連作品:
『口に関するアンケート』/『だぁれかさんとアソぼ?』/『呪怨』/『呪怨2』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック』/『輪廻』/『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』/『ラビット・ホラー』/『犬鳴村』/『樹海村』
『三本指の男』/『本陣殺人事件』/『悪魔の手毬唄(1977)』/『獄門島』/『女王蜂』/『病院坂の首縊りの家』/『犬神家の一族(2006)』
『源氏物語 千年の謎』/『ミステリと言う勿れ』/『SPACE BATTLESHIP ヤマト』/『木挽町のあだ討ち』/『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』/『探偵はBARにいる』/『神在月のこども』/『トリハダ-劇場版-』/『劇場版 ラジエーションハウス』
『地獄少女』/『見える子ちゃん(2025)』

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