台風接近により週末ずーっと大雨の予報が出ております。しかし、きのうも今日もイベントがはじめから入っていたため、出かけざるを得ません――もしコロナ禍でなければ、2ヶ月にいちどの徹夜イベントもあるはずだったんですが、そちらは残念ながら年内の再開を断念してしまったので、出かける回数はひとつ減ってたりはする。
雨は降っているものの、思ったほどには激しくない。しかしバイクだと後始末に困るので、当然ながら電車での移動です。
訪れたのは新宿武蔵野館。ここは新宿駅から地下通路が直接繋がっているので、雨の日は有り難い――しかし、到着が早すぎたので、けっきょくわざわざ外に出て、既に開いているヨドバシカメラに足を運んだりして。何せ昨晩、浴室の電球が切れて、タオルを掛けたLEDランタンの光で入浴する羽目になりましたから、どっちみち買い物には来なきゃいけなかったのです。
劇場に戻り鑑賞したのは、爆笑問題の事務所・タイタンのマネージャーでもある八木順一朗の長篇第1作、長野を舞台に、実家のリンゴ農家で働き続けながらもお笑いの道を志す青年の迷いを、農村の風物を美しく織り交ぜて描いた『実りゆく』(彩プロ配給)。
この作品、もともと八木監督が事務所には内緒で『MI-CAN 未完成映画予告編大賞』に投じた架空の予告編だったのです。この映画祭、グランプリを獲得すると堤幸彦監督らの所属するオフィスクレッシェンドのサポートで本物の長篇を撮影させて貰えるのですが、この第1回の受賞作にタイタンのタレントが出演したことを契機に八木監督が撮影、エントリーしたという。本選では竹内が男優賞を獲得、作品としても堤幸彦賞を授与されましたが、グランプリは逃したため、他の場合ならそのまま埋もれてしまうはずでした。
しかし、予告篇を見たタイタンの太田光代社長が「是非とも完成させるべきだ」と後援を表明、そこから出資者を募り、2年を経てようやく劇場公開に至った、というわけです。何せタイタンのことですから、受賞当時からシネマライブで採り上げ、本篇制作の報も聞かされていたので、楽しみにしていたのです。
そういった事情でタイタンの芸人が多数出演しており、私としてはそれが鑑賞出来れば満足だったんですが――想像以上に、いい映画でした。芸人メインの事務所のスタッフらしく、芸人の夢と苦悩がメインテーマになってますが、そこにちゃんと家業への向き合い方も真面目に織り込まれてる。吃音がある主人公の苦悩や、早くに失った母親の記憶、そこへ咲に上京して芸人として戦う旧友との複雑な関係も絡まってきて、青春ドラマとしてうまく構成されてる。何より唸らされたのがクライマックスです。まさに監督やキャストの特異なバックボーンが活かされた場面なのですが、まさかここで目頭を熱くさせてくれるとは思わなかった。
あと、長年タイタンシネマライブに通い詰めている者としては、タイタン芸人はもちろんのこと、そのネタがあちこちに鏤められているのが楽しかった。本篇はやはりタイタン所属の芸人である松尾アトム前派出所がモデルになっていますが、都合により本篇には出演出来なかったぶん、彼の決め文句などのエッセンスはちゃんと入ってるし。ただ、日本エレキテル連合の橋本小雪が至極シリアスなシーンにて、真顔で「駄目よ、駄目駄目」と言ったのはさすがにちょっとどうかと思った。入れたかった気持ちはわかる、解るが。
本篇上映後、少し時間をおいて、オンラインによる舞台挨拶が行われました。
登場したのは主演のまんじゅう大帝国・竹内一希と、劇中では友人兼ライヴァルに扮した相方・田中永真。主人公の父親役の田中要次に監督の八木順一朗、そして司会として伊藤さとり。
田中永真が「本人役の田中裕二として出演しましたー」というボケを挟んだりしつつ和やかに進行。もととなった予告篇でも主演を担当した竹内は、実現に驚きながら、脚本を読んで最初は「出来ない」と思ったそうです。田中永真はそんな相方に「断れば自分が主演になれたのに」と思っていたとか何とか。
本篇の着想は八木監督が松尾アトム前派出所の実家を訪ねる機会があった際に、リンゴ農家としての苦労や生活に接して本篇を構想、趣味で脚本を用意していたところ、未完成映画予告編大賞の話を知り、挑戦を考えたのだそうです。予告篇の時点で松尾の実家をロケ場所にしていたので、この完成版でも松尾の郷里である長野の松川町にて、住民の協力のもと撮影を敢行している。
実は父親役の田中要次は、峠ひとつ超えた隣町が出身地なのだそうです。撮影中、時間があれば実家に戻って草刈りでもしてこようか、と考えていたところ、撮影直前に襲来した台風によって中継点のトンネルが塞がってしまった。ここが通れないと、迂回して2時間はゆうにかかってしまうため、結局足を運ぶことは出来なかったとか。
なお本篇において監督がこだわったのは、リンゴ畑を出すことと、リンゴ農家ではお馴染みの改造軽トラを出すことだったらしい。リンゴ農家では、枝が低く生い茂る畑を移動するため、フロントガラスから上の部分をカットした軽トラが使われている。この異様な光景に惹かれて、「映画にするならこれは出したい」と思っていたのだとか。もともと本物を運転した経験のある田中要次のハンドルさばきはなかなか荒々しく、実際本篇でも見所になってます。
リモートという制約された状況ながら、終始和気藹々とした雰囲気で、終了の時間。最後に改めて監督がいちばん思い入れのある場面に触れて締めくくりました。
鑑賞後、まずは書店に赴き買い物をしたあと、食事のためにラーメン店へ――行くつもりでしたが、いざ訪ねてみたら、雨の中だというのに列が出来てる。この状況で並ぶのは厭だな、と思い、とりあえず自宅最寄り駅まで戻ることに。
しかし、いざ駅に着くと、空腹になりすぎてクラクラしてきた。これでは提供を待っているあいだも保たない、と思い、コンビニで購入して自宅で食べることに。あまりにもフラフラになりすぎて声が出てなかったのか、母は私が帰宅したことに気づかなかったそーです。
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[…] 監督、脚本&編集:八木順一朗 / プロデューサー:佐藤満 / エグゼクティヴプロデューサー:太田光代 / […]