節子はいまも、蛍と戯れている。

 個人的にはまだ4月が終わってない感じではあるのですが、今日は映画鑑賞です。仕方がないの。先週の時点でチケット確保済だったし、前々から映画館で観たかった作品だし、滅多にない機会だし。
 午前中は透析用医材の搬入と整理でバタバタし、仮眠を挟んで、夕方に電車で移動。暑くなる、と言われたGW期間で唯一に近い1日雨の予報になり、あまり出かける気分になりにくいのですが、日付がずらせないのでやむを得ない。当初、ついでにこの間ユニクロで買ったはいいけれど、ミシン針が折れて裾上げできなかったものを、ちょーど映画館近くに店舗があるのでそちらでお願いしようか、と思ってましたが、降りが思いのほか激しく、濡れたジーンズを持ち込むのもアレなので断念。
 向かったのは、かなり久し振りの丸の内TOEI。今年7月での閉館が決まっており、現在、通常のロードショーもかける一方、日本映画100年の傑作を上映する特別企画を実施している。色々と気になる作品は多々あれど、こちらの都合でどーしても訪ねるタイミングがなかったのですが、今日のこれだけは是が非でも観たかったのです。
 そこまで必死の思いで鑑賞したのは、宮崎駿とともにスタジオジブリで活躍した高畑勲監督が野坂昭如の小説を緻密な考証のもとアニメ映画化、戦火に包まれた町で生きようとした兄妹の姿を描く『火垂るの墓(1988)』(東宝初公開時配給)
 この作品、間違いなく公開当時に、映画館で鑑賞してます。なにせ私は『天空の城ラピュタ』から観ているのだ――ただ、『となりのトトロ』とこの作品のコンボはだいぶ重たかった気がします。あの時期は座席指定・総入れ替えではなく、いつ入っていつ出てもいい、というシステムだったため、2本立てのどちらから観ても良く、うっすらと残る記憶では、『トトロ』のエンドロールのときに入って、そこから本篇、『トトロ』と観たはず――映画館がどこだったか記憶はしてません1が、地下にある劇場から出るとき、いいようのない気分になったのを覚えてます。そらそうだろ。
 たぶん初見のとき以降、ろくに観ていないのでしょう、思っていた以上に細かい記憶がない。やたらと真に迫った空襲の描写、節子が衰弱していく生々しさとかはうっすら記憶してましたが、細かくは曖昧でした。
 そんな感じなので、今更ながら衝撃がデカい。セルのみでここまで繊細に描くこだわり、一般的な戦争映画とは異なる、子供の目で見た戦争の非情さが強烈に迫ってくる。
 いま観て特に来るのは、思春期を戦争と共に生きていた清太が、どんどん変化していく様です。まだ父が勇ましく戦っている、と信じていた清太の信念の揺らぎ、身を寄せた親類から浴びる嘲笑から、節子とふたりだけで生きていく、と決断したあとの必死ぶり。とりわけ、逃げ惑うだけだった空襲を、火事場泥棒の手段としていつしか歓迎するかのような態度を見せるくだりがけっこう衝撃的です。
 恐らくは原作の時点で丹念に描かれていたであろう、そんな戦時下のリアルを、高畑監督ならではの徹底した緻密さで描ききっている。なにせ本当にトラウマ級の作品なので、いちど観ると「もういい」という心境になるが故に、テレビ放送などでは振るわず他のジブリ作品と比べて鑑賞される機会を失っている気がしますが、しかし間違いなく、1回は観ておくべき作品。

 ちなみにこの丸の内TOEI閉館記念特別企画として行われているこの名作上映、『火垂るの墓』の直前にかかっていたのは『二百三高地』でした。
 ……実はだいぶ迷いました。何故なら、これはさだまさしファンとしては、いちど観ておくべき作品なのです。音楽担当の山本直純からの依頼でテーマ曲を手懸けたさだまさしは、ひたすらに死の意味を問う『防人の詩』を提供した。結果、それまでただ“暗い”とか“軟弱”と陰口を叩かれていたさだまさしとそのファンが、急に右翼扱いされる、というだいぶ理不尽な境遇追い込まれた、いわくつきの作品です。
 曲を聴いてもらえば解りますが、『防人の詩』は戦争礼賛どころか、『花はどこへ行った』にも通ずる主題をより露骨な表現で追求した、反戦歌としての性質を色濃くしている。それがなんで右翼扱いされねばならなかったのか。ちゃんと作品と向き合って評価したい、という私の基本のスタンスは、こういうところに原点があったりする。

 夕食に、このあいだ初めて食べて美味しかったよもだそばの鴨そばをもういちどいただこうか、とも思ったのですが、前日のうちに考えて、家で食べる、と母に伝えて出た。しかしまっすぐは帰らず、駅前の三省堂書店に寄って、一冊だけお買い物……この映画のあとで買うのが『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』の2巻、というのが何となく申し訳ない。買いに来るタイミングがなかったんだもん。

丸の内TOEI、スクリーン2の階段手前に掲示された『火垂るの墓(1988)』ポスター。
丸の内TOEI、スクリーン2の階段手前に掲示された『火垂るの墓(1988)』ポスター。

  1. 独立していた時期の日比谷みゆき座か、いまの上野サクラテラス付近にあった劇場だったかも知れません。[]

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