今年は序盤から色々と大変でしたが、どうも10月、思った以上に出費が嵩みそうで、更に気張らねばなりません。そしてそのあとのこともあれこれ考えた結果、少なくとも年内は、毎年コンプリートを目指す午前十時の映画祭15と、これはどーしても観ておきたい、という映画だけ観に行くことにしました。確実に鑑賞本数3桁はいかないし、やむなくスルーする作品も増えそうなのが忸怩たる気分ですけど、まあ仕方ない。
が、きょう出かけてきたのは、そういう条件を掲げても絶対にこぼしたくなかった映画の封切り日だからです。
丸の内ピカデリーにて鑑賞したのは、待望だった1本、失踪した編集長が残した資料を頼りに、特集記事の完成を目指した編集者が遭遇する恐怖を描く『近畿地方のある場所について』(Warner Bros.配給)。
ネットの投稿小説として発表されたときから読んでいた作品の映画化、しかも監督は、『ノロイ』というフェイク・ドキュメンタリー形式ホラーの一つの金字塔を撮った白石晃士。この組み合わせで観に行かないわけがない。仮に舞台挨拶が当たらなかったとしても、他の劇場で初回から観てきたでしょうけれど、無事に当選したので足を運びました。
いい意味でも悪い意味でも、期待通りでした。
ノロイ
いい意味は、中盤までのフェイク・ドキュメンタリー部分の安定感。原作の各章のエッセンスを正しく実写化してます。そこだけ切り取れば、さほど珍しくないトラブルや地方の日常の一コマに過ぎない。しかしそれらが秘めた違和感が、ひとつの土地に結びついていく怖さの表現は、原作を踏襲していて期待通りです。
悪い意味では、白石晃士監督が手懸ける、と聞いたときに抱いた不安がほぼそのまんま出てました。フェイク・ドキュメンタリーの手腕が確かである一方、白石監督は最終的に解りやすい猟奇的ヴィジュアルで押してくる作品も多い。《コワすぎ!》シリーズのような自身のオリジナルではそれも魅力ですが、原作があり、その魅力が既に確定している作品でやるのは、わりと微妙なところがある。本篇の場合、原作者が白石監督の『ノロイ』を意識して執筆した、という話があるくらいで、そもそも白石監督のファンであったらしい。白石監督の作風に寄せることに原作者側では抵抗はなかったのでしょうが、観る方はそうとは限らない。
私も白石作品は好きなので、本篇の解釈、アレンジは面白かったんですが、ただ、昨今のホラーの傾向と受容ぶりを考えると、必ずしもハマらない人の方が多いのではなかろうか。
ただ、それでも序盤のじりじりと積み上げられる怪異のリアリティと、残された資料に当たるばかりだった主人公たちが動き出す終盤の激しさは、映像ならではのダイナミズムに満ちている。白石監督のひとつの到達点であるのも確かですし、この題材の解釈のひとつとしては充分に面白い。
本篇のあと、舞台挨拶です。登壇者はW主演の菅野美穂と赤楚衛二に白石晃士監督、司会は荘口彰久。
いちおう可能な範囲でメモを取りましたが、なにせ本篇上映あとのトークなので、基本的にネタばらしありですから、あんまり書けません。
書ける範囲で触れるなら、「原作を読んだ人」という問いかけに手を挙げた観客より、「赤楚くん目当ての人」で手を挙げた人の方が圧倒的に多かったこと。近年のホラーブームを思うと、もっと原作読者がいてもいいような気がしたんですが、あんなに少ないとは思わなかった。
あと、挨拶の終盤で、主演俳優ふたりに本当の恐怖体験を語ってもらうくだりがあったのですが、それがいい意味で実にくだらなかった。いちおう身構えたんですけど、ちょうどいい脱力具合でした。
総じて、白石監督のスタイルへの信頼と、現場のパワーが凄かった、ということが窺える舞台挨拶でした。少なくとも、その力強さは本篇に出ていると思う。とりあえず、本篇終盤の菅野美穂に注目すべきなのは間違いない。
当初の心づもりでは鑑賞後、少し歩いて、つけ麺を食べて帰るはずだったんですが、映画館のコンセッションが混みすぎていてドリンクを買うのを避けたため、映画館を出た頃には低血糖気味。このまんま歩き続け、更につけ麺のちょっと永井茹で時間を耐える余裕はない、と思い、有楽町駅近くの丸亀製麺で手早く済ませました。つけ麺はまた今度。
『近畿地方のある場所について』、丸の内ピカデリーで実施された初日舞台挨拶のフォトセッションにて撮影。左から白石晃士監督、菅野美穂、赤楚衛二。
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