『口に関するアンケート』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口前に掲示された『口に関するアンケート』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口前に掲示された『口に関するアンケート』チラシ。

原作:背筋(ポプラ社・刊) / 監督:清水崇 / 脚本:山田雅大 / 撮影:大内泰 / 照明:神野宏賢 / 美術:橋本泰至 / 装飾:貴志樹 / 編集:鈴木理 / VFXスーパーヴァイザー:井上浩正 / 録音:原川慎平 / 音響効果:大塚智子 / 音楽:大間々昴 / インスパイアソング:オレンジスパイニクラブ『口』 / 助監督:毛利安孝 / 出演:板垣李光人、綱啓永、吉川愛、MOMONA(ME:I)、森愁斗(BUDDiiS)、西山智樹(TAGRIGHT)、柄本時生、中村獅童 / 制作プロダクション:ホリプロ / 配給:松竹
2026年日本作品 / 上映時間:1時間29分
2026年7月3日日本公開
公式サイト : https://movies.shochiku.co.jp/kuchi-movie/
TOHOシネマズ上野にて初見(2026/7/16)


[粗筋]
 刑事の草壁(中村獅童)は業務をそっちのけで、入手した音声の確認に没頭していた。
 ギャンブルに狂った草壁は借金が嵩み、しばしば知人の雑誌記者・西(柄本時生)にネタを売りつけている。今回も、大事件に拘わるネタとして、高嶺で西に買い取らせるつもりだった。
 西は、今日日、雑誌も根拠がないと記事には出来ない、と言い、日下部に裏付けを求めた。草壁は入手した音源を聴きながら、現場である霞ヶ原霊園へと車を走らせる。
 録音では、心霊スポットという噂のある、霞ヶ原霊園の奥にある“呪いの木”に肝試しに訪れた若者たちが、それぞれに自身の体験を証言していた。
 録音の中で翔太(板垣李光人)という大学生は、竜也(綱啓永)、杏(吉川愛)、美玲(MOMONA)とともに“呪いの木”に向かった。霊感があるという美玲が不安を口にするが、結局、肝試しは行われた。
 霊園の途中まで揃って移動し、そこからは一人ずつ順番に“呪いの木”に向かい、移動してきた乗用車に戻る、という段取りになった。まず翔太が向かい、続いて竜也、杏の順に“呪いの木”を訪れる。美玲は不穏な気配に耐えかね、肝試しはしないことになった。
 美玲の予感は的中した。恐ろしい出来事は、確かに起きた――


[感想]
『近畿地方のある場所について』で鮮烈に登場し、2020年代のホラー分野におけるトップランナーのひとりとなった背筋が、この話題作に続いて発表した、一風変わった体裁による短篇小説を、『呪怨』によってハリウッドでも高く評価され、近年もコンスタントにホラー映画を撮り続ける第一人者・清水崇監督が実写映画化する、という、夢のようなプロジェクトである。そもそも第1作『近畿地方~』自体が、著者が強く影響を受けた白石晃士監督によって映画化されているのだから、実に恵まれている。それだけ著者が、業界から期待される存在であることの証左でもある。
 ただ、『近畿地方~』と比べると、本篇は映画化のヴィジョンが想像しづらい。なにせ原作は、インタビュー音声らしきデータを順不同で文字起こしした、という体裁で執筆されており、語り手の姿が見えないこと、言葉の上っ面しか確かめられないことが、読者の想像を掻き立てる、という構造になっている。印刷媒体ならではの工夫もあって、書籍という体裁でこそ味わえるホラーだった。
 そのため、映画版では、原作に登場しない刑事の草壁、雑誌記者の西という登場人物を設定し、原作を踏襲した音声記録を確認する、という形で物語に関わらせ、別の視点で見せている。
 私はこれをかなり巧みな脚色と評価するが、一方で、原作の愛読者が好意的に捉えるか、は定かではない。原作の体裁を徹底し、新たな登場人物や視点を設けず、原作の体裁を映像として深めることを期待していたなら、間違いなく本篇は失格だ。
 しかし、そういう意味では、原作の題材、物語は、あの形以上には仕上がらないことも間違いないだろう。そのアイディアを、映画として見せる、そして原作に接していない観客にも伝わるホラー、エンタテインメントとして組み立てる、という意味では、本篇の趣向、描写は非常にクオリティが高い。
 インタビューを受ける“体験者”たちは全員、過剰なほどのクローズアップで撮影される。スクリーンに大写しになるのは正面からの顔、しばしば横顔も捉えられるが、次に大きく移されるのは口許だ。全員が精神的に動揺し、或いは奇妙な昂揚感をあらわにして語る様子は、それ自体に不気味な怖さがある。
 基本となるシチュエーションは、ホラーや怪談はもちろん、近年もDVDでのリリースが続いている怪奇ドキュメンタリーではお馴染みの心霊スポットでの肝試し、その後に参加者を怪異が襲う、という流れだ。
 しかし本篇は、そうした作品の多くが単数の視点で描かれているのと異なり、複数の関係者が証言することで、ひとつの事件、ひとつの怪異を、立体的に描き出している。そうすることで、ひとつの出来事、現象に異なった意味合いが生まれ、その隙間から恐怖が滲み出してくる。
 加えて、その証言を、刑事・草薙が行動し、裏付けを取りながら順繰りに聞いていくことで、原作に近い物語としての体験を、更に具体的な形で映像として昇華している。彼の目線を通すから、事情が判明していくに従ってじわじわと滲み出す不気味さが恐ろしく、終盤の衝撃が際立つ。
 一方で、インタビューの音声のみでは描ききれない、証言者たちが体験する怪異と恐怖の表現には、清水崇監督の手癖が少々露骨なほどに窺えるのが、監督の作品を多数鑑賞してきた者には興味深い。とはいえ、表現の仕方や間の取り方は、長年ホラー映画に携わってきた監督ならではの熟練した手際で、その描写だけでも観客を震えさせる力を充分備えている。
 一種、謎解きのような興趣も演出した本篇は、上質のホラーであり、優秀なエンタテインメント作品に仕上がっている。内容的に、これ以上細かく語ることは出来ないが――惹きつけられてしまったが最後、語りたい欲求に駆られる、呪いめいた作品である。

 ――私の番は、以上です。
 ところで、アンケートの答えはどちらに提出すればよろしいですか? あの木のベンチにでもお持ちしますか?


関連作品:
近畿地方のある場所について
呪怨』/『呪怨2』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック』/『輪廻』/『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』/『ラビット・ホラー』/『犬鳴村』/『樹海村
PERFECT DAYS』/『銀の匙 Silver Spoon
鬼談百景』/『マウント・ナビ』/『アンフレンデッド:ダークウェブ』/『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』/『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』/『罪の声』/『THE GUILTY/ギルティ(2018)』/『THE GUILTY/ギルティ(2021)

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