『濡れ髪喧嘩旅』


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監督:森一生 / 脚本:八尋不二 / 製作:三浦信夫 / 企画:八尋大和 / 撮影:本田省三 / 照明:古谷賢二 / 美術:太田誠一 / 編集:谷口孝司 / 録音:林土太郎 / 音楽:小川寛興 / 出演:市川雷蔵、川崎敬三、浦路洋子、真城千都世、三田登喜子、浜田ゆう子、仁木多鶴子、山田五十鈴、島田竜三、美川純子、加茂良子、伊沢一郎、清水元、寺島貢、荒木忍、スリー・キャッツ、南部彰三、水原浩一、寺島雄作、東良之助、光岡龍三郎、原聖四郎、伊達三郎、石原須磨男、尾上栄五郎、綾英美子、小林加奈枝、金剛麗子、堀北幸夫、玉置一恵、芝田総二、大貫正仁、伊藤春美 / 初公開時配給:大映 / 映像ソフト最新盤発売元:KADOKAWA
1960年日本作品 / 上映時間:1時間39分
1960年2月17日日本公開
2014年9月26日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2021/11/4)


[粗筋]
 町奉行として遠山金四郎(島田竜三)が辣腕を振るっていたその頃、勘定奉行に遠山金八郎(川崎敬三)という男がいた。同じ遠山でもこちらは昼行灯で通っており、昇進の見込みはまったくない。
 そんな彼に、思いも寄らぬ命が下った。美濃太田の金山代官・黒崎主膳(荒木忍)に不正の疑いがあるため、会計監査に赴け、というのだ。同僚たちは、金八郎には荷が重すぎる、失脚させるためのお膳立てに過ぎない、と憐れみ、七日間の道中をせいぜい楽しむように諭す。
 自分でも大役を果たす自信がない金八郎は開き直ることに決めた。さっそく最初の宿場で豪遊しようとするが、投宿した先にはろくな用意がない。ふて腐れていると、向かいの窓に徒な美女が腰掛けているのを見て、金八郎は手招きで酌をするように誘うと、女は喜んでやって来た。
 だが、いい気分になった矢先に、女の亭主を名乗る男とその仲間たちが駆けつけてきた。美人局、と悟るが時既に遅し。武術の心得もない金八郎は窮地に陥ってしまった。
 揉み合ううちに襖ごと隣室に転がり込んだ金八郎は、そこで金勘定をしていた渡世人らしき男に助けを求める。ひとり頭一両、合計七両で退治を請け負う、とふっかけてきた男に泣く泣く金を渡すと、男は鮮やかな手際で暴漢たちを追っ払ってしまった。
 翌る日、金八郎は旅立った男を追いかけ、さすがに七両は高い、と泣きつき、三両でいいから返して欲しい、と訴える。男は返す代わりに、同程度稼げる場所を紹介する、と言って、金八郎を鉄火場へと導くのだった。
 かくて、おさらば伝次(市川雷蔵)と金八郎との、奇妙な道連れ旅が始まった――


『濡れ髪喧嘩旅』本篇映像より引用。
『濡れ髪喧嘩旅』本篇映像より引用。


[感想]
濡れ髪剣法』から始まる《濡れ髪》シリーズの4作目――とは言い条、各篇に共通する設定はない。せいぜい題名と一部スタッフが重なっているくらいで、一貫しているのは、市川雷蔵主演の娯楽時代劇、という点だけである。私自身は行きがかり上、順番に鑑賞してきたが、少なくともここまで4作品、どれから観ようが、どれか1本だけ抜きだして観ようが構わないと思う。
 シリーズのいずれの作品にも言えることだが、いい意味でも悪い意味でも往年の娯楽時代劇で、考証のリアリティや物語の奥行きといったものはまったく感じられない。本篇は序盤、遠山金八郎という勘定奉行を中心に描かれるが、この男がまた薄っぺらな男で、仕事が出来る様子はなく、いざ大役を任されて旅立つと、無思慮に遊び歩く。最初の宿場で雷蔵演じる伝次に会っていなければ、その時点で身ぐるみ剥がれて路頭に迷っていただろう、というくらいに振る舞いが軽率だ。いざ伝次という、金にがめついが実は言っていることは真っ当、という頼もしい道連れを得ても、助言を無視して、賭場でけっきょく身ぐるみ剥がれる始末である。基本がコメディ調だから成立するが、まともな感覚なら普通に世渡りすることすら難しい人物像だ。
 成り行きで金八郎と伝次が道連れとなってからもたびたびトラブルに遭遇するが、それらが連繋しておらず、ストーリー展開自体も金八郎と同じく行き当たりばったりの印象が強い。いちおう、“伝次は何故、金に執着しているのか?”という謎を軸として用意しているが、最終的に金八郎の任務と密接に関わるわけではないし、伝次の物語単独で眺めても、その場その場でドラマティックな要素を繋ぎあわせているようで、あまり綺麗にまとまっていない。
 ただ、観ていて終始、楽しいのは確かなのである。愚かだが愛嬌のある金八郎の言動はまるで往年のドリフターズのコントを見ているようで――恐らくドリフのほうが、この時代の娯楽時代劇のフォーマットを活用していた、というのが実情だろうが――都度都度笑いを誘われる。随所でしっかりとした立ち回りがあるし、色恋沙汰に、筋として取って付けた感はあるものの、人情劇まで盛り込まれていて無駄がない。最後には複数の登場人物たちが入り乱れた騒動に発展し、そこから綺麗なところに着地するので爽快感もある。
 私くらいの世代では、テレビの司会者として薄ぼんやりとした記憶を残す川崎敬三が、綺麗な顔立ちで、ドジだが憎めない若侍を演じているのがなかなか新鮮だし、そのキャラクター性も堂に入っているが、やはり特に脂の乗っていた当時の市川雷蔵には華がある。いささか無理のある展開であっても、そのスター性で大幅に補っていることは間違いない。人を食った言動も気っ風の良さも、家族を想う人情家の顔も見せる本篇は、ファンとしてはなかなかに見応えがある作品と言えよう。
 取って付けたような展開に、唐突すぎるスリー・キャッツによる現代歌謡曲丸出しの演奏など、ツッコみたくなる要素も目白押しだが、ここまで臆面もなく露出しているものにやたらとツッコミを入れるのも野暮というものだろう。本篇が登場していた当時の流行、人気者が登場する、そのゆる~い空気感まで楽しむべき作品だ。これを気負いなく発表して、楽しんでくれる観客がいた当時は、少し羨ましくもある。


関連作品:
濡れ髪剣法』/『濡れ髪三度笠』/『浮かれ三度笠
陸軍中野学校』/『座頭市物語』/『猫は知っていた』/『東京暮色』/『近松物語 4Kデジタル復元版』/『本陣殺人事件
幕末太陽傳 デジタル修復版』/『助太刀屋助六』/『座頭市(2003)』/『超高速!参勤交代

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