『くるみ割り人形と秘密の王国(字幕)』

TOHOシネマズ上野の入っているフロンティアタワー1階外壁にあしらわれたヴィジュアル。

原題:“The Nutcracker and the Four Realms” / 監督:ラッセ・ハルストレムジョー・ジョンストン / 脚本:アシュリー・パウエル / 製作:マーク・ゴードン、ラリー・フランコ / 製作総指揮:リンディ・ゴールドステイン、サラ・スミス / 撮影監督:リヌス・サンドグレン / プロダクション・デザイナー:ガイ・ヘンドリクス・ディアス / 編集:スチュアート・レヴィ / 衣装:ジェニー・ビーヴァン / キャスティング:ルーシー・ベヴァン / 指揮:グスターヴォ・ドゥダメル / 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード / 出演:マッケンジー・フォイキーラ・ナイトレイ、ジェイデン・フォーラ=ナイト、エウヘニオ・デルベス、リチャード・E・グラント、ミスティ・コープランドマシュー・マクファディン、アンナ・マデリー、トム・スウィート、エリー・バンバー、ジャック・ホワイトホール、オミッド・ジャリリ、ヘレン・ミレンモーガン・フリーマン / 配給:Walt Disney Japan

2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:古田由紀子

2018年11月30日日本公開

公式サイト : http://Disney.jp/kurumiwari

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/12/20)



[粗筋]

 クリスマスイブだというのに、クララ(マッケンジー・フォイ)の心は沈んでいた。まだ最愛の母マリー(アンナ・マデリー)が亡くなって時が浅く、それでもしきたりどおりクリスマスを祝おうとする父シュタールバウム氏(マシュー・マクファディン)に反感を抱いてしまう。

 イブの夜、父は子供たちに、母から託されたプレゼントを渡した。長女のルイーズ(エリー・バンバー)にはドレスを、長男のフリッツ(トム・スウィート)には人形の兵隊を、そしてクララには卵形の機械が贈られる。卵には鍵穴があるが鍵がなく、同封された手紙には“この中にすべてが入っている”というメッセージが記されている。

 クリスマスの夜、シュタールバウム家は発明家であるドロッセルマイヤー氏(モーガン・フリーマン)のパーティに参加するのが習わしになっていた。クララは「一緒にダンスを踊ろう」という父の命を無視し、卵形の機械の開け方をドロッセルマイヤー氏に相談する。

 その卵は、かつて孤児だった母にドロッセルマイヤー氏が贈ったものだった。心を閉ざしていた母が、外の世界に出ていくきっかけになったのだという。複雑な構造ゆえ鍵を使って開けるしかないが、スペアの持ち合わせはなく、オリジナルを探すしかない。

 やがてドロッセルマイヤー氏のクリスマスパーティー恒例、贈り物探しが始まった。姉や弟がはやばやとプレゼントを発見するのをよそに、クララはタグに繋がれた長いロープを辿るうち、気づけば何故か、不思議な森に出ていたのだった……

[感想]

 バレエ楽曲として著名な『くるみ割り人形』だが、そこで綴られる物語の詳細は知らない、というひとはけっこういるのではかなろうか。白状すると、かく言う私もまたその口だ。本篇でその本質に触れられるのを、実はちょっと楽しみにしていた。

 鑑賞後、パンフレットも参照して確認したが、どうやら本篇はもともとのオリジナルである童話とも、チャイコフスキーのバレエ楽曲とも物語は異なっているらしい。だから私と同様の目的で鑑賞してもあまり意味はないし、たぶんそういう意味ではお薦めするべきではない。むしろ切り離して鑑賞したほうがいいだろう。

 ただ、申し訳ないが、背景などを一切考えずに鑑賞すると、正直あまり出来がいいとは言えない。

 簡単に言えば、悪い意味で“子供騙し”が過ぎる作りなのである。クリスマスという設定に異世界での冒険というシチュエーション、一連の出来事を経て親子の間にあったわだかまりを乗り越える、というテーマの解りやすさなど、それ自体はいいのだが、それらの繋ぎ方、展開への工夫が唐突だったり思慮不足だったりで、不自然さが目立つ。

 たとえば、邸宅のあちこちにクリスマスプレゼントへと導く紐を結びつけ、タグに従って辿る、という趣向は、それ自体子供心を刺激するものだが、冷静な大人の目線に立てば、子供なのだから間違った紐を辿ったり、他人の紐に細工をするイタズラも考え得る。そういう危険性があるのに、劇中描かれたような方法でクララを誘導するのはかなり危なっかしい。意図的にクララを異世界に導くにしても、もっと多くの工夫や配慮が必要だったように映る。

 また、肝心の異世界での冒険も、全判に腑に落ちない箇所が多い。クララの母がどのようにこの世界に関わっていたのか、どうして連絡を断っていたのか、という詳細が不明なのはいいとしても、消えている感に起きた確執、騒動が全般に恣意的に映る。あからさまなレベルで「クララに行動させたい」という意図が窺えて、空々しく映るのだ。よほど素直なたちであるか、相当に寛容なひとでないと、最後まで釈然としない想いを抱かされるのではなかろうか。異世界ならではの冒険の要素もいまひとつボリュームに乏しい。

 ただ、個々のアイディアや映像表現そのものは素晴らしいものがある。前述の、クリスマスツリーから紐を伸ばしてプレゼントに導く、というアイディアは観客の立場でもワクワク感を味わえる。そこに至るまでに登場する、発明家であるドロッセルマイヤー氏の存在や、彼の世界観が垣間見える邸宅の調度類も巧みに期待感を煽る。

 冒険の内容は物足りない、と思わせる一方で、異世界のルールやヴィジュアルは魅力的なのだ。自発的に動く玩具ばかりの世界、という発想自体が多くの子供がいちどは想像するものだろうし、安易に映像化することで生じるグロテスクさを抑え、ひたすら愛らしく美しく描ききった美術の一貫性は素晴らしい。

 そして何より、ヒロインのクララを演じたマッケンジー・フォイの愛らしい佇まいだ。不安定な繊細さと冒険する少女に似つかわしい快活さ、聡明さもたたえた彼女が異世界で悩み、考え、駆け回る姿はこの上なく魅力的だ――だからこそ、もっと多彩な冒険や趣向が欲しかった、と余計に感じさせる嫌味もあるのだが。

 さすがにディズニー作品なだけあって、子供に安心して見せられる内容だし、予算と技術とを注ぎ込んだヴィジュアルの質は極めて高い。テーマやアイディアは評価出来るだけに、そのボリューム不足と、アイディアのひとつひとつがうまく噛み合わなかったことが惜しまれる。

関連作品:

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