『少林寺〈4Kリマスター版〉』

新宿武蔵野館、エレベーター正面に掲示された『少林寺〈4Kリマスター版〉』ポスター。
新宿武蔵野館、エレベーター正面に掲示された『少林寺〈4Kリマスター版〉』ポスター。

監督:チャン・シンイェン / 脚本:シッ・ハウ、ロー・シウチェン / 製作総指揮:リャオ・イーイエン / 撮影監督:チャウ・パクリン、リウ・フォンリン / 美術:ホク・スンウォン / 衣裳:ウォン・クワイピン、タン・イーフォン / 編集:チャン・シンイェン、ウォン・ティン、レイ・ヨッワイ、クー・チーワイ / 武術指導:マ・シャンダ、ユエ・ハイ、パン・チンフー、ワン・チャンカイ / 音楽:ワン・リッピン / 出演:リー・リンチェイ(ジェット・リー)、ユエ・チェンホイ、ユエ・ハイ、ティン・ラン、ワン・クァンチュアン、イェン・ディホア、チャン・チェンウェン、フー・チェンチァン、スー・チェンクェイ、リウ・ハイリャン、ワン・ジュ、トゥ・チュアンヤン、ツォイ・チーキョン、シン・フォン、パン・ハンクァン、フォン・ピン、チアン・ホンポー、山崎博通、チー・チュアンホア / 初公開時配給:東宝東和 / 4Kリマスター版配給:AMGエンタテインメント / 映像ソフト日本最新盤発売元:KING RECORDS
1982年香港作品 / 上映時間:1時間31分 / 日本語字幕:進藤光太
1982年11月3日日本公開
2022年4月15日4Kリマスター版日本公開
2017年7月5日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
4Kリマスター版公式サイト : https://shaolinji-movie.jp/
DVDにて初見(2010/10/19)
新宿武蔵野館にて再鑑賞(2022/5/5)


[粗筋]
 中国、隋朝末期。群雄割拠の中、民衆に圧政を強いるワン将軍(ユエ・チェンホイ)によって父を殺されたシャオフー(リー・リンチェイ)は、命からがら逃げたのち、少林寺の僧たちによって匿われる。
 ワン将軍への復讐を誓うシャオフーは、少林寺で伝授する拳法に魅せられ、その技で遺恨を果たすことを考えた。管長(チャン・チェンウェン)は彼を受け入れるものの、少林拳は自衛のために用い、殺人には使わない、という掟がある。僧となりチェユアンと名を改め、修行に励んだシャオホーは、だがそのジレンマに苦しみ、寺を飛び出した。
 だがひとりで抵抗はしきれず、折しもワン将軍によって攫われていた、寺の師匠タン(ユエ・ハイ)の娘であるパイ(ティン・ラン)を救い出すと、やむを得ず寺に舞い戻る。
 ふたたび修行に明け暮れる日々に戻ったチェユアンであったが、ワン将軍らの魔手は、少林寺にも伸びようとしていた……


新宿武蔵野館、ロビー奥に展示された『少林寺〈4Kリマスター版〉』大型パネルと、初公開時の香港版ポスター。
新宿武蔵野館、ロビー奥に展示された『少林寺〈4Kリマスター版〉』大型パネルと、初公開時の香港版ポスター。


[感想]
 のちにジェット・リーとしてアジアのみならずハリウッドにも進出したリー・リンチェイの伝説的な主演デビュー作である。
 何度も書いている通り、私が映画道楽に嵌ったのはこの10年ほどで、しかも長いこと劇場に通うことを第一とし、レンタルビデオを頻繁に利用するようになった最近も、劇場で観逃した作品を追うのを優先していたため、過去の作品にはほとんど触れていない。ここ最近、ようやく過去の作品もぼちぼちと拾うようになり、そんな中で、新作はほぼ欠かさず劇場で鑑賞しているジェット・リーの旧作にも目を向けてみたくなり、順番に従って本篇をまず手に取ったわけだが――
 犬を丸焼きにして食うくだりが衝撃的すぎて、他が霞んでしまいました。
 中国に犬を調理する習慣があることは知っているし、本来肉食を禁じる僧が口にしてしまうのもまあいい。だが、ヒロインの愛犬を捕まえた際にうっかりと殺してしまい、いちど眺望のいい場所に埋葬してあげたのに、「もったいないな」と言い出して掘り出して丸焼きにし、それを最終的には坊主が寄って集って食う、という流れが、どこがどう、と説明しきれないくらいに衝撃的だった。お話の息抜き、ユーモア、そして寺の教えの寛容さを示そうとした場面なのだろうが、色々とシュールすぎる。
 ただ、そもそもストーリー自体が説明不足、動機不足、脈絡無視とあちこちで破綻しており、このシュールさは全篇に蔓延している。主人公が襲われた土地と少林寺との距離感はどうなっているのか、何故あの段階で少林寺の傍まで王将軍の部下はやって来たのか、そして終盤の混沌とした展開があの短時間で可能だったのか、等々、ツッコミどころは枚挙に暇がないほどだ。この犬を食う一連のシーンも、そういう感覚のズレから来ているのかも知れない。ここまで奇妙だと、割り切ってそういう部分を愉しんだ方がいい。
 そして、そういった物語としての弱さを無効にしてしまうほど、本篇のアクション・シーンは素晴らしい。ワイヤーもスタントもなく、己の肉体を駆使して披露する技のなんと美しいことか。敵味方に関わらず、互いの呼吸を読み取りながら拳を交え、膝をぶつける様は、まるで舞踊の如くだ。あまりの巧みさが最初から最後まで一貫しており、物語的には主人公の成長を明確に描かねばならないところが、最初からずっと強いように見えてしまう配慮の浅さも目につくものの、途中でそんなことはどうでも良くなってしまう。ここまで魅惑的なアクション・シーンはそうそうお目にかかれるものではない。
 締め括りでも、良くも悪くも柔軟すぎる対処をしているので、どうもカタルシスに欠くきらいが否めないが、本篇の場合、そのあたりはまったく付け合わせに過ぎない。ひたすらに、格闘家たちの美しい肉体芸術に酔いしれるための映画であり、その意味では今以て比肩するものの決して多くない傑作である。

 ……この上までが、2010年の初鑑賞当時に執筆した感想である。スタッフ一覧及び粗筋の固有名詞を4Kリマスター版のパンフレットを参照して訂正したが、基本的には当時のままにした。
 読み直してみて、「この記念碑的作品に対して“犬食ったのが衝撃”の比重が大きいのはあかんやろ」という想いに駆られたので、2022年に限定公開された4Kリマスター版を鑑賞したのを機に、少し書き足してみようと思う。
 ただし、基本的な印象はそこまで大きく違っていなかった、というのが正直なところだ。やっぱり、犬を食べたのがまず衝撃的だったし、物語の展開はだいぶ雑で恣意的、ツッコミどころも多い。僧侶たちの“掟”に対する姿勢が良くも悪くも柔軟に過ぎて、コメディにもシリアスにも都合よく利用されているあたりに、往年の中国・香港映画の大らかさを感じずにはいられない……パンフレットによれば、製作には3年を費やしたそうだが、短期決戦だったらもっと荒々しいことになっていたんだろうか?
 カメラワークも、ズームアウトから次のアクションシーンに移行する、という表現を多用し、リズムがある、と捉えることも出来るが、映像としての抑揚に乏しい。2000年代以降の香港・中国発アクション映画をまあまあな数鑑賞してきた目からすると、その表現がどれほど進歩したのか、を実感せざるを得ない。
 しかし、振り返ってみての難点を乗り越えてあまりあるのが、やはり圧倒的な身体能力を誇る俳優たちのアクションだ。スピード感や表現において格段の進歩を遂げたいまでも、本篇に登場する、“本物”の拳法を学んできた俳優たちの醸し出す説得力、迫力は凄まじい。たとえば序盤、体力を消耗したシャオフーのために、修行僧たちが精進料理では得られない精をつけさせようと蛙を狙っているところを師に見咎められ、蛙の動きの真似をして修行している、と誤魔化す場面があるが、ここで修行僧たちが伏せた格好から見せる跳躍の高さに驚かされる。こうした些細な描写で、彼らがただ者ではないことが解るのだ。
 意識的に本物の武術家を集め、その身体能力の高さをスポットを当てて映画を作る。恐らく、現代に似たような企画が採り上げられるとしたら、周囲にもっと本職の俳優を多く配し、ドラマとしても、より洗練した作りになるだろう。物語の枠に組み込み、ユーモアをちりばめながらも、武術家たちの優れた技をフィルムに焼き付けた本篇は、やはり稀有な作品と言えるだろう。


関連作品:
少林寺2』/『阿羅漢』/『新少林寺/SHAOLIN
エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『ブラック・マスク
少林寺三十六房 』/『燃えよドラゴン』/『ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門』/『少林寺木人拳』/『蛇鶴八拳』/『拳精』/『少林サッカー』/『少林少女』/『燃えよ!じじぃドラゴン 龍虎激闘

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