渋谷シネ・ラ・セットとはとことん相性が悪い。

 夕食を摂ったあと、電車にてまたしても渋谷へ。このあいだ訪れたときに観ておけば良かったじゃないか? いいえ、『1.0[ワン・ポイント・オー]』とまったく同じ時刻に開始するレイトショーだったので、ハシゴは不可能でした。それに、今日観るものはイベント目当てでもあったので、出来れば今日か明日、というのが前々からの狙いでした。

 劇場は今年初めての訪問となる渋谷シネ・ラ・セット。開映二十分ぐらい前の到着でしたが、まだ整理券には余裕があるようで一安心。早速窓口でチケットを購入しようとして、思わぬ事態に遭遇する。

 この劇場、日本映画テレビ技術協会の会員証による割引が適用されない。

 確かに、都内の大半の劇場で使えるとは言いながらも、すべてとは記していないので適用されない可能性は頭にありました――が、正直ここが駄目だというのは意外でした。ここは公式サイトのアドレスが示唆するとおりcinequanon系列の劇場。同じ系列であるアミューズCQNは無事に使えていましたし、そもそも事実上この劇場の前身であるはずの銀座シネ・ラ・セットは、なかなか更新されない日本映画テレビ技術協会の割引適用館の一覧に未だ名前を連ねている。
まさかここで使えないとはさすがに予想出来なかった。そう言えばこの劇場、よそで公開されていた作品がロングランのため移転してきても、何故か本来の劇場での前売り券が使えない、というケースが多い。……そもそも、経営姿勢に問題があるような気がしてきた。前にも一悶着あって、あんまり近寄りたくない劇場になってましたが、本格的に、何かのイベントでもない限り来たくなくなりました。

 しばらく観ようか悩みましたが、もともと観たい作品でしたし、イベント自体に興味があったので、結局通常料金を払って入場。プログラムがなかったので、結果として他の映画を観たときと出費的にはあんまり変わりなかったのが救いです。

 イベントは上映前でしたが、とりあえず作品について触れておくと、あの平山夢明氏の旗振りによって、氏自身を含む五人の監督がそれぞれの信じる《極上》のホラーを15分程度の尺で製作、その出来をガチンコで競うという趣旨のオムニバス「超」怖い話 THE MOVIE 闇の映画祭』(竹書房・配給)。色々と楽しみな要素はあったのですが……怖い話、というのは正直、平山氏の作品だけでした。看板に惹かれて観に行くとだいぶ失望すると思います。但し、短編映画オムニバスとして虚心に眺めると、低予算・B級を貫いた作りは結構楽しい。津田寛治のアート風の作り、遠藤憲一のイかれた味わい、矢部美穂のなんともチープな雰囲気、そして快楽亭ブラック師匠のいかにも落語家らしい捻りの利いた脚色と演出、いずれも割り切れば楽しめます。でもほとんど怖くなかった。いちばん“怪談”として印象的だったのがオープニングとエンディングだった、というのはちと問題だと思う。ともあれ、詳しい感想は後日、このへんに

 肝心のイベントというのは、本編の一本『『四谷怪談』でござる』の監督・主演である快楽亭ブラック師匠による怪談落語。いちどちゃんと落語での怪談、というものを聴いておきたかったので、これ幸いと楽しみにしていたのです。

 ご存知の方も多いでしょうが、この映画の他でもない快楽亭ブラック師匠の作品には最近、主演女優の林由美香が思わぬ形で急逝する、という不幸がありました。噺の前の枕となったのも、彼女との縁に関するエピソード。が、変に湿っぽくせず、ちゃんと笑いで締めていたのはさすが。つうても、実際に彼女と共演したというその演目自体がギャグなんだから弄りようがなかったのでしょうけれど。

 そして噺は滑らかに本題へ。舞台は八百年ほど前、その優れた芸によって寵を集めていた琵琶法師がいて……ときて、おお! と内心快哉を上げる。敢えて定番で来たか、と思って全身全霊で傾聴していたのですが――途中からもの凄い方向転換をされました。たぶん落語に詳しい方はご存知なのでしょうが、私はまったく身構えていなかったので結構驚いた。途中でオチへの流れは読めましたけどさ、そういう問題でもない。なるほど、この師匠はこういう芸風だったのね。

 さて上映終了後。この映画、上で“ガチンコで競う”と説明しましたが、表現に偽りはなく、観客の投票によって順位を決めるという企画が実施されている。劇場を出たところで渡されたコインを、窓口に並べた作品名の記された5つの箱のいずれかに投じる、という形式。内心、窓口にいる誰かを「投票基準は何か、怖いのがいいのか面白ければいいのか映画としての出来が問題なのかどーなんだっ?!」と問い詰めてあげたい気分でしたが、結局何も言わずに『『四谷怪談』でござる』に票を投じました。これが理由で亡くなった、と林由美香嬢が思われているのがちょっと不憫なので、というのと単純にいちばん“面白かった”からというのと、何より窓口の目の前にまだブラック師匠がいたもので、おひねり気分といおうか何と言おうか、兎に角ここに入れといたほーが無難かな、と思ってしまったので。

 余談ですが、これが今年劇場で観た70本目の映画となりました。……また妙なのを選んでもうた。

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