『インターステラー』

丸の内ピカデリー、スクリーン2入口前に掲示されたポスター。

原題:“Interstellar” / 監督:クリストファー・ノーラン / 脚本:ジョナサン・ノーランクリストファー・ノーラン / 製作:エマ・トーマスクリストファー・ノーラン、リンダ・オプスト / 製作総指揮:ジョーダン・ゴールドバーグ、ジェイク・マイヤーズ、キップ・ソーン、トーマス・タル / 撮影監督:ホイテ・ヴァン・ホイテマ / プロダクション・デザイナー:ネイサン・クロウリー / 編集:リー・スミス / 衣装:メアリー・ゾフレス / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:マシュー・マコノヒーアン・ハサウェイジェシカ・チャスティン、エレン・バースティンマイケル・ケインマッケンジー・フォイティモシー・シャラメジョン・リスゴーデヴィッド・オイェロウォケイシー・アフレックマット・デイモン / 声の出演:ビル・アーウィン / シンコピー/リンダ・オプスト製作 / 配給:Warner Bros.

2014年アメリカ作品 / 上映時間:2時間49分 / 日本語字幕:アンゼたかし

2014年11月22日日本公開

2015年12月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|ワーナー・スペシャル・パック:amazon]

公式サイト : http://www.interstellar-movie.jp/

丸の内ピカデリーにて初見(2015/02/03)



[粗筋]

 地球は未曾有の食糧危機にさらされていた。多くの穀物が死に絶え、新たな科学技術よりも、この破滅的な環境でも食糧を供給できる農家のほうが重宝される時代になっている。

 NASAの飛行士であり優れたエンジニアでもあったクーパー(マシュー・マコノヒー)も、家族のために農家を営む道を選んだ。それでも子供たちには思う道に進んで欲しい、と考えているが、社会の経済的衰退によって大学も大幅に数を減らし、実用性ばかりを追い求めるようになったいま、決して思うようにならない現実に歯痒さを覚えていた。

 その頃、クーパーの身辺で、奇妙な出来事が相次いでいた。自動操縦のトラクターが勝手に庭に集まり、娘のマーフィ(マッケンジー・フォイ)の本棚から規則的に本が落ちてくる。死んだ妻の亡霊の仕業か、とも考えたが、猛烈な砂嵐が襲った日、その原因が重力異常であることに気づく。更に奇妙なことに、マーフィの寝室で起きた重力異常は、床に座標を示していた。

 訝りながらもその座標のポイントに赴いたクーパー親子が発見したのは――NASAだった。

 政府は秘密裏に、人類存続のための切り札としての宇宙開発を継続させていた。NASAが用意したプランはふたつ――ひとつは、重力の謎を解き明かし、地球の衛星軌道上に地球と同等の生活環境を整備した宇宙ステーションを開発して移住する。もうひとつは、移住可能な惑星を新たに探し出し、移民するか、或いは冷凍保存した受精卵を用いて、種の存続に 賭ける。

 NASAでは既に複数の調査隊を送り出し、3つの座標から通信を受け取っている。今度はそれらの星を訪ね、実際に移住が可能なのか精査する必要があった。NASAで計画の指揮を執るブランド教授(マイケル・ケイン)は、優れた飛行士であったクーパーに、教授の娘であるアメリア・ブランド博士(アン・ハサウェイ)と共にこの調査に携わって欲しい、と請うた。

 マーフィの反対を振り切り、クーパーはこの任務を引き受けた。土星まで14ヶ月、そこで重力を利用して方向を変え、ワームホールを抜けて別の銀河系を目指す。帰還が何年後、何十年後になるかも解らない、人類未到の地への冒険に、クーパーは赴いた――

[感想]

 正直なところ、クリストファー・ノーラン監督がこういう境地に向かうとは予想していなかった。ブレイクするきっかけとなった『メメント』と、相前後する作品はほとんどミステリ仕立てで、このまま技術を洗練させていくのか、と思いきや、『バットマン・ビギンズ』でアメコミの実写化に手をつけた。シリーズ第2作『ダークナイト』で一種の頂点を極めると、突如として企みに満ちたオリジナルのSFサスペンス『インセプション』を繰り出して来る。そして、満を持して発表した新たなオリジナル作品である本篇は、よりストイックに突き詰めたSF大作である。正直、『インセプション』という前提がなければかなり驚きが強かったのではなかろうか。

 従来の作品から、ノーラン監督がテーマを徹底的に突き詰め、丹念な考証を重ねたうえでストイックに昇華する作り手であることは解っていた。しかし、本篇におけるストイックさはこれまでの作品以上、という気がする。

 食糧危機に陥る人類、というシビアな未来世界をベースにした物語は終始シリアスだが、宇宙に飛び立つ理由も、そこで起きる現象、事件も実際の学説に基づいて練り込まれていて、このシリアスさを研ぎ澄ませている。安易なSFだと、単純な出力の問題で片付けられてしまう動力を、本篇では無重力の世界だからこその計算によって考慮し、それがまた別のドラマを生み出したりもしている。

 全般にリアル志向だが、SFならではのロマンはしっかりと留めている。先行する調査隊の痕跡や、人類が生存可能な惑星で起きる想像を超える事態、そうしたものが知的興奮と冒険心を呼び起こす。そして行く先々で、同じ地球上では決して起こりえない類のトラブルに見舞われ、壮絶なドラマを生み出す。訪れる複数の星、それぞれの出来事がみな衝撃的で、重厚な物語を紡いでいる。『スター・ウォーズ』とは趣が違うが、本篇は確かに、優れたSFの風格を備えているのだ。

 この作品のSFらしいガジェットの中で最も魅力的なのが、“TARS”や“CASE”などと名付けられたサポートロボットであることは、観た方の多くが同意してくれるのではなかろうか。まるで生真面目で理性的な海兵隊員、とでも言うような言動に、しかし不思議な愛嬌がある。活動する上で不便に思える、板切れを横に並べて繋いだような構造も、気づくとちょっと可愛く感じられるようになるから可笑しい。

 この“TARS”の外観自体がオマージュを捧げている――という解釈は少々牽強付会かも知れないが、本篇は『2001年宇宙の旅』を強く意識していると言われる。“TARS”のガジェット以上にそれを感じさせるのは、クライマックスだろう。

 しかしこのくだりも、SFについてまったく関心がないひとなら理解に苦しむかも知れないが、あちらより遥かに実感しやすい内容だ。実在する理論に基づきながらも、空想的であり、ロマンを感じさせる。巧みなのは、そこまでに積み上げたドラマによって、理論を超越して興奮を共有し、感動を味わうことが出来る構成になっていることだ。クーパーが果てしない旅を続けるあいだに、地球でも繰り広げられるドラマが折り重なり、体験したことのないようなカタルシスを呼び起こす。

 可能な限り実写を用いて再現された宇宙空間、未知の惑星のヴィジュアルも素晴らしいものがある。しかし、練りに練られたプロットで紡ぎ出される、正統派にして重厚なSFの醍醐味と、そこから生み出される興奮と感動こそが本篇の最高の魅力であり、傑出した点だ。ハードSFの息吹を称えながらも、可能な限り一般的な観客でも理解しやすいレベルにまで持ってきた、優れたSFアドヴェンチャーなのである。

 もはやいくらでも自由に作品が撮れる段階にまで踏み込んだ才能が、こういうジャンル映画の傑作を、高い水準で生み出してくれたことが実に嬉しい。映画史にインパクトを与えた、という意味では、この監督でも『ダークナイト』を超えることは難しいと思われるが、個人的にはあの大傑作に匹敵する愛着を今後も抱き続ける作品だろう、と感じている。

関連作品:

インセプション』/『メメント』/『インソムニア』/『プレステージ』/『バットマン・ビギンズ』/『ダークナイト』/『ダークナイト ライジング

ダラス・バイヤーズクラブ』/『レ・ミゼラブル』/『クリムゾン・ピーク』/『ブッシュ』/『グランド・イリュージョン』/『死霊館』/『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』/『アウトロー』/『容疑者、ホアキン・フェニックス』/『エリジウム

2001年宇宙の旅』/『ライトスタッフ』/『WALL・E/ウォーリー』/『プロメテウス』/『ツリー・オブ・ライフ』/『ゼロ・グラビティ』/『トランセンデンス

コメント

  1. […]  先週土曜日、当初はハシゴする予定でしたが、スケジュールの確認ミスで2本目の開始が1本目の終了前になっており、既に1本目を押さえていたため断念せざるを得なかった。 […]

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