海楼館殺人事件

 携帯電話対応ゲーム攻略二本目。先日遊んだ『仮面幻想殺人事件』に続く癸生川探偵事務所シリーズ第二作です……雑すぎとかなんとか言いながら遊んでしまったのは、題名からして“館もの”だったから。新本格第一期でミステリに開眼した人間は館に弱いんだよちきしょー。

 で、肝心の出来はというと……駄目でした。どの辺が駄目なのか、以下ネタバレをなるべく避けながら詳しく説明しようと思いますが、この作品、いまは携帯電話だけでなく初期三作をパッキングしてNintendo DSで発売しているそうなので*1、万一を考えて<続きを読む>のあとに記します。

 実は、途中までは非常に面白かった。海のど真ん中に謎多き富豪の建てた館、そこで催される予定だった何らかのイベントに、成り行きから参加することになった癸生川探偵事務所の助手・白鷺洲伊綱生王正生――名前が難しすぎるのは前作から感じていたことだが、今回は全篇に亘って難読苗字には括弧に括ったフリガナが記してあったのでまだましでした――が、そこでお約束のごとく殺人事件に遭遇してしまう、という話。果たしてイベントの目的は何だったのか、館に隠された秘密とは何なのか、そして謎に包まれた富豪多摩ヶ原斎樹の正体は?

 繰り返しますが、途中までは面白かったのです。異様な作りの館のなかでばたばたと人が殺されていき、終盤で伊綱が繰り広げる推理も、幾許か無理はありますが、その無茶っぷりが却ってミステリ魂を感じさせました――が、そのあとがいけない。作中ずっと事務所で眠りっぱなしだった真の探偵役・癸生川凌介が現場に乗り込み、伊綱が解き明かせなかった真相を指摘する、というくだりになるのですが、この推理が酷い。

 まず、伏線がほとんど張られていない。いちおう手懸かりはありますがそれも僅かで、伊綱による推理を覆すほど決定的なものとは感じられず、直前に犯人自らが犯した愚がなければまったく説得力を伴わない。しかしもっと酷いのは、この真相が伊綱の指摘したものと比べてあまりに陳腐すぎ、それまでの外連味たっぷりの展開から完全に艶を奪ってしまっていることです。

 確かに伊綱の推理にはまだ解明されていない部分が多すぎましたし、いささかロマンティックに過ぎて浮ついていたことも事実。それをひっくり返してリアルな解決に持ち込む、というのは小説媒体ではたまに見かけるやり口ですし、効果を発揮することも良くありますが、本編ではまるっきり失敗している。理由は前述の通り、伊綱の推理を覆すほど隙のない論拠がなく直観的すぎるから、というのも大きいのですが、そもそも展開のいっさいが作者の手に委ねられている小説ならまだしも、ゲームで同様の手法を施すなら、より徹底して論理の穴を衝き、先に提示された真相よりも遥かに強烈なカタルシスを齎さなければいけない――何せ、ゲームの場合、主導権はあくまでプレイヤーにある、と思わさなければいけないのですから。

 実のところ、伊綱の推理にも癸生川の推理にも弱点があまりに多すぎる。伊綱の推理ではある逆転の発想が用いられていますが、その逆転を支えるための装置の存在が指摘されていないことが妙。裏口はあっても侵入出来なければ意味はないだろうに。まして、そのための手懸かりとして終盤に指摘された事実は、しかし冷静に検証すると伊綱の推理どおりならあり得ない痕跡なのだ。一方の癸生川の推理にしても、犯人がある隠蔽工作を行おうとしたところを取り押さえられたためなし崩しに立証されたかたちになったが、しかし犯人にあんな隠蔽工作を行う必要はあったのか? そもそも、癸生川の指摘したとおりの事件像ならば、犯人は関係者全員を始末しなければいけなかったはずなのだ――何せ、ひとりでも生き残っていれば、陸に帰り着いた直後に矛盾が発覚して、瞬く間に犯人その人が窮地に立たされる。計画に穴がありすぎる、というより、やっている途中で気づかなければ嘘、というくらい酷い矛盾が多い。だいたい、最初の殺人でのその展開が本当ならば、関わった人間のひとりが途中で本当のことを話すことも出来たはずなのに、何故言わなかったのか。その人に、そのことを伏せるメリットはなかったのに何故ずっと伏せ続けていたのか? もしかしたら癸生川探偵はこれらの疑問に対する応えも用意していたのかも知れないが、説明しなかった時点でそもそもおかしい。

 この作品をもっとまともなものにしたかったなら、癸生川の指摘した真相ではなく、伊綱の推理に添う形で補強して、そのうえでもうひとつツイストを施すべきであった。本編のロジックではゲームとしても小説としてもお話になりません。折角のいい舞台設定とアイディアが台無しです。ゲームの最後で、伊綱が生王に投げかけた質問に対する答をもとに癸生川がその推理力を評価する場面がありますが、正直こんなアホに評価されても、という気分にさせられます。

 ちなみにこのシリーズ、あと五本くらい続編が存在しますが……いちばん遊びの盛り込めそうな本編でこの始末じゃ先が思いやられます。どうしたものか。

*1:これは勘違いでした。DSで発売されたのは第一作を改訂した『仮面幻影殺人事件』のみでした……中身、薄くないか?

コメント

  1. 遊美 より:

    違いますよぉ。
    アプリ版1作目は、『仮面幻想殺人事件』でDS版は『仮面幻影殺人事件』。1字違いなだけですけど、まったくの別物です。
    アプリ版はやったことがないので知りませんけど、DS版はけっこう楽しめましたよ。
    ただ、まぁ、求めてるものが違うって場合があるので深川さんが楽しめるかどうかは保障の限りではないんですけど。

  2. tuckf より:

    あ、ほんとだ。なんて紛らわしい。公式サイトのコラムを辿ってようやくその辺の説明を見つけました。
    しかし、この携帯アプリ版二本を遊んでみた印象では、どーしてもDS版には期待が持てません……ていうかそもそもDSを購入する予定がない。いまPSPをどうしようか悩んでいる段階だというのに。

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