鮎川哲也コレクション<挑戦篇>III 二つの標的

鮎川哲也コレクション<挑戦篇>III 二つの標的 鮎川哲也コレクション<挑戦篇>III 二つの標的』

鮎川哲也

判型:四六判ハード

版元:出版芸術社

発行:平成18年10月20日

isbn:4882933012

本体価格:1700円

商品ページ:[bk1amazon]

山荘の死』、『白馬館九号室』と続いて刊行された、本格推理界の驍将・鮎川哲也が残した“犯人当て”スタイルの作品群を纏めた<挑戦篇>、完結巻。1971年以降に発表された小説作品に、伝説的なテレビ番組『私だけが知っている』に寄稿した脚本を3本、更に大谷羊太郎が問題篇を、著者が解答篇を執筆した合作『密室の妖光』の全11篇を収録する。

 晩年は執筆量が大幅に減った著者であるが、それでもかなり後年まで犯人当てと呼べる著作があるあたりはさすがである。『葬送行進曲』『詩人の死』『死者を起す』とやはり倒叙ものも含まれているのは残念だが、事実上最後の作品となっている表題作ではきちんと犯人当てに戻っており、しかもこの短いなかで連続殺人を描き、その展開にも捻りを加えている。最期の最期まで創意工夫を欠かさなかったその熱意には頭の下がる思いがする。

 珍しいのは、テレビ番組の脚本として執筆された3作である。土屋隆夫、夏樹静子、佐野洋などといった面々も作家陣に名前を連ねていたこの番組の脚本は、かつて光文社文庫にてアンソロジー形式で書籍化されたことがあるが、この3作はそれに収録されていたものであり、著者名義の書籍に収められたのはこれが初めてのことだ。台本形式であること、やや視覚的なヒントが盛り込まれている点を除けば、他の犯人当て作品と変わらぬ創意工夫が楽しめる。ただ、編者による解説でも触れられているように、他にも多数存在する著者執筆の台本と纏めて出版してくれればファンとしてはそれが最善に思える――さすがにマニアックに過ぎるだろうけれど。

『密室の妖光』はボーナス・トラック的な位置づけでの収録のようだが、小説としてはこれがいちばん面白い。大谷羊太郎氏による謎の提示がなされる問題篇を受けて、著者が新たな事件を交えて真相を解き明かしていくこの作品は、犯人当てとは異なるがそれ故に本格推理本来のダイナミズムが満喫できる。発表当時は著者の名前が伏せられ、執筆者を当てるという趣旨の企画が催されたというが――正直、鮎川作品の愛読者には一目瞭然ではなかったかと思う。癖の強い作家であり、ことこの解答篇には得手とするアリバイ・トリックが簡単ながらきっちりと盛り込まれている。問題篇と並べた場合のバランスがいささか悪く、きちんとヒントを拾っているのは見事ながら、単体の作品としてはいまいちと言わざるを得ないが、珍しい趣向に本腰で挑む姿が窺えて好もしい。

 シリーズ通して、やはり純粋に本格推理を楽しみたいならば鬼貫ものや星影ものといった正統派の作品群を読んだ方が早いと思うが、能動的に“謎解き”というものを味わいたいのであれば充分に欲求を満たしてくれる好著である。こういう仕事を続けられる限り続けてきた巨匠の姿勢が伝わる点でも、いいシリーズだった。願わくば、前述の『私だけが知っている』における著者担当分の脚本を集めた書籍も刊行してくれると嬉しいのだが……やっぱり難しいだろうなあ。

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