『最高の人生の見つけ方』

原題:“The Bucket List” / 監督:ロブ・ライナー / 脚本:ジャスティン・ザッカム / 製作:クレイグ・ゼイダン、ニール・メロン、アラン・グライスマン、ロブ・ライナー / 製作総指揮:トラヴィス・ノックス、ジャスティン・ザッカム / 撮影監督:ジョン・シュワルツマン,A.S.C. / 美術:ビル・ブルゼスキー / 編集:ロバート・レイトン / 音楽:マーク・シェイマン / 出演:ジャック・ニコルソンモーガン・フリーマン、ショーン・ヘイズ、ロブ・モロー、ビヴァリー・トッド / 配給:Warner Bros.

2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:桜井裕子

2008年05月10日日本公開

公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/bucketlist/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/05/22)



[粗筋]

 学生時代、恋人が子供を身籠もったために急遽自動車修理工の職を得、三人の子供を無事育て上げてきたカーター・チェンバーズ(モーガン・フリーマン)にある日、思いもかけない悲劇が襲いかかった。健康診断の結果が悪く、詳細な検査が必要になった、というのである。以来、何ヶ月にも亘る検査入院と退院を繰り返す羽目となった……

 そんな彼が入院した病院を買収、合理化のために全室2床という方針を打ち出して改革に乗り出した事業家エドワード・コール(ジャック・ニコルソン)にも、予期もしない事態が起こった。会議の席上で吐血、入院を余儀なくされたのである。奇しくも、自らが提示した改革案のためにエドワードとカーターは同室となり、これまでの生活ですれ違うことのなかったふたりが初めて巡り逢うこととなった。

 同病相憐れむの境地なのか、当初は反目し合っていたふたりは次第に打ち解けていく。そしてエドワードの検査結果が出たその日に、同時に余命を宣告される羽目となった――

 絶望に打ちひしがれるなかエドワードは、カーターが何気なく作成した“棺桶リスト”と題したメモに目を留める。若かりし日、哲学科の授業において、人生のなかで果たしたいことを挙げたリストを作成する、という課題を示されたことがあり、死を間近に控えてそのことを思い出したカーターは、本気でやりたいことを並べてみたのである。

 それを目にしたエドワードは、なら今からやればいい、と言い出した。このままベッドに横たわり、化学療法を受けながら死の訪れをただ待ち続けるのか、それとも最期の最期に自由を謳歌するのか?

 病室を訪れた妻のヴァージニア(ビヴァリー・トッド)に自らの余命を告げると、新しい治療を受けることを薦める彼女に対し、カーターは旅に出ると応えた。自分とエドワードがやり残したことを、ひとつずつ果たしていく旅へ……

[感想]

 死の間際に、何かを果たしていく、という主題の映画は少なからず作られているが、たいていは湿っぽかったり感動作と謳われたり、でなければ文芸色が濃く一般の観客には少々受け入れにくい仕上がりになりがちだ。

 そんななかで本篇は珍しく、終始陽性な空気が作品を包んでいる。闘病の場面をきっちり描き、余命宣告などもストレートに採り上げているが、受け止めるふたりが悲哀を漂わせながらもウイットを損なっていないので、深刻ながらも閉塞的なムードに陥ることがない。このあたり、名優ふたりならではの抜群の匙加減がものを言っている。

 しかしその屈託のなさを支えているのは、彼ら以上に富豪エドワードの秘書トーマスであることを指摘しておきたい。カーターと対照的にまったく見舞客の訪れないエドワードのもとに足繁く通い、実務的な部分でも私的な部分でも無理な注文に厭な顔ひとつせず応える彼だが、しかし一方で遠慮無く率直な言葉を返している。皮肉には皮肉で応え、本当に必要な場面であれば反論もする。エドワードとの厚い信頼関係がきちんと存在する彼は、物語の最後でも重要な役割を果たしており、そんな彼がいるからこそ、本篇は過剰なまでに悲愴感を主張することなく、清々しい余韻を残しているのだ。

 単純に、死に際して前向きな心情を保つ、ということを訴えるにしては、本篇の主人公ふたりの行動はあまりに現実離れしすぎている。ほんとにぜんぶ実地で撮ったんだろうか、と首を傾げるくらいに行動半径は広いし、やっていることに金がかかりすぎている。また、幾つか法やモラルを犯している点もちょっと看過しづらい――最後の最後で軽くその点に触れているあたりのユーモアは巧いが、この通りを実践しろ、という提言と捉えるには無理がありすぎる。

 だが本篇は、そういう点まで踏まえて、死の寸前でも人は充実した日々を過ごし、誤りを正すことも不可能ではない、ということを描き出した、いわばファンタジーなのである。非現実的な無茶を犯しているのはむしろ、本篇が悲愴感よりもそういう快さ、達成感を重視していたことの現れであろう。

 個人的には、作中に軽く仕掛けられたサプライズの描写がいささかアンフェアであるのが気に懸かったのだが、そんなことを問題視するのは謎解きを重んじる観客ぐらいのものだろうし、そもそも追求するほどの問題点ではない。暴力的な表現や、意外性、衝撃、迫力などにこだわりすぎた昨今の作品に倦み、疲れていた人にお薦めしたい、本当に快い一本である。

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