『MOTHER マザー』

MOTHER マザー [DVD]

原題:“Saint Ange” / 英題:“House of Voices” / 監督・脚本:パスカル・ロジェ / 製作:リシャール・グランピエール、クリストフ・ガンズ、ヴラド・ポーネスク / 撮影監督:パブロ・ロッソ / プロダクション・デザイナー:ベルトラント・セイツ / 編集:セバスティアン・プランジェール / 視覚効果スーパーヴァイザー:ダニエル・パルヴレスキュー / 特殊メイク:ブノワ・レスタン、エマニュエル・ピトワ / 音楽:ジョセフ・ロドゥカ / 出演:ヴィルジニー・ルドワイヤン、ルー・ドワイヨン、カトリオナ・マッコール、ドリナ・ラザール、ヴィルジニー・ダルモン、ジェローム・ソウフレット、マリー・ヘリー、エリック・プラット / エスクワッド−Hファクトリー製作 / 映像ソフト発売元:ALBATROS FILM

2004年フランス作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?

2009年12月8日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2010/01/01)



[粗筋]

 1958年、フレンチアルプスに佇む一軒の孤児院に、新しい家政婦アンナ(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が派遣された。ここ、サンタンジェ孤児院は、閉鎖と改装が決まっており、預かっていた子供たちはすべて新しい引取先へと送られる。あとに残るのはアンナと、調理係を兼任するイリンカ(ドリナ・ラザール)、そして頑なに退去を拒む少女ジュディス(ルー・ドワイヨン)の3人だけ。ときおり責任者のフランカルド(カトリオナ・マッコール)が様子を見に訪れるだけの、孤独な暮らしが始まった。

 生活が始まると間もなく、アンナは人のいないはずの孤児院の中に、奇妙な気配を感じるようになる。既に幼い子供はひとり残らず転居したはずなのに、どこからともなく足音や、はしゃぐ声が聞こえてくる。そして夜、眠ると異様な夢に心を苛まれた。

 入れ違いに出て行った子供たちのひとりが囁いていった言葉、そしてジュディスが頻繁に見せる奇妙な態度から、アンナは孤児院のどこかに“怖い子供”たちが潜んでいる、と感じるようになる。やがて彼女は、孤児院の物陰に隠されたものから、戦争にまつわる忌まわしい記憶を探り出すのだった……

[感想]

 本篇は2009年、フランス映画祭にて初めて日本で紹介され、同年夏に劇場公開、一部のマニアを熱狂させたホラー映画の秀作『マーターズ』の監督パスカル・ロジェが2004年に手懸けた、長篇初監督作品である。同作に惚れ込んだ私としては、監督の携わった作品を追いかけてみたいと思い、同様に過去の作品にも触れてみたいと考え、『マーターズ』のDVDリリースに先駆けて初めて日本に輸入された本篇もさっそく押さえてみた次第である。

 だが、はっきり言って、悪い意味で驚かされた、と言わざるを得ない内容であった。『マーターズ』に感じられた神々しいほどの魅力が、本篇には感じられない。

 まず、観ていて判断しかねる部分があまりに多いのだ。何故、孤児院は閉鎖されたのか? 何故、新しい家政婦含む3人が残され、清掃作業を続けているのか? 主人公である家政婦アンナは何故子供を身籠もっていることを隠して働くのか? そして彼女はいったい、何を奇異に思っているのか?

 粗筋では明白な怪異があるように記したが、実際にはさほど明確には描かれていない。アンナの物言いや僅かな描写からそうだろうと察しはつくものの、観客にはっきりと伝わる形ではあまり描いていない。そのせいで、何が“怖い”のか観客には判然としない。観客自身が恐怖を味わう部分はおろか、それを想像させる要素も乏しいので、印象が曖昧なまま話は進んでいく。

 それでも、終盤で様々なことが明らかになっていく、観客を瞠目させるような趣向が用意されているなら好感を抱くこともあっただろうが、明らかになるどころか余計に茫漠とした印象を強め、結局最後までよく解らないままに終わってしまう。

 よくよく考えてみれば解釈のしようはあるのだが、ではその主題をきっちり描けているか、観る側に何らかの感動、恐怖なり共感なりを与えられているかというと、完全に失敗している。その主題に向けての描写をきちんと積み重ねてもいないし、最後で膨らませる工夫も乏しいので、「だから何?」という感想しか持てないのだ。同じようなテーマやモチーフを導入しているホラー映画を下に掲げているが、いずれも本篇より格段に仕上がりはいい。

 題材そのものの選択はいいし、朽ちかけた孤児院などのモチーフの描き方も優秀だ。何より主演のヴィルジニー・ルドワイヤンが実にいい雰囲気を醸している。美人だが可愛らしさのある顔立ちで、かつ過去に多くの苦しみを味わってきたことを感じさせる佇まいが、物語の頽廃的な美しさを演出している。

 しかし、そうしたヴィジュアルやムード優先に走ったことが、ホラー映画を志した作りを破綻させてしまっている。本国フランスで不評に終わり、日本においても『マーターズ』が話題になるまで輸入されなかったのは当然の結果だろう。

 恐らくは本篇の失敗が『マーターズ』という異形の傑作に結実する教訓となったのは間違いないと思われるので、その軌跡を辿るために観てみる価値はあるだろうが、そういうことに興味のないごく普通の映画好きはあえて手を出す必要はない。

関連作品:

マーターズ

機械じかけの小児病棟

永遠のこどもたち

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