『パリより愛をこめて』

『パリより愛をこめて』

原題:“From Paris with Love” / 監督:ピエール・モレル / 脚本:アディ・ハサック / 原案:リュック・ベッソン / 製作:インディア・オズボーン / 製作総指揮:ヴィルジニー・ベッソン=シラ / 撮影監督:ミシェル・アブラモヴィッチ / 美術:ジャック・ビュフノワール / 編集:フレデリック・ソラヴァル / 衣装:オリヴィエ・ベリオ、コリーヌ・ブルアンド / 音楽:デヴィッド・バックリー / 出演:ジョン・トラヴォルタジョナサン・リース・マイヤーズ、カシア・スムトゥニアク、リチャード・ダーデン / 配給:Warner Bros.

2010年フランス作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:菊地浩司 / R-15+

2010年5月15日日本公開

公式サイト : http://www.pari-ai.jp/

TOHOシネマズ錦糸町にて初見(2010/05/22)



[粗筋]

 フランスのアメリカ大使館で、ベニントン大使(リチャード・ダーデン)の有能な補佐官として勤務するジェームズ・リース(ジョナサン・リース・マイヤーズ)には、CIAの見習い捜査官というもうひとつの顔がある――あくまで見習い、だ。下される任務は、他の捜査官が使用する車のナンバープレートを付け替えたり、盗聴器の設置という地味で危険性のないものばかり。いずれ特殊任務に就き、世界平和に貢献することが、リースの夢だった。

 現地で出逢い、交際していたキャロリン(カシア・スムトゥニアク)と婚約を決意したその晩、そんなリースに転機が訪れた。当夜、フランス入りした捜査官の運転手を務めるように命じられ、これが決着すれば特殊任務に就くことを認める、というのである。

 だが、命令に従い、空港まで迎えに行った相棒の姿を見たとき、リースは確実に失望を覚えた。そこにいたのは、まるで往年のバイカーを彷彿とさせるギャング然とした風体の男で、しかも大量の缶入りドリンクを持ち込もうとして税関に拘留されていたのである。

 どうにか空港から連れ出したはいいが、この“相棒”チャーリー・ワックス(ジョン・トラヴォルタ)の振る舞いはあまりに傍若無人だった。リースに言ってとある中華料理店に連れて行かせると、ボーイに難癖をつけ、いきなり銃撃戦に発展させてしまう。そこは薬物の備蓄に利用されていた店であり、ワックスは店員を泳がせて麻薬組織のアジトを突き止めるとまたたく間に壊滅に追い込んだ。その手口はある意味鮮やかであったが、リースの理想とする捜査官の姿とは遠くかけ離れていた。

 だが、リースはまだ知らない。彼にとっての試練は、ここから過激さを増していくことを……

[感想]

 ここ数年のアクション映画を多く鑑賞している人なら、“原案はリュック・ベッソン”と言っただけで、幾つか思いつく要素があるはずだ。舞台がフランスであること、やたらアクの強いキャラクターがいること、とりあえずカーチェイスがあること、新人に近い女優がひとりはいること、などなど。

 他にも思いつくものはあるが、とりあえず本篇では、この辺の“基本”をきっちり押さえている。従って、これまでのリュック・ベッソン印の映画が肌に合わなかった、もう飽き飽きしている、という人は、何はともあれ避けるべき作品かも知れない。

 だが、ちょっと待って欲しい。本篇はリュック・ベッソンの原案、彼の運営する製作配給会社ヨーロッパ・コープから発表されているが、監督は『96時間』のヒットが記憶に新しいピエール・モレルが担当し、脚本にも製作にもリュック・ベッソンの名前はないのだ。

 実際に観ていただければ解るが、随所にリュック・ベッソンらしい要素をちりばめながら、彼の作品にしばしば認められるアクはあまり感じない。テンポや匙加減が洗練され、非常に観やすくなっている。無駄に饒舌になったり、喋りすぎてユーモアというより滑稽さが際立ってしまうこともあった台詞回しも、あまり違和感なくユーモアのレベルに留まっている。

 この点については、ジョン・トラヴォルタという俳優の才能も貢献している。初めて登場した段階で場の空気を飲み込み、終始物語を牽引し続けてしまう。インパクトのあるいでたちにハッタリの利いた物言い、善人とも悪人とも判断のつかない言動で、見習い捜査官を振り回す。このあまりに魅力的なキャラクターが台詞回しを主導したお陰で、リュック・ベッソン作品にあるアクがうまく中和されているのだ。

96時間』のヒットで一躍、ヨーロッパ・コープ流アクション映画の後継者候補となった感のあるピエール・モレル監督は、もとがカメラマン出身であり(本篇でもカメラクルーとしてクレジットされている)映像的にはデビュー作『アルティメット』の時点でかなり完成されていたが、演出面やストーリー展開のテンポという点ではまだぎこちなさを感じさせていた。『96時間』でもまだ幾分感じさせたこの弱みは、しかし3作目となる本篇で見事に払拭されている。あまりに個性的すぎる捜査官と優等生的な見習いとの交流に、随所でロマンスの色を絡め、シンプルながら着実に観る者を牽引するドラマを築き、終盤になると意外なヒネりで異なった味わいを添える。クライマックスでは二箇所で繰り広げられる、種類の異なる時間制限付きレースを描いて、最後の最後まで盛り上がりは止まらない。整頓の行き届いた脚本とあいまって、実に洗練された仕上がりだ。

 アクション映画らしい見せ場も随所に用意されている。個人的には、螺旋階段にて、ジョン・トラヴォルタ演じるチャーリー・ワックスに命じられた、ジョナサン・リース・マイヤーズ扮する見習い捜査官が、ワックスから一階分遅れて上がっていると、ワックスが倒した敵があとからあとから降ってくる場面や、アジトにて取り逃がした数人を、軽妙な会話のついでに敵の作った爆弾で一掃するくだりがお気に入りだった。いずれもチャーリー・ワックスというキャラクターの魅力と直結しており、この無駄のない圧縮ぶりが、本篇のエンタテインメントとしての強度を確かなものにしている。

 そのとことん娯楽に徹した作り故に、少々苦い締めくくりが惜しい、と感じられる向きもあるだろうが、むしろあれがあることで全体が引き締まり、刹那的な娯楽作品でありながら妙に忘れ難い印象を残している。ハリウッドの放つ全年齢対象の作品群とは異なる、大人のアクション映画のある意味お手本のような秀作と言えよう。

関連作品:

アルティメット

96時間

グッド・シェパード

バーン・アフター・リーディング

グリーン・ゾーン

サブウェイ123 激突

テッセラクト

コメント

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