『天使の眼、野獣の街』

天使の眼、野獣の街 [DVD]

原題:“跟蹤 Eye in the Sky” / 監督:ヤウ・ナイホイ / 脚本:ヤウ・ナイホイ、オー・キンイー / 製作:ジョニー・トー、ツイ・シウミン / 撮影監督:トニー・チャン / 編集:デイヴィッド・リチャードソン / 衣装:ウィリアム・ファン、マーベル・クワン / 音楽:ガイ・ゼラファ、デイヴ・クロッツ / 出演:レオン・カーフェイ、サイモン・ヤム、ケイト・ツイ、マギー・シュー、ラム・シュー、ン・ティンイップ、ウェイン・ライ、サミュエル・パン / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:TORNADO FILM / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

2007年香港作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:?

2009年1月31日日本公開

2009年6月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVDにて初見(2010/11/06)



[粗筋]

 香港警察のホー巡査(ケイト・ツイ)は、幼い容姿と優れた観察を見込まれ、監視班に配属された。直接の上司となる通称“犬頭”(サイモン・ヤム)にいきなり“子豚”という通称をつけられるという不運に見舞われるが、凹む暇もなく監視班での最初の任務に就かされる。

 最近、香港では極めて鮮やかな手口の強盗事件が相次いでいる。ある宝石店襲撃事件の現場周辺の監視カメラの映像を精査した結果、“ファットマン”と名付けた男が容疑者として挙がった。彼の所持するカードが頻繁に使用される駅の周辺で張り込み、強盗団との関わりやアジトの位置を特定するのが、今回の監視班の仕事であった。

 張り込みのさなか、路地裏で襲われている人の姿を見かけても動かぬよう命じられることに不服を覚えるホー巡査だったが、幸運も味方し、“ファットマン”の拠点を確かめることに成功する。間もなく、彼らが新たな計画を練っていることを探り出し、現行犯で逮捕するべく監視班と攻撃班が待ち伏せを敢行した。

 だが、強盗グループのリーダーである“影の男”――シャン(レオン・カーフェイ)は、極めて鋭い洞察力で、計画が察知されたことに勘づくと、即座に中止して仲間たちを散らす。攻撃班が実行犯の車を追う一方、ホー巡査たちは“影の男”を追跡するが……

[感想]

 極めて高い娯楽性と映像センス、アクションとサスペンスの巧みな表現により国際的に支持されているジョニー・トー監督は、クリント・イーストウッド三池崇史と同様に、同じスタッフやキャストを繰り返し起用する傾向にある。そうしてトー監督の作品に多く携わり、“トー組の頭脳”と呼ばれているのが本篇で監督デビューを果たした脚本家ヤウ・ナイホイである。

 長年に亘ってパートナーシップを築いていたのだから当然とも言えるが、本篇はほとんどジョニー・トー監督の映画そのもの、といった印象を受ける。

 前述の通り、ジョニー・トー監督は基本的に同じスタッフ・キャストを続けて起用する傾向にあるが、本篇は主役級にサイモン・ヤムとレオン・カーフェイというお馴染みの名優が並び、脇役でもラム・シューやマギー・シュー、他にも随所にジョニー・トー作品で見覚えのある俳優が顔を連ねている。そのうえ舞台も、『ブレイキング・ニュース』に登場したアパート正面の道路や、『PTU』などに登場した路地が見える。ファンが何の情報もなしに本篇を見せられたら、間違いなくトー監督の作品だと思いこむはずだ。

 しかしその一方で、ストーリーテリングの巧みさ、という点については、(これまた当然の話ではあるが)ジョニー・トー監督作品と相通じるものを匂わせながら、むしろ洗練された手触りがある。説明は最小限に、謎めいた手管でじわじわと情報を伝えていく語り口に、くっきりとした人物像。派手などんでん返しこそないものの、理知的な駆け引きが生み出す緊迫感と、巧妙な伏線が織り成す終盤のカタルシスは、ヤウ・ナイホイの脚本によるジョニー・トー作品以上に完成度が高い。

 本篇はサイモン・ヤム演じる追う側の“犬頭”と、レオン・カーフェイ扮する追われる側の“影の男”の洞察力対決のような様相を示しているが、同時にこの両者に挟まれた格好の、ケイト・ツイ演じる新人捜査官の成長物語的な組み立てをしていることが大きなポイントだろう。才能はあるが経験の乏しい彼女の目線で、監視班という仕事の辛さ、意義を描きつつ、未だ仕事に慣れないが故の無垢な眼差しが、敵方の狡智と凶暴さを巧妙に浮き彫りにしている。終盤の展開が、職業的な冷静さを描きつつも感動を呼び起こすのは、本篇が彼女の目線で綴られているからに他ならない。ほとんどジョニー・トー監督作品と言っても不思議のない本篇の大きな違いは、彼の犯罪や警察組織の絡んだ作品群がまといがちな“男のドラマ”という雰囲気と一線を画す女性目線にある、と言えるかも知れない。そこに色恋の要素は含まれず、無理に女性的な側面を強調していないからこそ、却って自然に差違が生まれている。

 幾分犯人が凶暴すぎ、クライマックスで銃撃戦になるあたりがいささか過剰に思えるが、しかし本篇のタッチは終始知性的で、細かな描写ひとつひとつにリアリティが滲んでいる。だからこそ、よもや、という終盤の逆転と、劇的なクライマックスが強い衝撃を齎すのだ。そのうえで、自らの職分を全うしたことを感じさせる、ヒロインの行動が非常に潔く映り、結末に清々しさが漂う。

 良質のクライム・サスペンスにして、決して情だけに揺さぶられない強さを描いた成長物語である。ジョニー・トー監督作品を好む人には無論のこと、直感的な犯罪ものや感情に走りがちな成長物語に飽き足らなかった向きにお薦めしたい。

関連作品:

ザ・ミッション/非情の掟

PTU

マッスルモンク

エレクション〜黒社会〜

エレクション〜死の報復〜

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