『MAD探偵 7人の容疑者』

『MAD探偵 7人の容疑者』

原題:“Mad Detective 神探” / 監督&製作:ジョニー・トー&ワイ・カーファイ / 脚本:オー・キンイー、ワイ・カーファイ / 撮影監督:チェン・シュウキョン、トー・フンモ / 美術:レイモンド・チャン / 編集:Tina Baz / 音楽:ザヴィエル・ジャモー、フレッド・アヴリル / 出演:ラウ・チンワンラム・カートン、ケリー・リン、アンディ・オン、チョン・シウファイ、ラム・シュー、エディ・コー、フローラ・チャンジョー・クーク、リー・クォックルン、カレン・リー / 配給:彩プロ

2007年香港作品 / 上映時間:1時間29分 / 日本語字幕:風間綾平 / PG12

2011年2月19日日本公開

公式サイト : http://mad-tantei.com/

新宿K’s Cinemaにて初見(2011/02/19)



[粗筋]

 西九龍署刑事課に勤めていたバン(ラウ・チンワン)は非常に優秀な刑事だったが、しかしその捜査方法はあまりに風変わりだった――犯行手段を再現し、被害者が死の直前に追い込まれたのと同じ境遇に自分を置くことで、犯人像を感じ取る。その的中率は非常に高かったが、それと同時に彼は厄介なもうひとつの能力を抱えていた。

 バンは、人間の本性を、実際の年齢や性別とは無縁に、ヴィジュアルの形で見ることが出来る――そして、その本性の放つ声を聴くことが出来るのだ。それ故の奇妙な振る舞いが、バンを孤立させ、彼を追い込み、結局警察を逐われることになる。

 バンが職を辞して5年、僅かな期間だが一緒に働いたことのあるホー刑事(アンディ・オン)が、捜査協力を求めて彼を訪ねてきた。

 現在、管内で難しい事件が発生していた。1年半前、ウォンという刑事が、とある事件を追っている途中で忽然と姿を消す。以来消息は掴めないままだったが、最近、管内で立て続けに発生し、死傷者を出している強盗事件で用いられた銃弾が、ウォン刑事に支給された拳銃から発射されたものと特定されたのだ。

 ウォン刑事が失踪した当時、彼と組んでいたコウ刑事(ラム・カートン)が鍵を握っていると見て、ホーは彼の背後を探っているが、はっきりとした証拠は見つからない。かつてバンに支給されていた拳銃を使っていたホーは、それで彼のことを思い出し、協力を求めた。

 鬱屈した日々を送っていたバンは、ホーの頼みに応じて捜査に乗り出す。だが、彼の振る舞いは現役時代よりも更に奇矯なものになっており、ホーを翻弄した――

[感想]

エグザイル/絆』などの諸作で、男の美学を描くことに長けた監督、という印象をもたらしているジョニー・トー監督だが、しかし一方で、そうしたイメージに反発するような奇妙な作品も撮っている。すれ違い続ける男女の姿をユーモラスに切り取る『ターンレフト ターンライト』や、異様な犯罪者と戦う異能の元僧侶の活躍を描いた『マッスルモンク』がその代表格だが、その両方でトー監督が組んでいるのがワイ・カーファイだ。

 そのカーファイ監督とトー監督が『マッスルモンク』以来4年振りに組んで撮った本篇は、ある意味で『マッスルモンク』を彷彿とさせる、しかし更にひねくれた怪作となっている。

 主人公が異能の人物、という点では『マッスルモンク』と共通するが、外観が異様であったあちらに対し、本篇は素行が最初から常軌を逸している。捜査と称して、署内に豚の肉を吊るしナイフを振るい、スーツケースに自分から入って階段に突き落とさせる。更に、退職する上司に、自分の耳を削ぎ落として渡すくだりには慄然とさせられる。明らかにゴッホのエピソードを意識したこの描写で、バンという男の特異な人間性をまず実感させるところから物語を始める。

 しかし、肝心の事件の導入部分はむしろ正統的な刑事物の趣がある。刑事の失踪事件と、一緒に消えた銃の痕跡が発見されるところから迷宮に踏み込む様は如何にもありそうで興味を惹かれる――が、バンが本格的に容喙すると、途端に予測不能の流れに突入する。そもそも再登場のときの出来事からして意味深だが、その真相が次第に透け見えるようになると、およそこれまでに観たことのないような“捜査”へと突入する。

 発想のユニークさもさることながら、それを観客に浸透させる手管、その設定を活かした事件の推移が実に絶妙だ。バンには、事件と同じ状況に自らを置いて真相を直感する、という手法以外に、より特異な能力があるが、これを事件への理解のみならず、バン自身の懊悩にも用い、更には映画としての非常に独創的なヴィジュアルにも援用している。

 秀逸なのは中盤、バンとその“妻”、ホーと彼の恋人ジジ(カレン・リー)を絡めた会食の場面だ。ホーが店に来るときに乗ってきたバイクを用いたやり取りは、バンの異常さと同時に彼の鬱屈と裏腹な純粋さを匂わせる一方で、後半の展開の鍵となるホーの変化をも巧みに織りこんでいる。全篇が終わったあとでこのシーンを脳裏に蘇らせると、その繊細さに唸らされるはずだ――ついでながら、ジョニー・トー監督がやたらとこだわりを見せる食事のシーンでもある点にこういう趣向を持ち込むあたりが、最近集中して彼の作品を追っていた目には憎く映る。

 そうして変化を繰り返した状況を踏まえた、熾烈な戦いの描かれるクライマックスの見せ方も素晴らしい。独創性と意外なほどの美しさはトー監督らしさを窺わせるが、特異なのはその締め括りである。人によっては割り切れない想いを抱くかも知れないが、しかし一連の描写を踏まえた知性的で不条理、かつ暗い笑いをもたらすこのラストシーンは、他のシチュエーションでは作り出せない。

 細かな描写にジョニー・トー監督らしさと、彼がワイ・カーファイ監督と組んだときのアクが滲み、それでいて物語は周到に組み立てられクセのある結末を迎える。論理的な推理が展開されるわけではないが、独創的な設定とそれを活かしたストーリーは、トー監督のファンのみならず、一風変わったミステリを愛好する人なら一見の価値はある――受け身でも伝わるようなストーリーや、明白な決着を求めるような人には、間違ってもお薦めはしないが。

関連作品:

フルタイム・キラー

ターンレフト ターンライト

マッスルモンク

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

ヒーロー・ネバー・ダイ

暗戦 デッドエンド

デッドエンド 暗戦リターンズ

エレクション〜黒社会〜

エレクション〜死の報復〜

スリ

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