『バンド・ワゴン』

バンド・ワゴン 特別版 [DVD]

原題:“The Band Wagon” / 監督:ヴィンセント・ミネリ / 製作:アーサー・フリード / 共同製作:ロジャー・イーデンス / 脚本:ベティ・コムデンアドルフ・グリーン / 撮影監督:ハリー・ジャクソン / プロダクション・デザイナー:プレストン・エイムス、セドリック・ギボンズ / 編集:アルバート・アクスト / 衣裳デザイン:メリー・アン・ナイバーグ / 音楽:ハワード・ディーツ、アーサー・シュワルツ / 音楽監修:アドルフ・ドゥイッチ / 出演:フレッド・アステアシド・チャリシー、ジャック・ブキャナン、オスカー・レヴァント、ナネット・ファブレイ、ジェームズ・ミッチェル、ロバート・ジスト / 配給:MGM / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

1953年アメリカ作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:加賀田慶子

1953年12月15日日本公開

2007年6月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/02/24)



[粗筋]

 トニー・ハンター(フレッド・アステア)はかつて一世を風靡したミュージカル俳優だが、今やすっかり過去の人扱い。当人もそのことを自覚し、友人である作曲家レスター・マートン(オスカー・レヴァント)と作家兼女優のリリー・マートン(ナネット・ファブレイ)夫妻に招かれたのを幸い、ニューヨークに拠点を移す。

 マートン夫妻はトニーの捲土重来を期して、新しい台本と共に、現在注目を集めている俳優ジェフリー・コルドヴァ(ジャック・ブキャナン)の協力を取り付けていた。ジェフリーはさっそく乗り気になり、更にバレエ界の新たなプリマ、ガブリエル・“ギャビー”・ジェラルド(シド・チャリシー)をトニーの相手役として招き入れる。

 傍目には豪華絢爛なこの企画は、ジェフリーのプレゼン能力も手伝って無事に出資者も集まり、さっそく新作舞台『バンド・ワゴン』の準備が始まった――が、しかし、あまりにアクが強く、専門分野も異なる面子を寄せ集めたこの舞台は、稽古の段階から繰り返し障害にぶつかる。マートン夫婦の構想ではコメディ要素のあるミュージカルだったはずが、ジェフリーによって“現代版ファウスト”という部分が拡大解釈されて、ちぐはぐな内容になる一方で、トニーは共演者ギャビーと彼女の恋人である振付師ポール・バード(ジェームズ・ミッチェル)が持ち込むバレエ・スタイルにどうしても馴染めない。

 それでもトニーは、同じダンサーとしてギャビーと対話し、どうにか息を合わせていくが、舞台の内容のほうはますます混沌としていく……

[感想]

 MGM創立50周年を記念し、MGMが誇るミュージカル映画の名場面を集めて作られた『ザッツ・エンタテインメント』のなかで、最も印象的に採り上げられているのはフレッド・アステアと、彼の後期の最高傑作と呼ばれる本篇である。その事実だけでも、本篇がMGMのミュージカルを愛する人々から敬愛されていることが窺えるが、実際に全体を通して鑑賞すると、非常に納得がいく。

 ストーリー自体はごくごく単純であるうえ、伏線の工夫もさほど凝らしていないので、決して完成度は高くない。作中作の『バンド・ワゴン』の実態が結局最後まで謎のままであるのはいいとしても、明らかに脚本、演出が支離滅裂なまま話が進んでしまったり、公園の結果に対する登場人物の反応が奇妙だったりと、ところどころ不自然な描写が目立つ。

 ただ、ショウ・ビジネスに携わる人々の実態をうまく捉え、ユーモラスに誇張しているので、不自然だと思いつつも惹きつけられてしまう。出資者相手に、実態と異なる上演内容を熱心に説明するジェフリーの姿を、別室で待機しているトニーたちが扉越しにときおり隙見するくだりや、開演前日のあまりに破綻した様相などは出色だ。

 その成果はどうあれ、それぞれの信じる芸術に邁進する芸術家たちの姿の熱意、清々しさが全篇に横溢していて、実に快い。そうして我を主張しているからこそ、最後に一体となって、本当に満足のいくミュージカル作りに臨む姿が、観客にも喜びを共有させてくれるのだ。

 そして、こうした物語の中心人物たるトニーを演じたフレッド・アステアが、陶酔してしまうほどに素晴らしい。自身を反映したかのような主人公像を、微かな悲哀を漂わせつつも、決して観る側に重苦しく感じさせず、終始軽快に演じているのは無論のこと、彼の絡むダンスシーンの華麗さは、どれほどの讃辞を連ねても表現出来そうもない。天賦の才に弛まぬ努力を窺わせる、キレのいい動きと完璧な構成の為されたダンスの数々は、繰り返し鑑賞したくなる。ニューヨークに着いた直後の、靴磨きの男性との実に息の合ったコラボレーションの完璧さ、共演者ギャビーと心を通わせる夜の公園での歌さえなくひたすらに踊るくだりの饒舌さ、そして最後の公演での、ダンスとアクションを融合したシークエンスの迫力など、そこだけを切り抜いても絶品だ。

 いささか勢いまかせの作りであるし、どうせならもう少し余韻のある締め括りをして欲しかった嫌味はある。だが、そうした様々な欠点を気にさせないほどに魅力的で爽快、観終わるのが惜しく思えるほどに愉しい1本である。

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