原題:“Cars 2” / 原作:ジョン・ラセター、ブラッド・ルイス / 監督:ジョン・ラセター / 共同監督:ブラッド・ルイス / 脚本:ベン・クイーン / 製作:デニス・リーム / 編集:スティーヴン・シェイファー / プロダクション・デザイン:ハーレイ・ジェサップ / スーパーヴァイジング・テクニカル・ディレクター:アプルヴァ・シャー / スーパーヴァイジング・アニメーター:ショーン・クラウス、デイヴ・マリンズ / 撮影監督:シャロン・キャラハン / キャラクター・アート・ディレクター:ジェイ・シャスター / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 声の出演:ラリー・ザ・ケーブル・ガイ、オーウェン・ウィルソン、ボニー・ハント、トニー・シャローブ、グイド・クアローニ、マイケル・ケイン、エミリー・モーティマー、ジェイソン・アイザック、エディ・イザード、ジョン・タトゥーロ、ルイス・ハミルトン、トーマス・クレッチマン、ジョー・マンテーニャ、ピーター・ジェイコブソン、フランコ・ネロ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ブルース・キャンベル、ポール・ドゥーリィ、ジョン・ラッツェンバーガー、キャサリン・ヘルモンド、ジェニファー・ルイス、チーチ・マリン / 声の出演(日本語吹替版):山口智充、土田大、大塚芳忠、朴路美、落合弘治、宗矢樹頼、中村秀利、花輪英司、青山穣、津久井教生、戸田恵子、福澤朗、森田順平、石田太郎、パンツェッタ・ジローラモ、小形満、後藤哲夫、ソフィア・ローレン、沢田敬子 / 配給:Walt Disney Studios Japan
2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:森本務
2011年7月30日日本公開
公式サイト : http://www.cars2.jp/
TOHOシネマズ日劇にて初見(2011/08/06)
[粗筋]
ラジエーター・スプリングに、英雄マックイーン(オーウェン・ウィルソン/土田大)が久々に帰ってきた。メーター(ラリー・ザ・ケーブル・ガイ/山口智充)は大はしゃぎし、親友のために色々な楽しみを企画する。本当は恋人サリー(ボニー・ハント/戸田恵子)とのデートを愉しみにしつつも、マックイーンは親友の大歓迎に付き合う。
マックイーンが帰還したその晩、テレビではワールド・グランプリ開催のPR番組が放送されていた。優勝候補と目されるマックイーンが休暇のために辞退したことを、ライヴァルと見做されているF1レーサー、フランチェスコ・ベルヌーイ(ジョン・タトゥーロ/宗矢樹頼)に揶揄されているところを目撃したメーターはたまらず番組に電話をかけ、親友を庇う。慌てたマックイーンは受話器を奪って取りなすが、話の成り行きで、ワールド・グランプリに出場することが決まってしまった。サリーに促され、マックイーンは初めてメーターをツアーに同行させる。
グランプリは世界の3都市を舞台に開催されるもので、最初のレースは日本、東京で行われた。メーターは初めて触れるエキゾチックな文化に興奮し、レース直前のパーティでもはしゃぎまわるが、ラジエーター・スプリングと同じテンションで行動する彼の姿が、マックイーンに恥をかかせていることに、彼はなかなか気づかない。
さんざん醜態を晒した挙句、オイル漏れを起こしたと疑われてトイレに駆け込んだメーターは、個室の外で揉み合っていた連中と遭遇する。1台のアメリカ車に難癖をつけていたクラシック・カー2台はメーターの登場に気勢を削がれた格好で引き下がるが、このとき既にメーターは、とんでもないトラブルに巻き込まれていたのである。
そんなこととはつゆ知らずに迎えたレース本番で、だがメーターはそのトラブル以前に、衝撃的な事態に見舞われてしまう……
[感想]
この作品の狙いは非常にはっきりしている。ピクサーの2006年作品『カーズ』の世界観でスパイものを作る、ということだ。もっと端的な表現をするなら、それ自体がスパイであるボンド・カーの活躍を描くことがそもそもの目的である、と言い切っていい。
主役はあくまでメーターであるため粗筋では省いたが、スパイものを志向したのはプロローグの時点で明白だ。海の真ん中にある油田に潜入するのは、イギリスの諜報部員フィン・マックミサイル(マイケル・ケイン/大塚芳忠)。全身に仕込まれた特殊なギミックで隠密行動をし、謎を嗅ぎつけ、敵に発見されると派手な手段で抵抗し、脱出する。クルマ自体が意識を持っている、という前提を抜きにすれば、普通にスパイ映画の見せ場になっている。
その狙いは面白いし、その上でいわゆるスパイ映画のツボとなる見せ場、たとえば奇想天外なアイテムであったり、如何にもといった感じの悪役たちが張り巡らせる陰謀の謎、絶体絶命のピンチに意外な真相、といったものを余すところなく拾い、組み込んだのは見事だ。
ただ、正直なところ、この組み込み方には失敗している、という印象も否めない。作品の根幹を為す発想はスパイものだが、物語はあくまで前作『カーズ』のキャラクター、前作の主人公マックイーンと、愛嬌のある造形でマックイーン以上の人気を博し実質的に今回の主役となっているメーターが中心となっている。活躍の場所は東京、パリ、リヴィエラ、ロンドンと世界各地に広がっているが、メインの彼らの感覚は基本的に“故郷”であるラジエーター・スプリングに留まっている。
その感覚が、どうもスパイものとうまく馴染んでいない。ピクサーの作品は3Dアニメーションの技術のみならず、脚本においても安定した質を誇っており、本篇も決して矛盾を来したり、雑さを感じさせない仕上がりにはなっているが、彼らにはこうした隠密行動、何か大きなものを背負った活躍というのがあまり似合わない。如何せん、第1作の舞台であるラジエーター・スプリングの長閑な空気を、メーターもマックイーンも払いのけていないのだ。キャラクターがぶれていない、という意味では評価出来るところだが、テーマと合っているか、と考えると望ましいことではない。
他方で、スパイものとしてもいまひとつ、という印象が拭えない。確かに、求められる要素は詰めこんでいるように感じられるが、それはあくまで古典的なスパイ映画、ジュヴナイル的な愉しさを持つ冒険ものの要素なのだ。ピアース・ブロスナンの『007』シリーズの面白さはあっても、ダニエル・クレイグの『007』とは異なる。無論、その良さを充分汲み取っていることは認めるのだが、話の呼吸までが古いスパイもののムードを帯びてしまっている。見せ場では派手な描写が認められるが、全般ではどうもテンポが緩い。メーターとマックイーンの友情にまつわる場面のゆったりとした描写と相俟って、主題のわりに展開が悠長に映ってしまうのだ。
このキャラクター、この発想をまとめたものとしては、最上の仕上がりであることは間違いない。それは素晴らしいことだが、本当ならどちらか片方にするべきだったのではないか、と思えて仕方ない。前作のキャラクターを引き継いだものなら、もっと彼らの価値観に合ったストーリーを用意するべきで、『カーズ』という世界観の上でスパイものをやりたいのなら、マックイーンやメーターは脇役に割り切って用い、フィンたち本職のスパイを完全にメインにするか、本篇のメーターに当たる役割も、まったく新しいキャラクターに演じさせるべきだったのではないか。
とはいえ、現実にはあり得ない世界、設定を丹念に描き出し、心地好い異世界へと運び込んでくれるピクサーの手際そのものは安定している。『WALL・E/ウォーリー』や『トイ・ストーリー3』あたりの完成度を求めてしまうと物足りなさは禁じ得ないが、下手な実写のアドヴェンチャー映画などより遥かに安心出来る娯楽作品であることは確かだ。彼らの醸しだす暖かな空気に、ゆったりと浸って鑑賞して欲しい。
関連作品:
『カーズ』
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