『バカリズム THE MOVIE』

シネマート六本木エントランス脇に設置されていたポスター。

ほぼ監督&脚本:バカリズム / 演出&プロデューサー:住田崇 / 出演:枡野英知、津田寛治山崎樹範鎌苅健太石井智也、渡辺哲、岡野真也BOSE池田鉄洋 / 配給:Sony Music Entertainment

2012年日本作品 / 上映時間:約1時間50分

2012年5月26日日本公開

公式サイト : http://www.bakarhythm-themovie.com/

シネマート六本木にて初見(2012/05/26) ※初日舞台挨拶つき上映



[粗筋]

“(株)ROCK”

 矢吹英二(津田寛治)が中途入社したのは、荒くれ者ばかりの問題企業だった。入社早々目をつけられながらも、矢吹は平社員、課長、部長と迫り来る同輩・上司たちを薙ぎ倒し、一気に出世街道を昇りつめていく……

“メンコバトラーM”

 メンコをこよなく愛し、悪事に利用することを許さない少年升野(枡野英知)、通称メンコバトラーM。その手腕が見込まれ、升野はメンコバトルトーナメントに招かれた。宿命のライヴァルとの戦いはやがて宇宙にまで発展し、升野は遂に最強の敵と対峙する……

“トップアイドルと交際する事への考察”

 トップアイドルと交際することには、どんな利点があり、どんな不利益があるか? 男は喫茶店で、どうでもいい会話を繰り返すカップルを横目に、考察を繰り広げていく……

“魔スノが来たりて口笛を吹く”

 内気な少年・魔スノ(枡野英知)は転校先でどうにか友達を作ろうと、努めて陽気になろうとするが、初日からクラスのガキ大将・ガマ山に騙され、体育の時間にひとりブルマで出席する、という醜態を演じてしまう。クラスメイト、ひいては憧れのマドンナにまで嘲笑された魔スノは、秘められた力を用いて復讐を試みる……

“帰ってきたバカリズムマン”

 とってもお高い苺を食べることで変身する果実サイボーグ・バカリズムマン(枡野英知)。ピーマンの化身である怪人ボーズ(BOSE)が宿敵なのだが、今回の相手は勝手が違っていた……

[感想]

 お笑い芸人バカリズムこと枡野英知は、実は映画専門学校出身らしい。にもかかわらず、映画を撮っていない、それどころか映画に対して格別な興味がない、というところに注目して、『バカリズム THE MOVIE』と題した、枡野監督が映画を撮るまでのメイキングを先に公開してしまう、という趣旨のテレビ番組が放映された。どうも当初は監督自身がネタと思っていたようで、なかなか進行しなかったのだが、やがて企画者が本気であったことが判明し、通常の映画製作ではあり得ないほどの急ピッチで作られたのが本篇であるという。

 ……というところまで含めて、恐らくは意図されたネタではなかったか、と個人的には疑っているが、制作が一般の映画とはかけ離れた、極端なほどの短期間で撮影されたのは事実のようだ。ツイッターでは私が観賞する当日の朝(!)まで編集作業を行っていた痕跡が窺えるし、内容的にもかなり粗い。

 全篇通して、最もインパクトがあるのは冒頭の“(株)ROCK”だろう。漫画では定番と言える不良もののシチュエーションを会社に置き換えて繰り広げられるストーリーは、定番をトレースしているからこその面白さと、そのアイディアを活かした決着が実に効いている。とはいえこれも、そもそものネタがすべてのアイディア、場面を必然的に提示してしまうので、意外と苦労はなかったかも知れない。

 あとは、やたらと入り組んでいる“トップアイドルと交際する事への考察”、基本的なデザイン以外はアニメーションの製作会社が苦労したであろうことを想像させる“メンコバトラーM”がやたらと凝った印象だが、これらは他のスタッフが加わっているから、という部分も大きいように思う。“魔スノが来たりて口笛を吹く”はアイディアをうまく膨らまし切れず消化不良になっているし、“帰ってきたバカリズムマン”に至っては、別の番組で扱っていたネタの続篇という体裁で、初見だと正直なところ戸惑いが大きい。もし通常の映画なみに予算――はともかく、もう少し時間を費やしていれば、もっと洗練させられたのではないかと感じる仕掛け、たぶん排除されていたネタもあったのではないか、と思うと残念ではある。

 ただ、だからといって退屈なわけではない。荒削りながらも、バカリズムのネタに何度か触れた者なら、如何にも彼らしい機知のある内容に仕上がっており、間違いなく彼独特の笑いが詰まっている。構成では冒頭に置かれた“(株)ROCK”では、独特の存在感を発揮する津田寛治を存分に活かして、定番ネタのパロディでたっぷり笑いを取ったあと、絶妙のタイミングで自分を利用して締めくくる。“メンコバトラーM”はあからさまに『ゲームセンターあらし』を元ネタに様々な仕掛けを凝らし、作画枚数を抑えながら本当にあっても不思議でない独特の世界観を築き、これもちゃんと笑いに結びつける。“トップアイドル〜”の実に穿った考察などまさに彼の独壇場の趣だ――この作品はクレジットによれば、バナナマンのコントなども担当する放送作家のオークラが脚本に協力していて、それがいっそう内容を研ぎ澄ませたのかも知れない。

 終盤2本はそう考えるとかなり緩めとは言い条、細かく笑いを拾っていく技に抜かりはない。なまじ小綺麗にまとめようとしていないからこそ満ちるドライヴ感は特に“魔スノ〜”に顕著で、“バカリズムマン”の手抜き感も狙いすました心地好さがある――誰にとっても魅力的、とは言えないが、もともとお笑い、コメディ映画の類は合う合わないの差が大きいものだ。

 テレビなどで観るバカリズムのネタを面白いと思うようなひとならや、バラエティ特有の雑多な愉しさを素直に受け止められるひとなら、問題なく楽しめるだろう。オーソドックスな映画とは異なる作り方が生み出す、奇妙な勢いの良さ、ネタ職人ならではのふんだんにちりばめられたアイディアの愉しさに満ちた作品である。普段お笑いに馴染んでいないひとでも楽しめる――かどうかはちょっと断言しにくいが、なかなか得がたい魅力があるので、監督には是非とも定期的に新作を撮っていただきたい。同様のオムニバス形式でも、一定の尺のある長篇でも、きっと他の映画にはない趣向をちりばめた作品を繰りだしてくれるだろうから――無用なプレッシャーをかけている気もするが。

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