『未来警察 Future X-Cops』

シネマート六本木、スクリーン外の通路に掲示されたポスター。

原題:“未來警察 FUTURE X-COPS” / 監督&脚本:バリー・ウォン / アクション監督:チン・シウトン / 製作総指揮:ハン・サンピン / 撮影監督:キョン・クォッマン / 編集:カー=ウィング・リー / 音楽:レイモンド・ウォン / 出演:アンディ・ラウ、バービー・スー、シュー・チャオ、ファン・ビンビンマイク・ハー、ルイス・ファン、マー・チンウー / 配給&映像ソフト発売元:AMGエンタテインメント

2010年香港、台湾合作 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?

2012年5月19日日本公開

2012年8月3日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://ameblo.jp/miraikeisatsu/

シネマート六本木にて初見(2012/06/09)



[粗筋]

 2080年、香港。ドームで覆われ、天候が管理されたこの都市は、マー博士が開発した新エネルギー理論によって繁栄を盤石のものにしようとしていた。

 だが、そんな博士を、利益を失いつつある石油企業の放った刺客が狙っている。香港警察に所属するジーハオ(アンディ・ラウ)は公の場に姿を現すマー博士を万全の態勢で警護したが、カーロン(ルイス・ファン)たちサイボーグ化した刺客に圧倒され、マー博士の命は辛うじて守ったものの、同じ職場で働く妻メイリー(ファン・ビンビン)を殺され、ジーハオは慟哭する。

 石油企業はどうにか利権を死守すべく、現代ではなく過去に遡り、幼いマー博士を殺害して歴史を変えることを計画した。その動きを察知した警察も、捜査官を派遣することを決める。立候補したのは、妻の復讐に燃えるジーハオであった。彼は自らの身体をサイボーグに造り替え、暗殺者たちが飛んだと見られる時期より少し前に遡って、過去へと潜入する。

 時は2020年。ジーハオはこの時代の警察に職を得、無能を装い身を潜めていた。

 可能な限り歴史を変えないようにすること、という厳命のため、サイボーグ化した肉体の真価を発揮する機会はなかったが、強盗犯を追っていたとき、やむを得ず超人的なパワーで犯人たちをねじ伏せた現場を、不覚にも撮影されてしまっていた。盗撮したのは、ジーハオのひとり娘チチ(シュー・チャオ)の同級生で、ジーハオをヒーローと賞賛するチチの嘘を暴くため、彼を探っていたのである。

 チチの同級生たちはジーハオを武術の達人と思い込み、彼に師匠になって欲しいと懇願した。やむを得ずジーハオはその願いを受け入れたが、これが意外な事件のきっかけとなってしまう……

[感想]

 近年の香港映画の成熟ぶりは著しい。かつては、アイディアの模倣を防ぐという名目で、ろくにシナリオを作ることもせずに撮影を行い、結果として偶然の手助けなくしてはうまく整合性も保てないような作品が多かったが、ツイ・ハークジョン・ウーといった先進的なアクション描写を開発した監督らの台頭を契機に、“香港ノワール”とも呼ばれるサスペンスとヴァイオレンスの濃厚な作品群が相次いで発表されるようになり、ジョニー・トーリンゴ・ラムといった監督らがこれらを成熟させていった。近年、ここに名前を挙げた監督らの作品は、なまじのハリウッド作品などよりも遥かに優れた見応えを備えたものばかりになっている。香港の中国返還を機に、中国の歴史を描いた大作もこうした才能を軸に撮影され、今や花盛りと言っていい。

 そういう前提で本篇を鑑賞すると――正直ビックリする。VFXを大量に導入し、セットや衣裳に拘ったヴィジュアルには、如何にも予算がかかっている、という印象を受けるが、しかし内容的には、前述したような成熟はあまり窺えない。

 しかし勘違いしないでいただきたいのは、この表現は決してまるっきり悪い意味ではないのだ(多少悪い意味を含んでいるのは認めるが)。恐らく本篇は、子供も楽しめるジュヴナイル的な様式を採り入れる、という意志のもとに作られている。

 だから本篇の意匠は、いい意味でも悪い意味でも幼稚だ。過去に遡って歴史を改変するという発想に、そのために暗殺者も警察官もサイボーグになる、という趣向。身分を隠して過去に潜伏していた主人公が、子供たちにその正体を目撃されるが、子供たち特有の考え方によって救われる、という展開も、実にジュヴナイルめいている。

 サイボーグ同士の戦いの趣向とその描写も、一般的なカンフー映画、アクション映画の迫力や壮絶さよりも漫画的な荒唐無稽さに彩られている。予算は投入されているようだし、クオリティも高いが、発想や表現は、いっそ日本における日曜朝の特撮番組めいていると言っていい。

 面白いのは、その一方でドラマの見せ方にはところどころ、憎らしいばかりの巧さをちらつかせていることだ。過去に遡ったのちの物語の軸に、“マー博士を探し出す”というものがある。どういうわけか、守るべきマー博士の居場所を掴めず、そのためにジーハオも暗殺者も手をつかねている面があるのだが、このアイディアを活かして物語を一転二転させるプロットの妙はなかなかのものがある。終盤にさしかかって明かされる“秘密”の、ある程度は整合性を考慮したうえでの意外さや、結末の切ない余韻も悪くない。

 ……しかし、こうした美点は反面、SFとしての考証不足が多すぎて、すこし目敏い観客だと、いちいち引っかかってしまうのも事実だ。過去に遡る前に、どうして当時のマー博士の所在を確認しておかない、というのはだいぶ訝しいし、最後の意外性についても、考えてみれば理屈は成り立つが説明が足りていないし、物語としてもそもそも必要な意外性だったのか、という点で首を傾げざるを得ない。

 とはいえ、そういう肝心なところでのいい加減さはむしろ、往年の香港映画の魅力を踏襲している、とも言える。近年の映像技術と、ある程度はシナリオを作っているからこそ出来る洗練されたドラマ作りを、往年の香港映画を思わせる荒唐無稽さのうえで成り立たせる、というのは、考えてみれば他の国では真似のしようのない境地である。

 最初に述べたような、洗練し成熟に近づいた近年の香港映画だけを知っているとあまりに幼稚で、むしろ退行しているようにも感じる。だが、それ故に失われた破天荒な魅力を、大作映画でありながら蘇らせた作品、という捉え方も出来る。日本の特撮ものに抵抗がなく、かつ香港映画の無秩序な作りに惹かれているようなひとならまず間違いなく楽しめるはずだ……ってそれは相当にニッチじゃないか、という気もするが。

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