『片腕ドラゴン』

傑作カンフー映画 ブルーレイ 9号 (片腕ドラゴン 1972年) [分冊百科] (ブルーレイ付) (傑作カンフー映画 ブルーレイコレクション)

原題:“獨臂拳王” / 英題:“One Armed Boxer” / 監督、脚本&主演:ジミー・ウォング / 製作:レイモンド・チョウ / 武術指導:チェン・シーウェイ / 撮影:モウ・チェングー / 照明:パック・ワイチェン / 編集:チョン・イウチョン、チャン・ホンマン / 衣装:レイ・コイユン / 録音:チャウ・シウロン / ダビング:ウォン・ペン / 音楽:ワン・フーリン / 出演:ティエン・イェー、シンディー・タン、ロン・フェイ、マー・ケイ、レイ・ジュン、シッ・ホン、ツァイ・ホン、シェー・シン、スー・ジェンピン、シャン・マオ、ウォン・チョンチー、オー・ヤウマン、チェン・シーウェイ、マン・マン、ウォン・ウェンサン、ンー・トンキウ、チョン・イークワイ、クワン・ホン、ブラッキー・コー、パン・チュンリン、ンー・ホー / ゴールデン・ハーベスト製作 / 配給:東和 / 映像ソフト発売元:TWIN

1972年香港、台湾合作 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:?

1974年2月8日日本公開

2016年12月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|傑作カンフー映画ブルーレイコレクション:amazon]

傑作カンフー映画ブルーレイコレクションにて初見(2016/12/16)



[粗筋]

 その町では、人格者のハン(マー・ケイ)が指導する正徳武館と、裏で麻薬や売春をして荒稼ぎしている鉄鉤門とが対立していた。

 ある日、料亭で鉄鉤門の門弟が横暴な振る舞いをしているのをユー・ティエンロン(ジミー・ウォング)ら正徳武館の門弟達が目撃、見過ごせなかったティエンロンは鉄鉤門の門弟と決闘し、彼らを退ける。

 鉄鉤門の門弟達はこの件を、自分たちのほうが因縁をつけられた、と偽って師匠のザオ(ティエン・イェー)に報告、憤ったザオは門下生とともに正徳武館に乗り込み、ティエンロンの身柄を引き渡すよう要求した。ハンは私闘に及んだティエンロンを罰し、謹慎させていたが、ザオは納得せず、ここでも小競り合いが起きる。卑怯な手を用いてきたザオをものともせず打ち倒したハンだったが、これが更にザオの恨みを買ってしまった。

 ザオは正徳武館を倒すべく、様々な武術の達人を総勢10名掻き集め、殴り込みを仕掛けてきた。迎え撃ったティエンロンだが、いいように翻弄され、果てには琉球空手の達人・二谷(ロン・フェイ)によって右腕を切り落とされてしまう。

 残った者たちも、ハンを含め全員が倒されてしまった。深傷を負ったまま彷徨い出たティエンロンは、親子に匿われ、一命を取り留める。

 やがて体力を取り戻したティエンロンは復讐を考える。既に右腕を失ったティエンロンだが、あの達人達を倒すために、残された左腕を鍛え上げるのだった――

[感想]

 クエンティン・タランティーノを筆頭に多くの映画人に影響を与えた、伝説的なカンフー・アクション映画の第1作である。

 とはいえ、作られたのは1970年代の香港である(故あって監督&主演のジミー・ウォングは香港を離れねばならなかったため、台湾で作られているが)。ご多分に漏れずストーリーは雑で御都合主義、ツッコミどころが多すぎて疲れるくらいだ。

 だが、それでも確かに本篇は魅力的だ、と認めざるを得ない。それはひたすらに、観客を楽しませることに全力を注いだサービス精神によるもの、と言っていいだろう。

 今となってはさほど珍しくもないが、ひとつの映画の中でこれほどたくさんの達人が現れ、様々な武術を披露する、という趣向は間違いなく着眼だったはずだ。いま観れば、そもそもすべてを台湾の俳優が演じているのもだいぶ不自然だし、それぞれの武術の描写も正確とはとうてい言えない。だが皆がそれっぽい特徴的な技を使い、正義に属する者を翻弄し容赦なく倒していく様は、素直に感情移入の出来る観客の悪役に対する怒りを掻き立てるとともに、マニアックな観客たちを興奮させる。

 整合性、或いは良識を重んじるようなひとにとっては噴飯物の描写であっても、本篇はこういう作品を観るためわざわざ劇場に足を運ぶようなひとを楽しませるために、進んで突飛な趣向を選んでいる。それこそが本篇の、一流の作品や丁寧に組み立てられた作品にはない魅力を生み出しているのだ。

 そもそも、道場の隆盛を第一に考えるなら、余所から刺客を募るメリットなどないし、まして仕事が済んだあとまで厚遇する必要もなければ、商売との兼ね合いだってあることを思えば表立って襲撃する必要さえない。左手を徹底的に鍛え上げたとは言い条、それ以外に特殊な修行をした形跡もないのに、異様に強くなっているティエンロンだって奇妙だ。

 しかし恐らく、そんなことは製作者側も先刻承知であるか、或いは“面白ければ他のことは考慮しなくてもいい”とはなから割り切っているのだろう。その思い切りが、整合性を考慮し、丁寧に考証を施した作品にはない勢いとパワーを作り出しているのは確かだ。

 本篇が作られた同時代、既に香港にはブルース・リーがいた。彼の登場を境に、急速に発展していった香港産アクション映画における格闘描写と比較すると、本篇はその辺でも大きく見劣りはする。しかし、前述したように、各国の達人達の能力にきちんと区別をつけ、実態にこそ即していないがそれっぽい技を設定し、それぞれに特徴的な見せ場を用意しているから、演者のスタント技術や演技力に拘わらず見応えがある。特徴があるからこそ、それぞれに欠点があり、そこを突いて打破していく、という趣向も巧い。特にこのあたりはのちに日本の格闘ゲームの作りにも大きな影響を与えているのだから、非常に優れたアイディアであったことは確かだ。その発想自体は荒唐無稽でも、作中の価値観のなかでは成立するよう、ある程度の伏線を張ることをおろそかにしていないのも注目すべき点だろう。

 この頃の香港映画らしい雑然とした雰囲気を出しながらも、フィクションとしての面白さ、魅力を損なわないための配慮はちゃんと施しているのである。そう考えると、当時から多くの映画好きが魅せられ、影響を受けたのも当然のことと言える。本篇には、なにが娯楽映画を娯楽映画たらしめるか、という問いへの答がちゃんと含まれているからだ。

 確かに馬鹿馬鹿しいし、観終わったあとで何の教訓も残さない。しかし、いったん惹きつけられたが最後、確実に心に爪あとを残されてしまう。発表から40年以上経たいまでもなお、侮りがたい魅力を留めた作品なのである。嘘だと思うんなら是非とも観ていただきたい。絶対に理解できるはず――とまでは言い切れないな、さすがに……。

関連作品:

ファイナル・ドラゴン』/『炎の大捜査線』/『捜査官X』/『ファースト・ミッション

ドラゴン 怒りの鉄拳』/『燃えよドラゴン

キル・ビル Vol.1』/『キル・ビル Vol.2』/『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー

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