怪し会 拾 final at 密蔵院、千秋楽。

 初日に参加してきた“怪し会 拾”、実は最終日のチケットも確保してました……本命が日曜日だったのも事実で、あちらに参加できたなら今日の分はキャンセルするつもりでいましたが、あえなく玉砕したため、予定通り行ってきました。2日連続の新小岩経由密蔵院行き。

 これで全公演が終了したので、今回は初日の分も含めて感想を記します。

 いちおう“怪し会”としては一区切りとなる今回、演目はこれまでの公演のベスト・セレクション的に選ばれています。茶風林氏がこのイベントを企画するきっかけとなった“木守”と“桜の墓”を全日程でかける一方、これまでの公演で評判のよかったエピソードを各日ランダムに上演した。

 私が鑑賞した初日に上演されたのは“女子寮”。既に居住者が少なくなった女子寮での体験談をベースにした話。一方、千秋楽である本日かけられたのは“団地”。団地の隣家で発生した火災をきっかけとする話。どちらも、ある意味正統的な“怖い話”と言っていい。個人的には、クライマックスで悲鳴を使う類の話はあんまり好きでない(“怖い”わけではなく、演出的には出来たら避けてほしい、と思っている)だけです。とはいえ、女性ゲストの語りを存分に聞かせてくれるので、怪談朗読会の醍醐味は確かにある。

 また今回はたぶん初めて、モニターを用いた演出も加えている。舞台や小道具の映像をズバリと出してしまうことで、観客がイメージしやすくした、という意味では有効でしたが、ちょっと煩いことを言えば、映像はエピソードの時代設定に沿うものを選んで欲しかった。もちろん基本的には気を遣っていたのでしょうが、40年前にしちゃ病院のデザイン新しすぎでした。

 前半の締めはいずれも“木守”。古物商が期せず入手してしまった“キズモノ”にまつわる話です。原作者・木原浩勝氏が書籍の『新耳袋』では封印していた“呪い”に絡む話なのですが、トークライブの常連となっていた茶風林氏がお寺で怪談を披露することになった際、茶風林氏からの要請を受け、朗読という体裁なら、ということで封印を解いて脚本にしたものであり、いわば怪し会の前身となったエピソード。一区切り、という今回、メインとして採り上げるのはごく自然と言えます。怖い話である一方、背景に深い情が絡む話でもあり、声優の演技力を活かした“朗読”というスタイルにとても馴染む。

 前半はここまで、ここで場を移し、“お清め”と称した酒盛りの席へ――茶風林氏がいみじくも仰言ったように、“怪談朗読を肴に旨い日本酒を舐める会”というのがこの怪し会の本義ですから、実のところこの酒席こそが本番とも言える。とは言い条、ここでの茶風林氏やゲストによるトークとクジ引き大会が、毎回のように時間が延びる要因にもなってたりする。それだけ、楽しい席でもあるのですが。

 ふたたび本堂に戻って、第2部でお披露目されるのは、茶風林氏の思い入れも強い“桜の墓”。“木守”は茶風林氏の依頼を受けて木原氏が書き下ろした作品ですが、こちらは原作を読んだ茶風林氏が惚れ込み、誰かが映像化する前に自分が、と名乗りを上げて、この“怪し会”というイベントの端緒になったエピソードでもある。毎回、終盤には観客の鼻をすする声が聞こえてくる、かなり心に沁みるエピソードなので、これがトリに選ばれるのもまた当然と言えましょう。だからこそ、前半では要所要所での登板のみだった茶風林氏が、主人公として全篇で演じられたわけで。恐らくこの話、日によって茶風林氏以外の演者は異なっていたと思われますが、私が参加した初日・千秋楽はともに、主人公の恋人を山崎和佳奈氏が演じておられました。目暮警部の恋人が蘭姉ちゃんっていう。

 すべての演目が終わったあと、主催の茶風林氏に花束が贈られると、感極まったあまり、

「実は僕、怪談も朗読も苦手だったんです」

 とぶっちゃける。しかし、そのうえでも演じたい、という想いがいつしか10年にも及ぶ大きな企画に成長した。私も観客のひとりとして、何だかんだで12回、のべ13回も参加したわけで、感慨を禁じ得ない。

 ――と言いつつ、実は観客に手渡されるパンフレットやチラシ類に紛れた主催者名義の手紙には、新たに“酒林堂”なる酒と語りを楽しむ会の始まりが宣言されているのでした。初回は今年9月7日から8日、昨年に続き、“松江怪喜宴”の一環として上演される由。ちなみに私は、初日のパンフレットで帰宅後に確認するなり、すぐさま宿は押さえてしまいました! 3年連続だよおい!

 とまれ、怪し会そのものは無事に終幕。皆様、お疲れさまでした。基本私ゃひとりで参加してましたが、それでも豊潤な時を過ごすことができました。

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