『ワイルド・スピード MAX』

『ワイルド・スピード MAX』

原題:“Fast & Furious” / 監督:ジャスティン・リン / 脚本:クリス・モーガン / 製作:ニール・H・モーリス、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル / 製作総指揮:アマンダ・ルイス、サマンサ・ヴィンセント / キャラクター創造:ゲイリー・スコット・トンプソン / 撮影監督:アミール・モクリ / プロダクション・デザイナー:アイダ・ランダム / 編集:クリスチャン・ワグナー、フレッド・ラスキン / 衣装:サーニャ・ミルコヴィッチ・ヘイズ / 視覚効果監修:サディアス・バイヤー、マイケル・J・ラッセル / キャスティング:サラ・ハリー・フィン,CSA,、ランディ・ヒラー,CSA / 音楽監修:キャシー・ネルソン / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ヴィン・ディーゼルポール・ウォーカーミシェル・ロドリゲスジョーダナ・ブリュースタージョン・オーティス、ラズ・アロンソ、ガル・ギャドット、テゴ・カルデロン、ドン・オマール、シェー・ウィガム、リザ・ラピラ、ジャック・コンレイ、サン・カン、ミーシャ・ミッシェル、グレッグ・サイプス、ロン・ユアン / オリジナル・フィルム/ワン・レース・フィルムズ製作 / 配給:東宝東和

2009年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:岡田壯平

2009年10月9日日本公開

公式サイト : http://www.wild-speed-max.com/

TOHOシネマズ日劇にて初見(2009/10/12)



[粗筋]

 あの事件から5年後、追われる身となったドミニク(ヴィン・ディーゼル)と恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)の姿はドミニカ共和国にあった。驚異の運転技術と身体能力とを駆使したタンクローリー強奪で稼いでいたが、あまりに派手な立ち回りに目をつけられ、ドミニクは更に身を隠す決意をする。これ以上危険に巻き込まぬよう、レティに大金を残して。

 ――それから間もなくのロサンゼルス。かつてドミニクと争い、共に戦ったことのあるブライアン(ポール・ウォーカー)はFBI捜査官として、ある麻薬組織を追っていた。近年勢力を増す一派に迫るべく、多くの覆面捜査官が投入されているが、最近になって3人が相次いで殺害されている。ブライアンが決死の追跡劇の果てに辛うじて入手したのは、代理人として動いているのがデヴィッド・パークという、韓国人が頻繁に用いる英語名を持つ男である、という一事のみだった。

 同じ頃、パナマに潜伏していたドミニクは、ロサンゼルスに残してきた妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)から衝撃的な連絡を受け、危険であることは百も承知でロサンゼルスに舞い戻った。ブライアンも彼が帰還したことを嗅ぎつけるが、立場上決して接近するわけにはいかず、自分にとってかつて恋人であったミアにも接触を警戒するよう忠告する。

 だが、ドミニクがロサンゼルスに戻ってきた理由は、ブライアンが追っているものとほぼ同一であった――必然的にふたりの軌道は接近し、運命に導かれるように、またしてもアンダーグラウンドのカーレースで火花を散らすこととなる――

[感想]

 ヒットした映画は続篇が作られる。娯楽映画、とりわけアクションを主体とした作品ではその傾向が強い。2001年に発表された『ワイルド・スピード』は地下レースの大胆で危険極まりない駆け引きと、犯罪にも手を染めつつ参加する男たちの、それでも譲れない矜持を生々しく描き出し、大いなる支持を集めた結果、2作目『ワイルド・スピードX2』、3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』とシリーズ化されることとなった。

 ただ、率直に言えばこれらはあまり歓迎されたとは言い難い。シリーズ化、と言いながら2作目では捜査官であったブライアンのみが再登場し、存在感を示したドミニクは現れなかった。まして3作目ともなると、改造した車でスピードを競うアンダーグラウンドのカーアクション、という部分以外共通項がないほどで、これで1作目に惹かれた観客を引っ張り続けるのは難しい。私自身、2作目は記憶が曖昧、3作目に至っては、チェックこそしていたが敢えて観に行く気は起きず、未だきちんと鑑賞していないほどだ。

 だからこそ、第1作の主要キャストを再結集した本篇は、それだけで遠ざかっていた観客を呼び戻すだけの魅力を得ることに成功した、と言える。アメリカでの興収が僅か3日で前作の最終興行成績を上回った、という事実がそれを証明しているだろう。

 しかし、では実際の作品が、第1作に比肩するほど圧倒的な魅力を示しているか、と問われると、首を傾げざるを得ないのが率直な感想だった。地下のカーレースというお遊びに力を傾注している、という、観ていてあまり惹きこまれない状況に陥らず、命の駆け引きをしているという剣呑さ、人間関係の奥行きを窺わせるドラマは確かに盛り込まれているが、如何せん描き方がシンプルすぎるために、やたらとあっさりした印象を受ける。既に前作で人物像を確立し、そこに年輪を加えて膨らませることが可能だったヴィン・ディーゼルやホール・ウォーカーの演技はいいのだが、物語の成り行きにその奥を感じさせることが出来ていないのが残念だ。

 極力物語に沿った形で、決して唐突ではない、しかし派手なものを、と考慮して盛り込まれたことが窺えるカーアクションの数々も、そうした心配りは理解できるが、その分だけ微妙にインパクトの感じにくい仕上がりになっていることは否めない。予告篇でも使われている、炎上して横転するタンクローリーの下をくぐる場面や、公道で信号を一切無視して行うスピードレース、アメリカとメキシコの国境を越える狭いトンネル内での追跡劇、と見せ場は多いのだが、全体に突き抜けた印象がない。カット割りが多すぎて状況が把握しづらく、その危険性や迫力がいまひとつ伝わらないのが最大の原因だろう。映像としての完成度は高いのに、どうも物足りなさを禁じ得ないのだ。

 ――と、全般に辛口の評価をしてしまうが、しかしエンタテインメントとしての水準をクリアしていることは疑いない。この類のカー・アクション映画にありがちなストーリーの幼稚さ、安易さからはある程度脱して渋みはあるし、シンプルではあるが展開に趣向を凝らしており、牽引力は備えている。もっとインパクトを、という嫌味はあれど、ふんだんに盛り込まれたカーアクションは大作ならではの見応えがある。

 予定調和ではあるが、ハリウッドの常道からは微妙に外れた終盤の成り行きと余韻も忘れがたい。如何せん、印象の強かった第1作を初めて正統的に継いだ続篇であるだけに期待も大きく、その分物足りなさは禁じ得ないが、少なくとも一定の完成度に達した秀作であることは間違いない。

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