詩人として歌集や『青い山脈』『蘇州夜曲』といった流行曲、童謡を多々残した著者が、1952年から8年にわたり発表した、少女3人の“探偵団”の勇猛果敢な活躍を描いたシリーズ、最初の冒険。広告に誘われ、就職のため上京した少女が巻き込まれた陰謀に、《白ばと組》の3人が挑む。
いまや女の子が活躍する冒険活劇は大量に生み出されているが、本編は第二次世界大戦後わずか7年に執筆された、先駆けと言っていい作品らしい。
率直に言えば色々な意味で古めかしい印象は禁じ得ない。女性達の口調はやはり今とはだいぶ違うし、全般に安直さ、軽率さの目立つ登場人物たちの言動は、たとえ自由奔放な想像の賜物、と言っても少々荒っぽい。そして、《白ばと組》のそれぞれに際立った個性が、クライマックスではあまり発揮しきれていないことが物足りなく思えてしまう。
しかし、決して行儀良く常識に収まろうとしない展開の数々が、驚きと興奮をもたらすのも確かだ。物語の始まった時点では都会に憧れる純朴な少女・大平桂子が突如として陰謀に巻き込まれていく。その事情を知った《白ばと組》が機転を利かせて救出するが、桂子の存在が大きな価値を持っていることを知っている悪漢はたやすく諦めることはなく、繰り返し桂子を狙う。命を奪うことを躊躇わない悪漢との駆け引きは、手に汗握るものがある。
その上、誰もが万能でもなく、そして正義の側も悪党の側も組織として盤石ではなく、ひとりひとりの意思があるので、行き違いや暴走から生まれるドラマも随所に盛り込まれる。それぞれに才能豊かな《白ばと組》の3人でも失敗は犯すし、悪党の側に至っては、荒事は厭わずとも、お互いを完全に信頼しているわけでも、その肚を熟知しているわけでもない。裏切りや翻心が意外な展開を紡ぎ出し、あっさりと描かれたひと幕であっても読む側の想像を喚起し感情に揺さぶりをかける場面は多い。中心人物が少女であることを除けば、この時代の少年向け冒険ものの文法を押さえているのだが、その予想を上回る派手さと、小気味良くも的確な情緒の表現は見事だ。現代の読者からすると、序盤はどうしても会話の雰囲気とテンポに馴染みにくさがあるはずだが、終盤はページを繰る手が止まらなくなる勢いがある。
前述の通り、このシリーズの連載は8年に及び、大枠として5つのエピソードが存在するようだ。当時も単行本化されたのは本書に収録された第1部のみだったという。2015年から2018年にかけて部数限定で初めて全篇が単行本となり、このときにも編者として携わった芦辺拓の呼びかけにより、本書の刊行に至ったそうだ。いちおういちどは単行本化が叶ったとはいえ、西條八十の氏に限らなかった才能の一端を窺うことの出来るこのシリーズが、すべて一般流通に乗って、より多くの人の本棚に並ぶ機会が増えることを願いたい。
……ちなみに私は訳あって、書肆盛林堂より刊行されたシリーズ単行本全4巻が手許にあったりする。ここ数年ずっと立て込んでいて、機会を逸し読まないままになっていたが、何とか隙を見つけて、《白ばと組》のその後の活躍にも触れてみたいと思う……もし本書の体裁で続刊があるなら、そちらを待ちますが。
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