変わりゆく価値観の狭間で。

 プログラム切替直後の月曜日は、午前十時の映画祭14を観に行く日です。まだ作業も切羽詰まる前なので、今回は予定を調整する必要はない。
 が、いざ朝起きてみたらと妙に怠い。風邪とか明言できる症状はないのですが、やけに動くのが億劫だし、うっかりすると戻しそうな感覚もある。どうせ映画館に着いたら、あとは座ってスクリーンを観てるだけだし、それだけなら騙し騙し出かける、という選択肢もあるのですが、困ったことに今日は上映開始が9時。移動では、嫌でもラッシュアワーに当たります……それこそ、体調が悪化したら、車内で惨劇を起こしてしまう。
 悩みつつ朝食と支度をし、そうしているあいだに出掛けねばならない時間になってしまったので、様子を見つつ駅に向かうことにした。人混みに遭遇して悪寒を覚えるようなら、さっさと引き返してしまえばいい。
 しかし、駅で通勤の大群に遭遇しても、電車に乗っても、とりあえずは無事なようなので、そのまま映画館へ。予報に反して、雨はときおりぽつり、ぽつりと滴る程度でしたが、歩くのはしんどい気分だったので、地下鉄を利用して、駅からほぼ直結でTOHOシネマズ日本橋へ。
 鑑賞した午前十時の映画祭14今コマの上映作品は、小津安二郎監督作品ブロックの1本、職を見つけられない夫の理不尽な仕打ちに耐える姉と、日記から姉の古いロマンスを知ってヤキモキする妹、終戦後の変化しつつある価値観を象徴する姉妹の姿を描いた『宗方姉妹』(新東宝初公開時配給)
 戦後の小津監督としては珍しい原作つき作品ですが、題材やトーンは、その後の作品と繋がるものになっている。古くからの家族像が崩壊していくさまと、それを各々のスタンスで受容する様子を、ほぼアングルを固定したカメラで静かに、絵画的に捉えている。
 しかし、いつもの糊塗ながら、現代の人間の目で観ると、登場人物の価値観や行動理念はやっぱり古いし理不尽です。夫の冷たい仕打ちに、「いずれ時が解決する」と考え耐え続ける姉・節子はもちろんですが、妹・満里子も、当時としては先進的で新しい考え方を持っているようでいて、「女性は家庭に入るもの」という固定観念が捨て切れていない。いくぶんお転婆な人物像を反映した仕草も、のちの“ぶりっ子”っぽさが出てしまって、いまの観客には反発を抱く向きもありそう。
 ただ、姉も妹も、それぞれに異なる価値観があって、それを大きく変化しようとする時代に合わせようと模索しているのが窺える。結果として辿り着く結末は滋味深く、情感に満ちている。
『東京物語』や『秋刀魚の味』、より過酷な展開の待つ『東京暮色』などに比べるともうひとつインパクトに欠けますが、まさに小津安二郎監督作品そのものの空気感が味わえる作品でした。今コマはもう1本も初めて鑑賞する小津作品なので楽しみ。

 上映開始が早かったので、終わるのも当然早い。体調がまだ思わしくないようなら、まっすぐ帰って家で簡単な昼食を摂るつもりでしたが、どうやら状態は改善している。そこで、今日も日本橋ふくしま館に立ち寄って食事することに。
 現在、イートインは初出店の坂新。なかなかふくしままで訪れる機会はないので、初めての店が来ているときは1回は食べることにしている。試してみたところ、けっこう好みの味だったので、もしまた出店することがあれば訪ねると思う。詳しくはまた別記事に書くつもりです。

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター向かいの壁に掲示された『宗方姉妹』上映当時の午前十時の映画祭14案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター向かいの壁に掲示された『宗方姉妹』上映当時の午前十時の映画祭14案内ポスター。

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