『アリー/スター誕生』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口に掲示されたチラシ。

原題:“A Star is Born” / 監督:ブラッドリー・クーパー / 脚本:エリック・ロスブラッドリー・クーパー、ウィル・フェッターズ / 製作:ブラッドリー・クーパー、ビル・ガーバー、リネット・ハウエル・テイラー、ジョン・ピーターズ、トッド・フィリップス / 製作総指揮:ベイジル・イヴァニク、スー・クロル、ニーヤ・クイケンドール、ラヴィ・メータ、ヘザー・パーリー、マイケル・ラピーノ / 撮影監督:マシュー・リバティーク / プロダクション・デザイナー:カレン・マーフィ / 編集:ジェイ・キャシディ / 衣装:エリン・ベナッチ / キャスティング:リンゼイ・グラハム、メアリー・ヴェルニュー / 出演:レディー・ガガブラッドリー・クーパーサム・エリオット、アンドリュー・ダイス・クレイ、ラフィ・ガヴロン、アンソニー・ラモス、デイヴ・シャペル、アレック・ボールドウィン、ルーカス・ネルソン&プロミス・オブ・ザ・リアル / 配給:Warner Bros.

2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:石田泰子 / PG12

2018年12月21日日本公開

公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/starisborn/

TOHOシネマズ上野にて初見(2018/12/27)



[粗筋]

 世界的ミュージシャンのジャクソン・“ジャック”・メイン(ブラッドリー・クーパー)は、ライヴのあと、酒を呑む店を探して街に出た。ふらりと訪れたバーでは、ドラァグクイーンたちがショーを展開していたが、ジャックはその出演者のひとりに目を奪われる。

 出演者の中でただひとりの女性であった彼女アリー(レディー・ガガ)は、シンガー志望であったが、オーディションで容貌を否定されて以来、ホールの仕事をしながらときどき頼まれてドラァグクイーンたちのショーに参加し食いつないでいた。ショーのあと、アリーはジャックに誘われ、共に夜の街に繰り出す。

 次第に気を許すようになったふたりは、深夜のスーパーの駐車場で身の上話を始める。歳の離れた兄との確執や、幼少の頃から患う聴覚障害を打ち明けたジャックに、アリーは重なるものを感じた自作曲を思わず歌って聴かせる。

 翌る朝、アリーを自宅まで送ったジャックは、今夜催されるライヴに参加するよう要請する。ただのリップサービスぐらいにしか思っていなかったアリーだが、夕刻、本当にジャックの運転手が家まで迎えに来た。当初は仕事のために拒んだが、職場での扱いに不満のあったアリーは、早々に受けた謂われのない叱責に、衝動的に職場を飛び出し、ジャックの用意した車に飛び乗る。

 そしてその一夜のうちに、アリーの人生は激変した。駐車場で披露した歌にしっかりとしたアレンジを施したジャックと共に行った演奏は瞬く間にネットに拡散され、アリーの存在は世界中に知れ渡る。

 その晩のうちにジャックとも結ばれ、彼の要請でアリーはツアーに共演者として同行するようになった。やがて彼女のもとを、凄腕のマネジャーであるレズ・ガヴロン(ラフィ・ガヴロン)が訪ねてくると、単独でのデビューを持ちかけてきた。

 ジャックの薦めもあって、アリーはいよいよソロ・アーティストとして歩みはじめる。しかし、順調に見えるその一方で、静かに歯車は狂いつつあった――

[感想]

 ストーリーの骨格、要素は比較的シンプルで解り易い話である。いっそ“凡庸”と言い切ってもいいほどだ。そのシンプルな内容に力を与えているひとつが、ヒロインを演じたレディー・ガガの持つ、紛う事なきスターとしての光芒であるのは疑いない。

 しかしその光芒に意味合いと説得力をもたらしているのが、歌唱シーン以外で見せる、意外なほどに繊細な演技である。初めてスクリーンに姿を現す彼女は、スタイルはいいが本当にどこにでもいる、アーティスト志望の若者にしか見えない。音楽への情熱は持ちながらも、既に散々世間に揉まれ、自信を失いかけている。受け入れてくれるドラァグクイーンの店で披露するショーが活き活きとしているのも、そこが唯一の居場所であることを窺わせる。そういう控えめな表情をきちんと描き、演じているからこそ、急速な成長が際立っている。彼女自身が持つスターとしてのオーラがその成長ぶりに説得力をもたらしているのは言うまでもない。

 しかしこの作品が描いているのは、華やかな成功だけではない。ヒロイン・アリーを見出し、愛したミュージシャンの存在が、物語に苦みを加えている。

 ブラッドリー・クーパーが演じるジャックは、既に成功を収めているミュージシャンだが、アルコール依存症と聴力障害、というトラブルを抱えている。映画冒頭では積極的にツアーも行い、世間的に翳りは見せていないが、しかし悪癖と持病とが確実に彼を蝕んでいる。アリーとの関係が良好であり、彼女が成功を重ねていく描写が続く一方で、ジャックの言動は次第に危うさを滲ませ、物語に苦みを沿える。そして終盤で、思いがけない悲劇をもたらす。

 レディー・ガガの華々しさが戦列だが、この凋落しつつあるスターを見事に体現したブラッドリー・クーパーの演技も光っている。自らも作曲に携わった楽曲群には本当にチャートを賑わせたのでは、と思わせるだけのパワーがあり、ステージを降りたあとの苦悩を滲ませた奥行きある表情にはベテランの貫禄さえ窺わせる。彼のキャラクターが立っているからこそ、アリーの輝きを増していく様が際立たせルト共に、その苦悩を実感のあるものにしている。

 アリーが成長していく過程それ自体はかなり飛躍があったり、現実にはあり得ない展開もあるものの、しかし本篇で描かれる、表舞台に立つ人間ゆえの葛藤や苦悩はかなり生々しい。成功していくアリーの側にしても、デビューに際して髪の色を変えたりステージでの弾き語りをやめたり、とスタイルの変更を求められ反発するくだりもあるし、物語が進むに従ってジャックが腫れ物扱いになっていくあたりもリアルだ。

 この物語は確かに、ひとりの女性がスターへと駆け上がっていくさまを描いたシンデレラ・ストーリーではあるが、同時にとてもビターなラヴ・ストーリーという側面がある。物語終盤においてある人物が下す決断と、それが導く結末は、エンドロールのあともしばし観客の心をざわつかせる。

 他人事なら、他に選択肢があっただろう、という感想を抱くかも知れない。しかし、本篇のなかで描かれた事実や感情の変遷は、どうしてもこの結末に辿り着くほかなかった。だからこそ余計に、観るものを動揺させ、忘れがたい幕引きになっているのだ。

 まるで実際にあった出来事かのように、本篇は最初から最後までずっと、アリーとジャック、それぞれの音楽が鳴り続けている。その曲想が見事に物語の内容とシンクロしているから、なおさらに観ている者の心に響く。生まれゆくスターの光と影とを見事に描きだした、最後のカットでレディー・ガガが見せる、凛としながらも哀切な表情とともに、忘れがたく心に残る名篇である。初主演で見事な存在感を発揮したレディー・ガガはもちろん、初監督にしてこれだけの作品に仕上げたブラッドリー・クーパーにも賞賛を送りたい。

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