カンフースタントの栄枯盛衰、そして未来。

 久しぶりに、本当に久しぶりに、舞台挨拶つきのチケットが確保できました。満を持して鑑賞するべく、わりあい映画鑑賞に宛てることの多い木曜日を空け……たのは、単に作業がズレ込んだせいではある。しかしここからシャカリキになって進め、翌朝5時近くにどうにか完了、それから短い睡眠、気分転換の読書と、やっぱり短めの仮眠を挟み、多少なりとも気力体力を取り戻したところで、バイクにてお出かけ。
 新宿武蔵野館にて鑑賞した本日の作品は、70年代から80年代にかけて隆盛を誇り、ハリウッドにも多大な影響を及ぼした香港流カンフー映画の舞台裏を、サモ・ハン、ユエン・ウーピンら伝説の人物をはじめ、多くのスタントマン当人、そして彼らと作品を撮った映画監督らから得た証言とアーカイヴ映像によって綴るドキュメンタリーカンフースタントマン 龍虎武師』(ALBATROS FILM配給)
 香港カンフー・アクション映画が好きな人なら、あまりにも馴染みのある名前が沢山出てきて証言してくれることがただただ楽しくて堪りません。実際の作品からの抜粋や未使用シーンを織り込みつつ、当事者の口を通して綴られる香港アクション映画の歴史は、ファンならある程度知っていることではありますが、当事者が実感をこめて、本人達の体験も含めて語るので、こうした作品を知らなくても解り易いはず。中国本土を離れた京劇の弟子たちが映画界に転身することで生まれたカンフー・アクション、それがブルース・リーという革命児の登場でブラッシュ・アップされると、彼の死による停滞から数年を経て、サモ・ハン、ジャッキー・チェンらの台頭によって80年代の隆盛へと繋がっていく。新たなアイディアを求めるあまり、どんどん危険になっていくスタントへの恐怖もありながら、困難を超えて作品を生み出す喜びも語る証言者の表情は輝いている。
 しかしそれも、経済状況や政治情勢、そして価値観の変化により、急速に衰退していく。苦悩しながらも、それでも次世代にカンフー・スタントという文化を受け継いでいくための努力が描かれますが、そういう意味では本篇もまた、その魅力を広め、未来へと繋げていく試みなのでしょう。そう考えるなら、カンフー映画ファンのみならず、たくさんの人に観てもらうべき作品なのだと思う。

 本篇上映後、公開記念の舞台挨拶が行われました。登壇者は、本篇でもインタビューを受けている、サモ・ハンのチームでスタントマンとして撮影に参加、現在は監督、武術指導、俳優としても活躍するチン・カーロッ氏に、日本から香港に渡りスタントマンとして活動、『るろうに剣心』などで日本にそのスタイルを輸入したアクション監督・谷垣健治氏。
 まさに本篇で語られた80年代香港アクション映画の、特に過酷な現場に立ち会ったチン・カーロッ氏の話を軸に進みますが、当時からアクション映画のファンであり、のちに『新宿インシデント』などで仕事も共にしている谷垣氏としばしば広東語で盛り上がってしまうため、しまいにはカーロッ氏が通訳の方に謝る場面もありました。
 興味深いのは、チン・カーロッ氏が建設中のビル7階から5人同時に飛び降りる、とんでもないスタントを体験した『ファースト・ミッション』撮影現場でのエピソードです。サモ・ハンとジャッキー・チェンが最も多忙だった当時、サモ・ハンは2作を同時に手懸け、ジャッキーもあの『ポリス・ストーリー』の製作が始まっていた。危険なスタントをやっているカーロッ氏らも大変でしたが、彼らスターは、1日おきに2つの現場を行き来していたらしい。しかもジャッキーに至っては、このビルからの落下が撮影された翌日に、『ポリス・ストーリー』でも有名な、停止したバスから犯人が転落するスタントを撮影していたらしい……無茶苦茶である。本篇でも、サモ・ハンとジャッキーはゴールデン・ハーヴェストのスタジオを奪い合うようにずっと撮影をしていた、というエピソードが披露されてましたが、具体的に補強する証言が聞けたのが嬉しい。
 かなり話が盛り上がったものの、舞台挨拶は次の回の上映前にも実施されるため、急ブレーキをかけるような格好で終了。今回、フォトセッションは観客も撮影していい、ということになったので、危機としてシャッターを押しました。来場者特典のプレゼントの抽選には当然のように外れましたけど、内容が充実していたので何の不満もありません。

新宿武蔵野館にて実施された初日舞台挨拶のフォトセッションにて撮影。左は谷垣健治氏、右はチン・カーロッ氏。
新宿武蔵野館にて実施された初日舞台挨拶のフォトセッションにて撮影。左は谷垣健治氏、右はチン・カーロッ氏。

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